第9話満月の夜の儀式 (完)

<その9>満月の夜の儀式。(完)


未確認先生が…言ったの。


「お願いがあります。コホン……」

「この。天秤ばかり。直したいのです。コホンコホン……」

「精密な工具。器具が…ありません。どなたか。かして。くれませんか?」


未確認先生。

(めまい)でヨロヨロしながらね。

がんばって。大きな袋に(天秤ばかり)を入れて…持ってきてた。

出して…見てみると。たしかに。何か所か。曲がったり…おれたりしてた。

でも……。

私には…わからない。どうすれば直せるのか…わかりませんでした。


と…パパが。(どれどれ?)…って。

手に持って。じっくり見てから…言ったんです。


パパ。「うん。だいじょうぶっ」「パパの工場なら直せる。工作機械を作る会社だ」

ママ。「そうなの?…できるの?」「お願いしても…いいっ?」

パパ。「ああ。社長に相談してみるよ?」「昼休みに。マシン…使わせてもらうかっ」

わたし「よかったあ。よかったよかった。安心したあ」

クララ「早く帰って来てねっ?」「待ってるから。早くね?」

ママ。「どうなの?……あなた?」

パパ。「んうう。残業がなきゃ。すぐ。帰れるけどなあ……」


そう言うと…パパね。

(ああ。時間だあっ)…って。急いで玄関あけて。

ブオオ〜〜ン…と。車で会社に行きました。

(天秤ばかり)は。なんとか…なりそうでした。


ママがね?

私とクララ。今日は学校…休みでよかったって。

だから一日。復習とドリル。そして。

お客様…未確認先生を。ちゃんと。(お世話)するんだよ?…って。


(でもねえ?……)って。

ママが。(変ねっ?)…って言うんです。

なんで(ウチら)の小学校だけ。(停電。なのかしらあ?)…って。

(変ねえ?)…って。なんども言うのね。


それを聞いていた…未確認先生。

(あっ……)って。言ったんです。

(ワタシかも?……原因?)…って言ったんです。

それは。こういうこと…だったんです。


……ステルスシフトの。レバーでした。


(ステルスシフト)…覚えてますか?

宇宙船の…タイムシップやタイムボート。

その。機体の姿を(消す)…(見えなくする)技術でしたね?

思い出しましたか?…いいですか?

ON …OFFは。レバーについてるスイッチですが。

じつは。そのレバー。前後にスルスル動かすことが…できます。

前に(押す)と…強くなるし。

後ろに(引く)と…弱くなります。


つまり。機体の(消しかた)に。(濃い消しかた)や(薄い消しかた)があって。

レバーで調節。できるんだ…そうです。

レバーを。一番(強く)すると…完全に消えますっ。見えません。

反対に。一番(弱く)すると?

機体の全体は消えて…見えませんが。

コックピットだけは。中のパイロットまで…ハッキリと見えます。


その。ステルスシフトのレバーを…先生。

(めまい)で…たおれた時に。たぶん。手か…(うで)で。

無意識に。グイッと。押したらしい…のです。

いつもの(ゆっくり)じゃなく。急にっ。一気に押しちゃったので?

機械の中のエネルギー。(ステルスパワー)が……。

全開120パーセントまで…一気に上昇してしまった。


すると?

宇宙船の機体…そのものが?

そう。まるで。カミナリの…(かたまり)みたいになっちゃって?

浮いてる機体の…真下にある学校が。

そうですっ。

まるで。カミナリが落ちて停電したみたいになっちゃって。

だから。停電したんです。

だからっ。ウチらの学校だけ停電して…臨時休校になってしまった‼︎

そういう(わけ)…だったんですねっ。


……ごめんなさい。迷惑かけて…ごめんなさい。


未確認先生……。

赤い瞳が…白っぽいピンク色になって。細い(うで)も顔も…白っぽくなった。

コホン。……コホン……。

コホンコホン。ゴホン…ゴホン…と。

息も少し。ハア…ハア…と。きれぎれ…息切れ…ちょっと…苦しそうに。

ゴホン…ゴホン。ゴホンゴホン…と。


……朝のテレビは。明るいアナウンサーが。元気な声でしゃべってる。


ママ。テレビを消して。うすい毛布を…先生にかけてやりました。

そして。私とクララに。

あったかい。あまいココアを作ってくれました。

二人で。ソファーに…ならんで座って飲みました。

そして…ママね?

