親愛なるサンタクロースへ

卯月まるめろ

親愛なるサンタクロースへ

 十二月二十五日が誕生日で、中学二年生の美心にサンタクロースが来たのは、小学六年生までだった。


 学校からの帰り道、冬のひやりとした風が制服のスカートをはく美心の足に突き刺さる。

「ううう。さぶい」

 そうつぶやいた美心の肩を、隣で歩いていた友人の麗奈が叩く。

「美心は寒がりだなぁ。まあ、一年中スカートをはいている私には、造作もないことだけどね」

 美心は麗奈の姿を、下から上までゆっくりと見る。校則ぎりぎりまで短くしたスカートからはすらりと長い脚が覗き、皆が同じ制服を着ているはずなのに麗奈だけなぜかあか抜けて見える。高校に入ったら髪を染めたいというのが彼女の口癖だ。

 今にも雪が降ってきそうなどんよりと曇る空の下、美心は麗奈を眺めた後、自分の恰好も確認する。おかしい。ひざ下までのスカートからは太いふくらはぎが覗き、ジャンパーで着ぶくれしている上半身。髪型も長いストレートの黒髪をただ後ろで束ねただけで、前髪はぱっつん。教師から見たら中学生のお手本のような姿かもしれないが、地味すぎる。なぜこんな地味系女子の隣に陽キャ女子がいるのか。友達とはなんとも不思議なものである。

一人ひっそりとため息をついた美心の様子に気づかない麗奈は、空を押し上げるように伸びをした。

「ねえ、美心。今日ってさ、クリスマスイブじゃん? プレゼント、何もらうの?」

 何気ない会話のはずなのに、美心の思考は止まってしまう。

「え……?」

「いやだから、クリスマスプレゼント! 美心は誕生日と同じだから、サンタのプレゼントのみで一緒にされちゃって可哀想だと思ってたけど、私はもうサンタ来なくなってからもらえてないし。だから今でもクリスマスプレゼントがもらえる美心がうらやましいよー」

「え、でも麗奈ちゃんも誕生日にはもらえるでしょ?」

「いやいや、クリスマスにもらうのが、いいんじゃん」

 麗奈は何を言っているのか良く分からない。誕生日が違うだけで、もらっているという事実は同じではないか。

(それに……サンタさんが来ないクリスマスなんて……)

「酷いよねー。子どもじゃないとプレゼントもらえないなんて。どうせ親なんだから一緒でしょ。くれたっていいのに」

 麗奈の何気ない一言に、美心の心臓が跳ねた。

 美心はサンタが大好きだった。クリスマスの時期になると家に電話が来るのだ。決まって父が受話器を取り、あらかじめ決めておいた欲しいものをお願いする。そして、クリスマスツリーを飾り、手作りの簡単なお菓子を作り、温かい飲み物を用意し、お礼の手紙を書いて、机の上に置いておくのだ。すると、サンタは夜中に来て、お菓子と飲み物を味わってくれ、手紙の返事もくれた。朝目覚めると枕元に置いてあるプレゼント、完食のお菓子、サンタさんからの手紙。全てが美心の胸を弾ませた。美心はクリスマスが大好きだった。

 サンタは、小学六年生のクリスマスを境に、美心の元には来なくなった。返事のお手紙にそれを匂わせることが書いてあったから、すぐ分かった。

 明日は、サンタクロースが来なくなってから、二回目のクリスマスだ。

 美心は目の前で振られた手で我に返る。手の主は、麗奈だった。

「美心。なんか、ボーっとしてない?」

 美心は慌てて笑顔を作る。

「そ、そうかな?」

「うん、そうだよ。それで、話の続き。美心も思うでしょ? サンタクロースは、親だって」

 また、心臓が跳ねる。

 美心は、元々人と意見が違ったとき、自分の意見を主張しようと思わない、いや、できない性格だ。誰にでも話しかけ、クラスでも好かれている麗奈と、友達にはなったが、嫌われるのが怖くて遠慮している節がある。だから、今日も麗奈に合わせてこう言ってしまった。

「う、うん。そうだね。サンタさんは、親だよね」

 と。胸がぎりぎりと痛かった。美心の言葉に満足したのか、麗奈は口元に笑みを浮かべ、タタッと走り出す。

「だよねー。美心ならそう言うと思った。私、こっちだから。また明日ー」

 麗奈は、自分の家の方向へ手を振りながら、去っていった。

「はぁ……」

 思わずため息が漏れていた。おぼつかない足取りで何とか家に帰る。

「ただいまー」

 リビングに入ると、母親が眉間にしわをよせて立っていた。

「あら、おかえり。美心、お母さんクリスマスツリー飾っといてって言ったよね? サンタさんが来てたときはちゃんと飾っていたのに。これじゃあ、サンタさん来てくれなくなったのも当然ね」

 母親の言葉が、ジクジクうずく心をえぐった。

 確かに、小さい頃は喜んでやっていたクリスマスの飾りつけも、大きくなるにつれて面倒くさかったり、忙しかったりで後回しになっていた。おまけに、友達には「サンタは親だ」とまで言ってしまった。美心の中で罪悪感と後悔が膨らんで押し寄せてくる。

「お母さんには関係ないでしょっ」

 美心はそう叫び、母親を押しのけて階段を上ると、部屋のドアを大きな音を立てて閉めた。

 美心は制服から部屋着に着替えようと、乱暴な手つきでクローゼットを開ける。

(麗奈ちゃんだって、お母さんだって、どうして勝手なことばかり言うの?)

