真夏日

星見守灯也

真夏日

「真……夏日?」

「最高気温が30℃以上の日を真夏日っていうんだって」

「へえ……」

 リコネアはエアーコンディショナーを35℃に上げる。セラはけげんな目をしてそれを見た。

「35℃以上で猛暑日」

「40℃以上は?」

「トーキョーは湿度が60〜70%。75%を超えることもあったそうよ」

 ピッとエアコンをいじって湿度を上げた。むわっとした風がふきでてくる。

「75%なんて気持ち悪い」

「いいじゃない。これが『夏』なのよ」

 リコネアは白い壁一面に、青い空を映し出した。すこし白っぽい空に、もくもくとした雲が広がっている。

「これがニュードー雲。かわいいわね!」

「ニュードー……ええと、ブッキョートの?」

「そう! 頭がツルツルのアレよ」

「ああ、ボーズね」

 強い日差しが映し出され、入道雲のてっぺんを真っ白に照らす。

「ミュージック、スタート!」

 ミーンミンミン……ジワジワジワジワ……。

「これはセミの声。声と言っても鳴いてるわけではなくて」

「スズムシと同じだったかしら」

「そう。羽を震わせて音を出すみたい」

「変な生態」

「そうかも」

 笑うと、ちょうどよくチリーンとなった。これは風鈴の音。だんだん温度も湿度も上がってきたようだ。

「セラ、お水よ!」

「うわ、こんなに。もったいない」

「調温服なんて脱いじゃえ!」

「ええ……」

 下着姿になると、暑さにぶわっと汗が吹き出した。べたべたと汗が肌に張りついている。

「なにこれ、あっつ……」

「夏だねー」

 パシャンとタライの水に足を浸す。パシャっと水が跳ねる。肌についた水が玉になって落ちていく。やっと皮膚温が下がり、「涼しい」という感覚が得られてリコネアは笑った。

「スイカは高くて買えなかったなあ」

「ええと、ウリの一種よね?」

「そう。真っ赤で甘いウリ」

「真っ赤で甘い……イチゴみたいな?」

「うーん、もっと水々しくてさっぱりしてるっていうけど」

「こんなに暑くてじめじめなら、そのほうがいいかも」

「そうだ。ヒマワリも出そう」

 パネルで検索して、入道雲の下に黄色の花を咲かせる。背が高いヒマワリの鮮やかな黄色が日光にまぶしく、太陽がいくつもあるような錯覚を起こさせた。

「これが夏!」

「はあ、もうあっつー……ねえ、重力増えてない?」

「しんどくなる暑さだね!」

 ぐったりとしているセラに対して、リコネアは嬉しそうにはしゃいでいる。なら、まあいいかとセラは水を掬ってリコネアにかけた。小さい子供のようにリコネアは水をかけかえしてきた。ああ、もったいない。でも気持ちいい。

「プールに入ってみたいなあ」

 リコネアはタライの中でパシャパシャと小さくバタ足をして言った。チャプチャプと水が揺れるだけだ。

「大きなプールにバシャーンって飛び込んで、浮き輪で漂うの」

「気持ちよさそうね」

「気持ちいいよ、絶対。そして、かき氷を食べるんだ」

「ふふ。この暑さなら氷がおいしいでしょうね」


 そんなことを言っているうちに、だんだん陽が沈んできて夕焼けになった。赤とオレンジの光が雲に反射している。今度は夕立ちのデータも入れておきたい。

「夏休みも、もう少しで終わりね」

「夏らしくて良かったでしょ」

「私はこんな暑さがなくて良かったって思うけど」

「たまにはいいじゃない」

「それもそうか」

 セミの声が聞こえなくなった頃、暗くなった空にドンと花火が上がった。色とりどりの火が開いてゆっくり落ちてくる。

「せっかく自由研究なんだから、実際に体験してみたいじゃない。地球の夏」

「まあ、20世紀から21世紀の地球文学を読むには必要な経験か」

 そうそうとリコネアは花火を見上げる。熱のない平面的な花火だ。それでもニッポンの夏に少し近づけた気がして、リコネアはにんまりと笑った。

「いつかスイカ食べたいな」

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真夏日 星見守灯也 @hoshimi_motoya

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