私たちの横に座って。先生に。(そう言えば?)…って聞いたんです。


……なくした。(三種の豆石)のことです。


ママ。「宇宙へ帰る時の。儀式…でしたよね?」「なんとか石。ないんですか?」

先生。「ええ。さがしたんですが。(めまい)で落としたのか?」「見つからなくて……」

ママ。「どんな。石なの?」「大きさは?…どんな種類なの?」

先生。「はい。**石。**石。**石です」「それぞれ…ひとつ。3個です」

ママ。「んうう?」「聞いたことない…名前の石ねえ。……で。大きさは?」

先生。「はい。…あ。ここに。(この地球)で使う豆石の。残りの(ペア)が…あります」

ママ。「ペア?」「じゃ。無くした石っ。本物。あるのねっ?…見せてくれませんか?」


わたし「……あのね?」「3個のペアでね?…左右のお皿で6個よっ」

クララ「ちっちゃくて。かわいいのっ。光るんだよお?」「ピカピカって……」

ママ。「あぶなくないの?…痛くないの?」

わたし「ぜ〜んぜん。平気だよ?」「8秒間。つづくのっ」

クララ「ピカピカッ。シュワーーッ…って。花火みたいだよっ?」

ママ。「そうなのっ。花火ねえ?」「見てみたいわねえ?」


……すると。先生。ぎこちなく…ソファーから起きあがって。

……コロコロコロ。コロン。


と…ソファーの前の低いテーブルに。

首から下げた小袋を開いて。残った豆石を。そっと広げてから…言ったの。


先生。「……これが豆石です」「いま。ワタシが持ってるので…すべてです」

ママ。「まああ。綺麗な石ねえ?」「小さいし。んぅ。5ミリくらいねえ?」

先生。「30個以上ありますが。コレとコレとコレ。この。この3個を…使います」

ママ。「ほかの石は使えないのお?」「この3個じゃなきゃ…だめなの?」

先生。「はい。ここに…みなさんの地球に来る時は。この。三種の豆石しか使いません」

ママ。「……どうしてですか?」

先生。「はい。この三種類の豆石だけが。この地球の。(宇宙の扉)のカギ…だからです」

ママ。「ほんとに。ほかじゃ。だめなのっ?」

先生。「だめです。だめだと…思います。やったことが。ありません」

ママ。「そうなの……」「で。ちょっと見ても。い〜い?」

先生。「はい。どうぞ?」

ママ。「……コレとコレと。コレね?」


ママは…何年か前まで。宝石店で働いていたから。

石の研究者じゃないけど。

普通の人よりは。宝石とか。そういう…綺麗な石。くわしいと思う。

ママね?

手にとって。両目を近づけて。ぐりんぐりん見てから…言ったんです。


ママ。「にてるっ?…にてるわあ。んうう。そっくりっ。いや…そうかなあ?」

わたし「ママ?…な〜にっ?」「なんなのっ?」

クララ「石の名前っ。わかったの?」「…ママっ?」

ママ。「たぶん。たぶんよ?」「でも。まちがってたら…ごめんねっ」「これって?」


ママね。

低いテーブルにティッシュを一枚…おいて。

その上に。小さな豆石を一個づつ…おいて。

三個…ならべてから。言いました。

少し下を向いて…しゃべったから。前髪で。ママの目が見えなかったんだけど。

ママね。

右手の(ひとさし指のツメ)を。コツン…コツン…しながら。言ったの。


……サファイア。真珠。エメラルド。


ママ。「青いのが…サファイア。白いのが…真珠。グリーンが…エメラルド。かなあ?」

先生。「……あ。なんか。聞いたことがあります。そんな名前?」

わたし「ん?…どういうこと?」

ママ。「未確認先生の地球…別だから。呼び方も…違うのね?」

先生。「……ゴホンゴホン。ああ。行って…もどって。さがさないとっ」「……ゴホン」

ママ。「先生っ?…ちょっとまって?」「持ってくるっ。合わせてみましょう?」


……ここから先は。ノンストップです‼︎


お昼の時間でした。

私とクララとママは。普通の。パスタとか食べたんですが。

未確認先生は。

だんだん。だんだん。体調が…悪くなっていきました。

咳は出るし。(血の気)はないし。私たちの(かぜ)とは違ってね……。

どんどん。どんどん。冷たくなっていったんですっ…カラダっ‼︎


もう。真っ白です。いえ。透明です。もう…血が。血の気が…ありません。

危険な状態でした。

先生。それでも。ハア…ハア…やっと息をしながらも。

がんばらないと……って。ね?