 誰かのせいにしたかった。誰かのせいにしないと、どうにかなってしまいそうだった。一体勝手なのはどっちなのだろうか。それは美心が一番分かっている。分かっているからこそ、消化しきれないのだ。

 乱暴に制服をハンガーにかけ、クローゼットにしまおうとすると、クローゼットの奥にごちゃごちゃと置いてあった物が、雪崩のように倒れてきた。それは、人形、アニメの変身道具、子ども用のカメラ、ゲームたち。

 全て、サンタからもらった物だった。

 美心はその場にへたり込んで、おもちゃたちを手に取る。あれだけ欲しかった物。サンタさんにもらったクリスマスの朝。どれも鮮明に思い出せるのに、今は、まったく大切にできていない。サンタさんのお手紙も、どこにいったか忘れてしまっていた。

「サンタさん……ごめんなさい……」

 美心はうずくまる。

 こんなにプレゼントを雑に扱った挙句、サンタの存在を否定してしまった自分が、どんどん嫌いになっていった。


 どれだけ、泣いていただろうか。外は陽が落ち、しんしんと雪が降ってきた。みるみる下がる部屋の気温に身震いし、冷たい床から立ち上がった美心は、ベッドで膝を抱え、うつむいた。一階からは楽し気な笑い声が聞こえる。

 きっと、部活から帰ってきた妹と、両親とで楽しく会話をしているのだろう。夕食はいらないと部屋にこもっている美心は、ますますみじめな気持ちになった。

 年子の妹、中学一年の留菜はバスケ部に加入した。幼い頃から活発な性格で、学校にもすぐなじみ、両親も希望していた運動部に入った。一方美心は学校嫌いで、帰宅部。部活に入れと言った両親の希望を無視して帰宅部になったものだから、「どちらが妹か分からない」と嫌味を言われる。

(そりゃあ、留菜の方が可愛いよね……)

 明日は美心の誕生日だ。もしかしたら、誰も祝ってくれないかもしれない。

(でも、当然だよ。あたし、最低だもん)

 いなくなったって、誰も悲しまない。人に流されてばかりで何の取柄もないから。

 孤独が押し寄せてきて、やるせない気持ちが涙となって頬を伝う。肩を震わせて泣く美心の耳に、小さく、綺麗な鈴の音が届いた。

「……え?」

 美心が顔を上げると、その鈴の音はどんどん近づいてくる。

 シャンシャンシャン

 美心がぐるりと部屋を見回すと、美心のすぐ後ろ、ベッドの枕元の窓を、誰かが叩いた。

 コンコンコン

「えっ?」

 美心が振り向くと、

「開けてくれんか。わしじゃよ。サンタクロースじゃよ」

 赤い帽子に赤い服。立派な白髭にちょこんと小さい眼鏡をかけた人物が、お茶目にウインクをした。


「……え?」

 美心はしばらく、サンタと名乗る老人と見つめ合っていた。すると、老人の鼻からツーッと透明な液体が流れだし、老人はくしゃみを始めた。鼻がトナカイのように真っ赤だ。

「あ、寒い⁉ 寒いのかな⁉」

 美心は急いで窓を開けると、老人は顔を輝かせ、部屋に顔を突っ込む。だが、でっぷりとしたお腹がつかえて、部屋に入れない。

「く、苦しい」

 じたばたする老人の手を美心は引っ張ってみたが、びくともしない。

「ど、どうしよう。大丈夫ですか?」

 美心があたふたし始めると、老人は「シュー」と口元に人差し指を立てる。

「家族には言っちゃいかんぞ。わしはサンタだからな」

「あ、はい……」

 美心は改めてサンタを眺める。つぶらな瞳は青色だ。外国人なのだろうか。加えてサンタは宙に浮かぶそりに乗ってきたようだ。サンタの短い脚がそりにバタバタと当たっている。

 美心が口元を覆いながらサンタの様子を見ていると、横向きだったそりが急に動き出し、二本の立派な角を携えたトナカイが姿を現した。トナカイは、サンタの様子を眺めると、急に低い声で舌打ちをした。

(え、トナカイって舌打ちするんだっけ……)

