友人が動物園に入ることになった
倉田日高
友人が動物園に入ることになったので、様子を見に行ってみた。
檻の前には人だかりができていた。なんとかかき分けて最前列まで辿り着くと、友人が私に気づいた。
「よお」
全裸で手を振ると、陰部も釣られて揺れた。
「見苦しいな」
私が顔をしかめると、彼は平然とした顔で肩をすくめる。
「俺はもう慣れたよ」
檻の中は案外快適だという。
寝ていても三食が運ばれてきて、何をしていても自由。クッションの上でぼんやり微睡んでいれば次の食事がもらえる。飼育員は皆優しく、気が向いたときには話し相手にもなってくれる。
友人が就職にも人間関係にも悩んでいたことは知っていたから、良かったな、と私は思った。
「○○動物園で人間の展示始まる」というニュースはしばらくメディアを騒がせていたものの、一ヶ月もすると彼は話題に上がらなくなった。
テレビが有名な芸能人のスキャンダルで埋め尽くされるようになった頃、今度は「○○動物園で人間の繁殖の試み」というニュースが流れた。
久しぶりに動物園に行くと、檻の前には人だかりができていた。なんとかかき分けて最前列まで辿り着くと、檻の中では友人と見知らぬ女が二人でいた。友人は私に気づかず、女の上で懸命に腰を振っていた。
友人が恋愛にも悩んでいたことは知っていたから、良かったな、と私は思った。
今度のニュースは二週間ほどで途絶えた。結局皆、人間も人間の交尾も見飽きているのだろう。かくいう私も、トラやゾウの方が見応えがあると感じていた。
次に彼がニュースになったのは子供が生まれた時だった。私はもう見に行かなかったが、良かったな、と思った。
その後も彼は子供を何人か作って、そのたびにニュースで取り上げられた。紙面に占める割合はそのたびに小さくなっていった。
やがて友人が死んだというニュースが流れた。メディアは大げさに取り上げ、翌日には忘れ去られていた。
ニュースを見た日、久しぶりに友人のことを思い出して、彼の名前をSNSで検索したが、特に何も書かれていなかった。代わりに動物園の名前で検索すると、人間の展示は退屈だった、次はパンダやペンギンやもっと可愛い動物を展示してほしい、という投稿が多く見つかった。「いいね」を押しながら、友人はこれを見なくて済んだから良かったな、と私は思った。
友人が動物園に入ることになった 倉田日高 @kachi_kudahara
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます