雨音の中、私は今日も語り続ける
蒼機 純
語り、語られ、今日も私は今を紡ぐ 1分半
パタパタ。パタパタ。
窓に垂れる雨粒を見て、私は呟く。
「・・・・・・雨かぁ」
雨は嫌いだ。湿気で髪型は上手く決まらないし、化粧のノリも悪くなる。何より服に困る。今日が出勤日ならスカートとサンダルはないな、と頭の中で服装を考える。
だが今日は休日。私はスポン、とパジャマを脱いで、高校時代のジャージに着替えて、髪をお団子に結ぶ。
「まだまだ現役でいけるな、私。ふふ」
鏡に映る私は決めポーズを作り、自画自賛した。高校卒業から四年。今の仕事を始めてから四年。身長は少し伸びたが、日頃の努力もあってかかスタイルは維持できている。
パチン、と自らの頬を叩き、気合いを入れ直す。
「よしゃっ! 今日もやりますかねぇ」
歯を磨き、顔を洗う。化粧は・・・・・・ま、すっぴんでもいいよね。
デスクの上に置かれたパソコンを起動し、仕事用のサイトを立ち上げる。画面上にはお気に入りの絵師さんに頼んだもう一人の私がいた。
緑色のショートボブ。顔は最強に可愛い。スタイルは二次元の力を生かして、それはもう自ら「エロかわぇ」と言うほどだ。服装はレディーススーツで、背景は少し綺麗なマンションの一室。
設定は拘るほうだ、と自らの本当の部屋を見渡し、私は唇を真一文字に結ぶ。
「どうして現実はこうなるのだ」
片付けが全く付いていない部屋を見渡し、私は不条理を恨む。
そして、音声設定をONにする。
「おはよう。今日も元気? 私は今目覚めたよ」
するとコメント設定欄にぽつらぽつらとコメントが並び始める。
『おは』
『おはよう!』
『早くね?』
『昨晩はオタノシミデシタネ?』
『彩愛、可愛いわぁぁぁ!』
「みんなも元気でよかったよ。うん。おはよ」
そう。今日は休日。私が副業で行っている配信の日だ。
パタパタ。パタパタ。
雨音は好きだ。不規則に、強弱も歪な雨音はいいBGMになる。何というか落ち着くのだ。
ペットボトルのお茶をマグカップに注ぎ、冷蔵庫から納豆を取り出す。レンチンした白米を取り出す。
「あつ! あっ、あつ!」
プラスチックの容器から白米を取りだし、お椀に移動。砂糖と醤油、ネギを加えた納豆をかき混ぜ、白米にIN。
「いただきますっ!」
ずずずず。ずずずず。ずずずず。
『いや、音w』
『納豆か?』
『納豆とか幻滅なんだけどぉ』
『なんだと!? 納豆の敵か、貴様ら!』
「納豆を舐めちゃいかんよ、みんな。納豆菌はすごいんだよ?」
私は食べ終わり、「ご馳走様」と言って食器を洗う。戻ってくるとコメント欄では納豆好き派と納豆嫌い派が争いを始めていた。
あれだ。タケノコやキノコで争うあのお菓子を頭に思い浮かべ、私は苦笑した。
マグカップのお茶を飲み干し、喉を潤したあと、私は砂時計を傍らに置く。
砂時計が落ちるまでの時間は3分。私が世界と繋がる大切な時間。
「じゃあ、今日も3分、語ろうかな」
雨音の中、私は今日も語り続ける 蒼機 純 @nazonohito1215
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