 混乱して訳の分からないことを考えているのは自分でも自覚していたが、もっと訳の分からないことが起きた。なんと、トナカイが低いおじさんのような声で喋り出したのだ。

「おい、サンタクロース。ダイエットしろっていっただろう?」

 そしてトナカイはひづめの光る前足で、サンタの尻を思いっきり蹴飛ばしたのだ。

「おわっ!」

 サンタは変な声を上げると。美心のベッドの上にドスリと着地した。

「ふう。助かったわい。ありがとうな」

 サンタはトナカイに笑いかけると、首から下げていたペンダントをトナカイに向ける。するとペンダントからは光が溢れ、次の瞬間、トナカイとそりはサンタの手のひらに収まるくらいの大きさに縮んだ。サンタはもう一度、「ふう」と声を漏らすと、固まる美心に向き合った。

「と、いうことで」

「いや、何が、と、いうことなの⁉」

 ミコが声を上げると、サンタは朗らかに笑った。

「美心ちゃん、じゃろ? 大きくなったの。わしは、美心ちゃんに毎年プレゼントを届けていたサンタじゃよ」

 眼鏡の奥のつぶらな瞳を細めて笑うサンタはとても愛らしい。

「本当……なの?」

「本当じゃよ。ほれ」

 サンタは胸元から紙を取り出す。それは、美心が小さい頃、サンタに宛てて書いた、お礼の手紙だった。目の前にいる老人は、美心の大好きだった、サンタクロースなのだ。

 美心はそれが分かって驚きとうれしさが湧き上がってきたと同時に、少しの罪悪感に駆られる。「サンタは親だ」と本心でなかったにしろ、友達に流され口にし、今までもらったプレゼントをぞんざいに扱い、クリスマスツリーさえ飾らなくなってしまったからだ。

 そんな美心の思いなどつゆ知らず、サンタは髭を撫でる。

「美心ちゃん。わしは、美心ちゃんに手伝ってもらいたくてきたんじゃが……」

「な、何?」

 美心が少し身構えると、サンタは笑った。

「今夜、子どもたちのプレゼント配りを、手伝って欲しいんじゃ」

「え⁉」


 驚く美心と、なぜ驚くのか分からないといった表情で首を傾けたサンタに、見かねたように手のひらサイズになったトナカイがため息をついた。

「はあ。サンタクロース、説明が足りない」

 小さくなったことでものすごく声が高くなったトナカイの説明によると、サンタとトナカイは、ここ二年で新しく、美心の住む町ではなく、隣町の子どものプレゼント配りを担当することになった。だが、サンタが年齢によるカスミ目で地図がまともに見られない挙句、プレゼントを渡す子どもを間違えて世界サンタクロース協会に苦情が入っているそうだ。世界サンタクロース協会というのは、その名の通り、子どもたちのプレゼントを製造し、サンタクロースとトナカイを育成し、何百という数のサンタクロースは登録されている協会なのだそうだ。ちなみに、美心の前にいるサンタとトナカイは遠い外国の出身だが、日本にいた期間も長いため、日本語もペラペラだ。

「話が逸れたな。そこでサンタを信じる大人と子どもの中間くらいの人間を適当に選んで今年こそ間違えないようにプレゼントを配れと上からのお達しだ。美心、我々に協力してもらう」

 そんなにバッサリと言われても戸惑うのが普通である。

「ど、どうしてあたしのところに来てくれたの?」

「すすり泣く声が聞こえたからじゃ」

「な、泣いてないし」

 反論する美心に、サンタはまた笑った。

「嘘は良くないぞ、美心ちゃん。……美心ちゃんは、毎年わしに手紙を書いてくれていた。お菓子や飲み物も用意してくれたね。そんな美心ちゃんならば、手伝ってくれるやもしれぬと来た訳じゃ。やってくれるかのう?」

 ニコニコと笑うサンタから、美心は目を逸らす。

(そんなこと、言わないでよ……あたしはサンタさんからもらった物、大切にできなかった……優しくされると余計につらくなる……)

 うつむいてしまった美心は、ふいにトナカイと目が合った。トナカイは、真っ赤な鼻が目立つ顔で、美心を見つめる。

「美心。サンタクロースに、恩を仇で返すのか?」

 美心は大きく目を開く。サンタからもらった思い出は美心にとって宝物だ。それを突っぱねる訳にはいかない。

「……何だか良く分からないけど、手伝うよ」

 美心はそう言った。手伝えば、サンタに対する罪悪感が減るかも……と少しばかり身勝手な理由を混ぜて。

「本当か! わしはうれしいよ!」

 美心の思いもつゆ知らず、ベッドから飛び降りてぴょんぴょんと跳ねるサンタクロース。今分かったが、サンタはものすごく背が低かった。美心の腰くらいまでしかないのだ。

「ほら。決まったならさっさと行くぞ。時間は限られているんだ」

 トナカイがそう騒ぐと、サンタはトナカイとそりを窓の外に出し、ペンダントの光を向ける。すると、二人は乗れるであろう大きさのそりへ戻った。サンタは窓を何とか抜け、そりに座ると、美心に手を差し出した。

「ほれ。美心ちゃんも乗るんじゃ」

「う、うん」

 少し緊張しながら、窓枠に足をかける。裏起毛のズボンをはいて、フリースをきているが、さすがに雪の降る十二月の夜は寒い。

 美心はサンタの手を取る。思ったより小さく、冷たかった。

 そりは豪奢な模様が彫られ、赤色と緑色を中心に塗装されていた。美心がそりに足を踏み入れると、そりは重厚感のある音を立てて美心の足を支える。足元は暖かい風がどこからか出ていた。

「サンタさん、何か、足元があったかい……?」

「協会のそりは足元に暖房を搭載している。寒い夜に風を切ってそりを進めなければいけないからな」

 サンタが答える前に、トナカイが口を開いた。

「そ、そうなんだ……」

 何かリアル……と美心が考えていると、サンタは足元から、黒い、顔まですっぽり覆うヘルメットを取り出した。

「サンタさん、それは?」

「これか? これは、ヘルメットじゃ。防寒と、防具じゃな。美心ちゃんも被るのじゃ」

 やはり風を切らなくてはいけないため、耳が切れることもあるそうだ。後は、そりでの移動中、鳥が顔にぶつからないように被るのだと言っていた。

「サンタクロース、今何時だ?」

「九時を回ったところじゃ」

「そうか。では、年齢の低い子どもからプレゼントを届ける。地図の案内を頼む」

「目がかすむから、美心ちゃんが担当する」

「へっ?」

「頼んだぞい」

 ウインクをしたサンタに、地図を渡されてしまった。美心に方向感覚があったのが唯一の救いだ。地図には家までの案内以外に、子どもの名前が書かれている上、配り間違えがないように子どもごとにプレゼントのラッピングを変えているらしく、そのことも細かく書かれていた。

「それでは、いざ行かん! 子どもたちの元へ!」

 サンタがそう大声を出すと、トナカイが走り出す。

「ゴホッゴホッ、ゴエッ、ゴエェェ」

 大声を出したことで喉がやられたのか、サンタは大きく咳き込む。

「だ、大丈夫⁉」

 美心が背中をさすってあげると、サンタからは、

「だ、大丈夫じゃ」

 と返ってきた。

 満月が輝く夜を、大きなそりが駆けていく。優雅にも見えるその光景だが、乗っている方は思ったよりも過酷だった。

 切り裂くように冷たい風が体にまとわりつき、ヘルメットに積もる雪。ときたま鳥がヘルメットに直撃する。防寒ができないトナカイが寒さに耐えられなくなると、この世のものとは思えない咆哮を上げ、これで町の人にバレないのは奇跡としかいいようがない。

 美心はふと思った。こんなに大変な思いをしてまで、子どもたちにプレゼントを届けるのはなぜだろう、と。子どもたちは大人になりいつか忘れ、サンタクロースの存在を否定するようになる。それでも、子どもたちにプレゼントを届ける理由は、何だろう。

「美心! 『緑川せいら』の家はここか!」

 美心がそんなことを考えていると、トナカイが赤色の屋根の上で止まり、そう声を張り上げる。美心はハッとして地図を食い入るように見つめる。

「違う! もう一つ横!」

「ここか!」

「そう!」

 トナカイはゆっくりと下降し、家のベランダへと降り立つ。

「よし。潜入!」

 サンタはそりから俊敏な動きで降りると、ヘルメットを取り、トナカイを小さくし、ポケットに入れる。サンタさん、煙突は⁉」

「今の家は煙突などない。ベランダから入るのじゃ」

 サンタはそう言ってベランダから家の中に入る。美心も慌ててそれに続いた。

 家の中は当たり前だが寝静まっていて、呼吸さえためらわれた。サンタと美心が抜き足差し足でリビングに入ると、右手に大きなクリスマスツリーが飾られ、左手には三人、人が眠っている。父親と思われる人物と、母親と見られる人物の間で、三歳くらいの女の子が指をしゃぶって寝ていた。

 サンタはその様子に目を細め、美心と顔を見合わせる。美心も、自然と笑みがこぼれていくのを感じた。サンタはそっと女の子の枕元まで歩いていき、大きな白い袋から綺麗に包装紙で包まれたプレゼントをそっと置いた。そこまでは良かったのだが。

「サンタさん、プレゼント、間違えてる! ラッピングは雪の結晶の模様だよ! それはツリーの模様じゃん!」

 初っ端から間違えたサンタにショックを受けて、美心は声にならない声を上げる。

「え? そうかい?」

 素っ頓狂にそう言った後、プレゼントを食い入るように見つめるサンタ。完全にただのおじいちゃんにしか見えないその様子に、美心は内心で叫ぶ。しばらくの沈黙の後、

「あ、ああ! そうだそうだ。美心ちゃん、ありがとうな、間違えるところじゃったわい。兄さん、やっちまったよ」

 やっと気づいたのか、サンタはツリーの模様の包装紙のプレゼントを袋にしまい、代わりに雪の結晶の模様の包装紙のプレゼントを出した。サンタが言った『兄さん、やっちまったよ』の意味は分からなかったが、それを聞くほどの余裕はなかった。美心が一安心とため息をつくと、サンタは『緑川せいら』の枕元にプレゼントを置きなおして、ポケットから取り出したメッセージカードを添えた後、くしゃりと笑顔を浮かべた。

「せいらちゃん、メリークリスマス」

 美心は、サンタの顔から目を逸らせなくなった。誰よりも優しい笑顔だった。

(サンタさん、子どもたち皆に喜びを与えてくれてたんだな……でも、あたしは……)

 美心の心がうずく。血縁者でもない他人の子どもに、毎年毎年プレゼントを配り、出しゃばることなく、顔も見せずに帰っていく。でも子どもはプレゼントをもらうだけもらって、サンタの存在を否定する。協会から報酬はもらっているかもしれないが、サンタクロースとトナカイのメリットが少なすぎる。自分もその中の一人だという事実に、寒い季節なのに汗が出てくる。

(サンタさんは、あたしにもこんな笑顔をくれたんだよね。でもあたしは……大切に、できていない……)

 このままサンタについていくのは、美心がいたたまれない。だが、サンタに、自分が友達に流されてサンタは親だと言ってしまったこと、もらったプレゼントを大切にできなかったこと、言えなかった。サンタが今でも大好きだから。サンタに、嫌われたくなかったから。

「美心ちゃん、そろそろお暇しよう。起こしてはいけんからな」

 サンタが立ち尽くす美心にささやく。美心は、反射的にうなずいてしまった。いたたまれないからといって、サンタに本当のことも話せず、プレゼント配りの手伝いをやめるとも言い出せない、雰囲気に呑まれる自分が大嫌いだった。


ヘルメットが蒸れて、頭が気持ち悪い。美心は、一軒目の家を出た後、二軒目の子どもにプレゼントを届けるために、サンタと共にそりに乗っていた。

 全速力で空を駆けるトナカイのスピードは、ジェットコースターと見まごうほどだった。当然、声を張り上げなければ会話はできない。向かい風に息もできないでいると、トナカイが叫んだ。

「二軒目が近いぞ! 美心!」

「は、はいっ」

 美心は強風でバタバタとはためく地図を手で押さえつけながら、声を出す。

「全体が薄い茶色の四角い家だよ! ベランダは南の方!」

「了解!」

 トナカイの歩幅はどんどん小さくなっていき、二軒目のベランダに降り立つために下降を始めた。

 二軒目は、ベランダのある一階に人は寝ていなかった。どうやら、この家の住人は二階で寝ているようだ。

 サンタと二人でそっと廊下を歩き、居間のドアを開ける。電気がない中、手探りで掴めるところを探すと、手がテーブルに当たる。同時に皿がぶつかるような音も。サンタが小さなライトでテーブルを照らすと、小さな皿にクッキーが数枚、ポットに入った飲み物、一枚の手紙が置いてあった。

「これ……」

 全く同じことを美心もやっていたので、懐かしさに目を細める。サンタもうれしそうに目元のしわを深くし、手紙を手に取った。

「えーっと、わたしはコミです? 可愛らしい名前だ」

 サンタの読み上げた内容に違和感を覚えた美心は、サンタの持つ手紙を覗き込む。

「って、サンタさん、コミちゃんじゃなくて、ユミちゃんだよ」

「お? そうかそうか、間違えたわい。最近、小さい字がダメでの」

 早速老眼が発動してしまった。二年も担当しているのに、子どもの名前を間違えるなんて、サンタらしくない。美心はそう感じたが、サンタは笑みを崩さず手紙の続きを声に出す。

「いつも、プレゼントをありがとう。サンタさん、寒くないですか? どこの国から来たんですか? クッキーとコーヒーを飲んでいってください……おお、ありがとう。ありがたくいただくよ」

 サンタは孫を見るかのような笑顔で、手紙をテーブルに置き、クッキーを口にする。

「うん。美味い。美心ちゃんもどうだ? トナカイの分も少しもらっておくよ」

 サンタから差し出されたクッキーを一口かじると、ホロホロと口の中で崩れ、甘い香りが広がった。

「……美味しい」

「皆がいつも美味しい食べ物をくれるから、わしも太ってしまうんじゃ」

 髭を撫でて笑ったサンタに、美心は思わず聞いてしまった。

「サンタさん、どうして、大変なサンタの仕事をやっているの?」

 サンタは、笑うのをやめてつぶらな青い瞳を美心に向けた。

 言ってしまった、美心が思ったときにはもう遅かった。だが、返ってきたのは怒号ではなかった。

「うれしいから……かのう」

「うれしい?」

 美心が聞き返す。

「ああ。毎年、毎年、わしらを待ってくれている子がいる。小さいときから届け続けて、文字を書けるようになって、わしらに手紙を書いてくれる子がいる。それが、とてもうれしいんじゃ。その子に会うことがなくても。ずっと見守っているんじゃ」

