後悔
秋犬
あのソースはシャリアピンソースというようです
ものすごく後悔している。
外出先でランチに何を食べようかと店舗のフロアガイドを確認する。気分は洋食なので洋食屋をピックアップすると、パスタ屋かハンバーグ屋の二択だった。
さて、昨日はたらこスパゲティをたらふく食べたのでパスタの気分ではない。これはハンバーグ屋に絞られたのだけど、ハンバーグをガッツリ食べる気分ではない。もう少し簡単に食べられるものがいい。
そう思ってハンバーグ屋の前まで来て、思わず心の中でガッツポーズをする。
ハンバーグとドリアの店だった!!!
そうなると気分はもうドリア。
口がもうドリアの口になった。
ドリアが呼んでいる。
ウィーラブドリア。
ノードリアノーライフ。
さあドリアを食べるのだ!
そう思って颯爽と店内に入る。まだ昼時少し前なので客は少ない。のびのびと座ってタブレットのメニュー表を眺める。
最近の飲食店はみんなタブレット注文になってしまった。回転寿司がそんな注文の仕方をしているのを「なるほどなー」と思ってるうちに世界は回っていたらしい。アポロ百号は猫ロボットを想定してなかっただろうな。
さて何を頼むか。まずドリアを食べに来たのだからドリアのページだけ見よう。なになに、オムライスもあるぞ……しかし口はドリア。ぽっと出のオム野郎にNTRれるドリアではない。
ドリアといっても、いろんなドリアがある。シーフードドリアにチキンドリア、チーズたっぷりドリアに野菜メインドリア……しーふードドリアさんと最後まで悩んでハンバーグドリアを注文する。ここはハンバーグ屋さんなのだから、ハンバーグも食べておこう。そういう気持ちのはずだった。
待っている間、食前に頼んだコーヒーが来る。コーヒーを飲みながらドリアに想いを馳せる。頭の中はドドリアさんだったのだから、もうドリアのことしか頭にないはずなのだ。
しかし、やっぱりここはハンバーグ屋なのだ。
周囲のテーブルはみんな鉄板ハンバーグを頼んでいる。
「お待たせしました、ハンバーグです」とテーブルに到着したハンバーグにソースがかけられる。じゅわーという音といい匂いがぶわーっと広がって、肉のフェスティバルがあちこちで開催される。「お熱いのでお気をつけください」という台詞までセットのパラダイスがそこにある。ハンバーグとは祭りなのだ。
「お待たせしました、ハンバーグです」
「大変お待たせしました、特製ハンバーグです」
「ハンバーグのランチセットです」
「ハンバーグです」
「ハンバーグです」
なんだよ、他の奴らはみんなハンバーグ頼んでんのか!?
あっちからじゅわー、こっちから「お熱いのでお気をつけください」、何だよここはハンバーグ屋かよ!?
まあハンバーグ屋なんだけどさ。
そうなるとさ、ドドリアの口が一気にハンバーグに傾くわけだよ。シャリアピンソースだっけ? ︎︎あれが鉄板の上でじゅわーっとなる匂いを連続で浴びたら、誰だってハンバーグを食べたくなる。
ケッ!!!!
どうせ頼んだのはドリアだよ!!!
ハンバーグ頼んでないんだよ!!!
しかもドリアだから多分提供時間が結構かかる。
頼んだコーヒーも尽きるかという頃、やっとドドリアさんがやってきた。
「お待たせしました、ハンバーグドリアです」
ドドリアさんじゃなかった、グドリアさんだ。
グドリアさんはアツアツのホカホカだった。
グドリアさんはグドリアさんで、うまかった。
……まあ、いいか。
でも口がすっかりシャリアピンソースになってしまったので、今度は鉄板のハンバーグをしっかり頼もうと思った。
店の看板メニューは大人しく食べておくものだなあ。
<了>
後悔 秋犬 @Anoni
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ではあなたに「問いたい」/秋犬
★24 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます