まぁ

第一話「願いの叶う街」

...聞こえのいい言葉に惑わされた。」


田舎にありそうな木造の屋根付きバス停で

老人と青年が2人きりで座っていた。


そこから見える景色は青空が広がり

目の前には一面の田園風景が広がっていた。

舗装された道路に違和感を持つほどに。


老人は俯いたままボソボソと自身の半生を語り、

青年は真剣な顔で老人の回想をスマホで書き連ねていた。


「世の中は信用できる人間だっているが、そうでもない奴もいる。

私はそれに騙されていまここでずっと過ごしている。」


蝉の声は鳴り止まない。たまに通る原付の風が嫌に生ぬるい。

日が落ち始めてオレンジ色を帯びた空にも陰りが見えた。


「私はこの歳になってもずっと後悔ばかり、

いつか誰にも知られずに消えると思っていたが...今日は君に会えてよかった。ありがとう。」


老人の回想が終わったのは日が暮れてから。

青年は半分闇に包まれたバス停で老人の半生を咀嚼して整理していた。


"欲を抑えることができれば、もっとまともに過ごせたのかもしれない。"


老人の苦悩を読み返して、自分に落とし込んで

暗い暗い世界を考えてみている。


考え込んでいるとほのかに光が見えて、ガソリンの匂いがした。

前を見るとバスが止まっていた。


青年は静かにバスに乗り込み、一番奥の席に座った。


バスの乗客は自分以外誰も乗っていなかった。

バスに揺られていると、疲れていたからか段々眠気が出てきた。

一眠りしようと青年は眠りについた。



目が覚めた。

バスは街を走っていた。


「次は◻︎◻︎◻︎。◻︎◻︎◻︎。終点です」


終点のアナウンスが響く


少々寝過ごしてしまったようだ。


バス停から降りると

そこは先ほどとは違い

人通りのある駅前だった。


近くにはネオン街が広がっており、いまだに眠らない人々が練り歩いていた。


青年は嫌に明るい街を影に溶け込みながら進んでいく。


ネオン街に夢を見れるかなんて誰も教えてくれないのに

人は吸い込まれるように進んでいくのだから面白い。


目がチカチカするほど眩しい輝きが

人の思考を揺らがせるのだろう。


知らないが。


青年は段々足が痛くなって、路地裏の壁によこたわり

薄汚い室外機の隣で体を休ませる。


スマホを触る。


[新規メッセージ20件 23:45]


[『母』 おねがい。帰ってきてよ。]


[『父』 何時だと思ってる。早く帰ってこい]



「うるさいな。」


青年はスマホの電源を切り、また歩き始める。


「できるだけ遠くへいこう。」


そう呟いた矢先。


「やぁ、ぼうや。こんなところでどうしたんだい?」


場所に似合わない燕尾服を着た老紳士が目の前に立っていた。


「誰ですか?今、急いでるので、すみませんが...」


そう言って青年は老紳士の横の道を進もうとしたが...


無事引き止められてしまった


「もしかして家出なのかい?

いいじゃないか。青春だね」


「別に、そんなんじゃ無いです。

俺に家族なんかいないから」


「本当かい?それは可哀想だねぇ。」


可哀想という言葉。

大嫌いだ。


逃げて何が悪い。

何が可哀想だ!

知ったような顔ぶりでさ。


「なんなんですか?初対面なのに失礼ですよ!」


老紳士は苦笑しながら


「悪かったね坊や。

ところでさっき君は遠くに行きたいと呟いていたね。手伝ってあげようか?」


「別に、いりませんよそんな手伝いなんて。

ここを通してください。」


「いや、君。

見た感じお金もなくて。今日寝るところも困っていそうだが?」


そう言われるとそうだなと思った

衣服住が僕には足りていない。


「それはそうですね...でも。本当に大丈夫ですから」


「それでのたれ死んだりしないのかい?

ここら辺は治安も悪いから、危ないと思うが?」


「別に、大丈夫ですから!」


「ほう。そうかいそうかい。

ならせめて、金と原付をあげようではないか。」


それくらいなら、と思った自分がいた。

どうせ離れるんだから。この老人と二度と会話しなくて済むし、いいと思った。


「はい..じゃあそれでお願いします。」


老紳士は自分の家に青年を招き、そこで

15万ほど入った封筒と原付を渡した。


「さっさとおさらばだ。こんなところ」


青年は原付に乗って。旅に出た。



4時間ほど原付を走らせただろうか?


日が段々と登ってきて、青年を薄暗い光で包む。


そして青年にとって朗報があった。


新たな街についたことだ


そこは薄暗く。過疎化が進んだ無人街。


青年は原付から降りた。









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