 サンタはそう言って、ペンを取り出し手紙の返事をさらさらと書いた。……英語だった。美心のときは確か、拙いながらも日本語を書いてくれたのに。

「サンタさん、それ、英語……」

「……ああ。まだ兄さんのようにはいかないな」

「え?」

「おっと、何でもない。手紙をくれたのはお姉ちゃんのほうじゃな。弟も手紙に名前だけ書いてくれている」

 そして、二つのプレゼントと一緒にまた二枚のメッセージカードを置いた。

「メリークリスマス」

 美心は、泣きたくなった。サンタは、見返りなど一切求めずに、子どもたちにプレゼントを届けることだけに喜びを感じているのだ。その子どもが成長した姿を見られるのは、喜びもひとしおだろう。……それなのに、子どもはいつかサンタの存在を否定する。サンタは、それを分かっているのだろうか。

「サンタさん、あたし……」

 美心は、サンタに全てを話してしまおうと思った。だが、

「ちょっと待って。今、物音がした。早く家を出よう」

 サンタは真面目な表情になって、美心の手を引く。

 陰で見守ることしかできず、姿を見せることもない。サンタクロースが悲しい職業だと思うのは、美心の心が汚れているのだろうか。


 サンタが持ち帰ったクッキーをトナカイは美味しそうに食べた。

「サンタクロース、何枚食べた? 美味いが、こんなに甘いものを一晩で食ったら、太るぞ」

 皮肉付きの言葉にも、サンタは笑って腹を叩くだけだ。そんなサンタを軽く睨んだトナカイは、体を震わせる。

「さて、次に行くぞ」

 次の家はまだ、家の中に明かりがついていた。

「サンタクロース、明かりがついている。どうする?」

「そうじゃな。少し待つとしよう。トナカイ、裏の庭で待機だ」

 サンタが指示を出し、トナカイは裏庭へと降り立つ。

 美心が息を潜めていると、子どもと、その親と思われる声が聞こえてきた。

「こら、もう寝なさい」

「えー?やだ」

「いい子にしないと、サンタさん来てくれないよ?」

「嘘だ! サンタさんなんて、本当はいないんでしょ? お母さんが言うことを聞かせたいから、いい子にしてないとサンタさんが来ないっていうんだよ。サンタさんは、お父さんなんでしょ?」

 あまりにもはっきりと聞こえてきたその声に、美心の頭に血が上る。サンタの子どもたちへプレゼントを届けるときの笑顔が思い浮かぶ。あんなにサンタクロースだという誇りを持っている人たちに、なんてことを言うのだろうか。美心は、自分のことを棚に上げて、サンタの方を見た。

「サンタさん。次に行こう。こんな子に届けたところで、意味がないよ」

 だが、サンタは首を横に振る。

「いいや。今年は、届ける」

「何で⁉」

 声を荒げた美心に、トナカイが美心の方を見ないまま、

「あまり大きな声を出すな。バレるだろう」

 と冷たい声を出す。

「どうして……」

 トナカイも味方してくれないと分かった美心は、悲しい気持ちで胸が張り裂けそうだった。なぜ、サンタとトナカイは怒らないのだろうか。プライドを、傷つけられた気にはならないのだろうか。美心がうつむいていると、部屋の明かりが消えた。だが、窓は開け放たれている。

「明かりが消えた。あの窓から入るぞ。サンタクロース、見つからないようにな」

 トナカイが窓へと上昇し、サンタと美心だけが窓から家に入った。

 家は先ほどまで人がいたからか、ほんのり暖かかった。大きなクリスマスツリーも飾られておらず、お菓子や飲み物も用意されていない。美心はサンタが見返りを求めないということは知っていたので、何も言わないことにする。

 サンタは、ソファーの脇に、緑の包装紙でラッピングされたプレゼントとメッセージカードを一つ、置く。

「メリークリスマス」

 また、笑った。

(どうして、信じない子にそんな顔をするの? サンタさん、優しすぎるよ……)

 美心は、何だか気が抜けて、涙が出てきてしまった。若くないのに、働いて、感謝もされない。サンタが、可哀想になってしまった。

「うっ……うう……」

「美心ちゃん、どうした?」

 サンタが慌てて近づいてくる。

「サンタさんが、可哀想だよ……ごめんなさい……」

 美心が必死に涙を拭っていると、サンタはお茶目に人差し指を立てて、「シュー」と言った。

「とりあえず、ここを出よう。バレてしまうからな」


 雪がしんしんと降り積もる空の下、サンタは美心の話を聞いてくれた。トナカイが足をじたばたさせながら空中で浮遊してくれているので、ジェットコースターのような強風は全く感じない。美心は、涙ながらに語った。サンタが親だと友達に言ってしまったこと。サンタさんからもらった物を大切にできなかったこと、隠しておくのはいたたまれなかった。

「ごめんなさい……あたし、友達に流されて、『サンタは親だ』って言っちゃったの……本当は、そう思っていなくて、でも、流されちゃって、本当のこと言えなくて……」

 言い訳ばかりが口をついて出る。でも、サンタは真面目にその話を聞いてくれた。

「あと、サンタさんに今までもらった物、大切にできなかった……クリスマスツリーも飾らなくなって、どんどん適当になって……ごめんなさい……」

 美心の話を聞いて、サンタは朗らかに笑った。

「なんだ、そんなことか」

 てっきり責められるのだとばかり思っていた美心は、拍子抜けする。

「わしらは、サンタになる前、プレゼントをもらえなくなった子どもの頃、サンタなど大嫌いじゃった。毎年プレゼントを届けてくれていたのになぜ大人になったらもらえないのかと」

 美心が黙っていると、サンタは続ける。

「わしらが大人にプレゼントを届けられない理由、知っておるか? きっと、親などと言うのは姿を現さないわしらへの疑問を消すためじゃ。疑問を持つのは、大人になった証拠。疑問を持つ子が多い年代になったら、プレゼント配りをやめる。信じないということは、その子の心の中にサンタはいないのと同じだから」

 その言葉が、刃物のように美心の心を突き刺す。

「じゃあ、どうしていつかは否定されるかもしれない子どもたちに、プレゼントを届けるの? 悲しくないの?」

 美心が問いかける。サンタは優しい声で笑う。大きなおなかが震えた。

「わしは、悲しいとは思わないな。わしらを否定したということは、大人に一歩近づいたということじゃ。その子がもっと小さいときに、わしらはプレゼントを届ける楽しさをもらった。子どもの喜ぶ顔は格別だ。一度知ったらやめられないぞ、サンタクロースは」

 そして、ポツリとつぶやいた。

「美心ちゃん。本当にサンタを信じない子は、それほど悩まない。サンタを信じてくれているということだ。……兄さんが知ったら、喜ぶじゃろうなぁ」

 雪の降る空を見上げるサンタの小さな瞳に涙が浮かんだような気がして、美心は問いかける。

「ねえ、サンタさん。兄さん、って誰?」

 美心の心の中を覗いたかのように、サンタは美心の顔を見ると、頭を下げた。

「美心ちゃん。悪いことをした。わしは、美心ちゃんにプレゼントを届けていたサンタではない」

 降りしきる雪が、一瞬、止まった気がした。でも、やはり。という気持ちもあった。美心がサンタクロースにプレゼントを届けてもらっていた時期、他の子とプレゼントを間違えられたことなんて一度もなかった。手紙の返事も全て日本語だったのに、目の前にいるサンタは英語で返事を書いていた。二年もプレゼントを届けている子どもの名前を間違えたりするだろうか。

「あたしに、プレゼントを届けてくれたサンタさんは?」

 どうしてプレゼントを届けていたサンタだと嘘をついたのか、探るような目を向ける美心に、サンタはくしゃりと顔を歪めた。

「死んだんじゃ。一年前、ここの地域の子どもたちにプレゼントを届けた後」

 今度は、息が止まった。

「死ん、だ? どうして?」

 美心は何とかそれだけ絞り出す。信じられない。信じたくない。

「生き物は、いつかは死んでしまう。自然の摂理じゃ」

 サンタはまた、空を見上げる。その目は、濡れていた。

「どうして? 何で?」

 いきなり聞いた話を、すぐには理解できない。取り乱す美心に、サンタは「聞いてほしい。どうか」と細い声を出した。


サンタの説明によると、美心にプレゼントを届けてくれたサンタは、目の前にいるサンタの兄だそうだ。亡くなったサンタは、弟のサンタに、プレゼントを配っていた子どもたちに一枚ずつ、メッセージカードと担当区域を託したそうだ。だから、当時外国の担当だった弟サンタは初めての地図が読めなかった。日本語が書けなかった。子どもの名前を間違えてしまった。

「サンタさん……そっか、そっかぁ」

 美心は、自然とこぼれる涙を止めることができなかった。一度も会ったことのない、顔も名前も知らないサンタ。でも、こんなに悲しいのは、きっと……。美心や、子どもたちに夢と喜びを与えてくれたから。

「美心ちゃん、ごめんなぁ。わしは、美心ちゃんが求めていたサンタではない。もう、いないんじゃ。でもな、兄は美心ちゃんがわしを手伝ってくれると信じていた。美心ちゃんのメッセージカードも、遺したんじゃよ」

 力なくメッセージカードを取り出す弟サンタ。美心はハッと顔を上げる。兄サンタは、美心を弟サンタを手伝う「大人と子どもの中間の人間」に選んでくれたのだ。切なさでいっぱいの美心の心に、温かい何かが灯った気がした。

「サンタさん、謝らないで。プレゼントをくれたのはお兄さんサンタだけど、あたしにサンタという仕事を教えてくれたのは、あなたなの。あたしの求めていたサンタさんは、どっちも、二人とも、だよ」

 きっと、兄のサンタクロースも、弟のサンタクロースも、子どもを愛し、喜ぶ顔を見るためだけに力を注いだと思うから。世界中のサンタがそうだと思うから。

 夜も更けて、何だか眠くなってきた。そんな美心の言葉を聞いて、弟サンタはしわを深くして笑った。

「サンタさん、泣かないの?」

 サンタは、優しく首を横に振る。

「泣かないよ。兄は、サンタクロースができて本当に幸せそうだった。でもな、兄は一つだけ心配があったようじゃ」

「な……に……?」

 襲ってくる眠気に耐えられず、美心はもうろうとしながら言葉の続きを促す。

「『サンタを大人になっても信じてくれる子へ。サンタにも限りがある。これから生まれてくる子たちに、サンタクロースを譲ってあげてほしい。最初で最後のお願いじゃ』と」

 美心の目から涙が溢れる。全て、お見通しだった。心のどこかで、サンタが来ないことに、寂しさを感じていた。大好きな日。大好きな気持ち。それを、生まれてきた子に渡してあげる。

「うん。分かった」

「ありがとう。美心ちゃんは、いい子じゃ」

「サンタさん。最後に、名前を聞いても良い?」

「ごめんなぁ。それはできない。わしは、わしたちは、サンタクロースを忘れられない美心ちゃんに、お別れを言いにきたんじゃ。ありがとう。あとは、わしに任せなさい」

 サンタの声を最後に、美心は深い眠りについた。


 朝起きると、自室のベッドの上だった。

 美心はゆっくりと起き上がり、辺りを見回す。

 寝起きで朧気だった記憶が、枕元に置いてあったトナカイのそりに乗ったサンタの絵が描かれたメッセージカードで全て思い出した。

「サンタさん……」

 結局あのまま眠ってしまったのだ。焦る気持ちを抑えてメッセージカードを開こうとする美心の手が、止まった。メッセージカードは拙い、平仮名で書かれていた。亡くなった、サンタクロースの字に違いなかった。担当区域の子どもたちと一緒に、生前のサンタが書いてくれていたのだろう。自分がいなくなったとき、弟を手伝う、サンタを信じる美心の存在を思い出して。


「美心ちゃんへ

 おおきくなったね。 まいとし ぷれぜんとをとどけるのがわしも たのしみだったよ

 あたたかいのみものやおかし ありがとう やさしいきもちをわすれずにげんきにそだっておくれ

 ずっとみまもっているよ

 メリークリスマス そしてハッピーバースデイ」


あたたかくて、しょっぱい涙がメッセージカードを濡らす。字が滲んでしまいそうになって慌てて涙を拭うと、美心は枕元の窓を大きく開けた。

「サンタさんたち! ありがとうー!」

 そう声を張り上げる。兄のサンタクロースの言葉の温かさ、弟のサンタクロースの笑顔の温かさを思い出した。

 夜から降り続けていた雪はすっかり止んでいて、木々に降り積もるそれは、太陽の光を浴びてキラキラと輝いていた。


「おはよう」

 美心が一階へ下りると、母と父が振り返った。

「美心。早いね」

「うん、そうでしょ?」

 美心は笑って答える。

「誕生日おめでとう」

 いきなり、母と父が声を揃える。すれ違いがあっても、やはり家族は家族だ。

「うん。ありがとう」

 美心は満面の笑みを浮かべた。兄のサンタは、プレゼント配りを美心ならば手伝ってくれるかもしれないと思って、メッセージカード書いてくれた。弟のサンタは、美心を頼ってくれた。だから、美心は自分を信じることにする。もうサンタに会うことはないだろうけど。これから、周りに流されることがないよう、少しずつ、少しずつ、自分を変えていく。


 美心は珍しく早く学校に着いた。教室で相変わらずたくさんの友達に囲まれている麗奈に声をかけた。

「麗奈ちゃん。おはよう」

「あれ、美心じゃん。早くね?」

 美心は笑みを浮かべる。

「あたし、サンタさんからプレゼントもらった」

 自信というプレゼント。

「え? 嘘でしょ? 美心、おもろー」

 手を叩く麗奈に、美心は真剣な目をして言った。

「嘘じゃないよ。サンタさんは、いるよ」

 美心は自分を信じる。だからサンタも、信じる。

(サンタさん、あたし、頑張るね)

 美心は晴れやかな気持ちで空を見上げると、

(だいじょうぶ。とてもうまくいくよ)

 と、いう文字が、

(あ、わしと一緒にプレゼント配りをしたことは、『シュー』だぞ)

 と、言う言葉が、美心に届いた気がして、胸の前で手を組んだ。

「何か美心、明るくなったね。何かあった?」

 麗奈がそう聞いてきて、美心は、

「シュー。内緒」

と人差し指を唇に当ててみせた。

 昨日の夜、美心が眠ってしまった後、弟サンタとトナカイが間違えることなくプレゼントを届けられたかは……また別の話。


 

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親愛なるサンタクロースへ 卯月まるめろ @marumero21

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