体力つけるために。あの。食事用のカプセル。一個。飲みたいと言ったんです。


だから…わたしっ。

カプセルの小箱を取ってやったら。

キズだらけで。あちこち。(ひっかきキズ)みたいなのが…いっぱいあってね。

ママが。あっ…て。言ったのっ。


……それだわ。そのカプセルだわ‼︎…って。


そのキズ。スズメが(つついた)キズだって。

未確認先生が。急に悪化したのは。この地球の空気だけじゃ…なくてね?

スズメの(くちばし)から(うつった)…(ばい菌)なんだって‼︎

未確認先生の。(もうひとつの)地球には無い…ばい菌が。カラダの中に入って。

だから。未確認先生は…急に悪化したんだって。ママが言ったの。

だから。とにかく早く。お医者さんに行かなきゃ‼︎

宇宙抗菌薬…飲まなきゃっ‼︎


夕方5時ごろ。

パパから連絡ありました。残業だって。7時すぎるって。

えええっ。そんなああ……‼︎

先生…もうねっ。やっと。水を。スプーンで飲むくらいしか。

体力……ありませんでした。


……まにあわない⁉︎


夜…7時をすぎました。

テレビもつけてない…リビングに。

車の…帰ってきた音がして。急いでパパが…入って来ました。

(天秤ばかり)をもって。なおってました。


……先生。先生。もお。息も…やっとでした。


でも。でも。豆石が。大事な。ペアと同じ豆石が…ありません‼︎

それでも。飛行儀式は。やらなきゃ…帰れないっ‼︎

だから。なんとかしてでも。やるしかありませんでした。


ママの持っていた宝石箱から。

サファイア。真珠。エメラルドの……。

イヤリングや指輪。ネックレス…ブレスレットをね?

ママっ…こわしたの。バラバラにしたんです。

そしてね。一個一個にして。三種の豆石に…大きさに…合わせたんです。

そして。ペアと…だいたい。だいたいの(重さ)の石をね。

10個ぐらい。ママが。えらんでおいたんです。


ママの前の仕事が…役に立ちました。

少し安く買えたので。ママ。好きな宝石を買ってたんです。

でも…でもね。ペアと。(重さ)が…合うかどうか?

時間をかけて。天秤ばかりで…はかってる(ヒマは)。ありませんでした。


……1秒でも早く。先生を帰さないと。死んじゃうっ‼︎


じっさいの。コックピットでやってみないと…わかりません。

今は。もお。やるしかない。やるしかないんです‼︎


未確認先生。

ブルブルふるえながら。ゴホンゴホン…咳しながら。

夜の庭へ出ました。まわりには。電気のついた近所の家が…何件もあります。

見えるかもしれない。バレるかもしれない。他の人に…先生のことが。


そしたら先生。

飛行儀式を。まわりから見えないように。

屋根の上に。消して浮かせていた…宇宙船タイムシップから。

宇宙エレベーターでコックピットにはいると。

ステルスシフトのレバーを。一番(弱く)して。

宇宙船の機体は消して。コックピットだけ。外から見えるようにしました。


庭には家族四人で立って。屋根の上に浮いてる。

タイムシップのコックピットを見上げていたんです。

先生。先生が…わかるんです。苦しそうにしてるのを。わかるんです。

ゴホンゴホン…咳をしてるの。下から見ても…わかるんです。


春の。桜が散った春の。夜の8時すぎの…家の庭。

二階の屋根の数メートル上空に。

月あかり。

満月の(月あかり)に照らされて。ぽ〜〜っ…っと。薄い色で浮かんでる。

ポッカリと浮かんでる。淡い淡い…(あったかな)照明にうつった。

コックピットの中だけが…見えました。


でも。

となりや。まわの家の人達には…まったく見えません。

それは。きのうの(おじい様)の時と同じです。

先生ね。タイムボートを(空気のカーテン)で隠して。

まわりから。見えないようにしていたのと…同じです。

今も。しっかり。(空気のカーテン)で仕切って。

ほんのり浮いて見えるコックピットを。まわりから。見えないように…していました。


ただ。ただね?

私たち家族四人の立ってる姿は…あります。見えますっ‼︎

だから……。

もしも。たまたまね。近くを通った人が…いたとしたら?


(あれ?)

(あの人たち。夜の庭に出て。上を見て。何してるんだろう?)

……って。ね。思うかも…しれませんが。

そんなことは。どうでも…いいことでした。

何を言われても。いーんです。今は。

私たち家族四人で見るんです。大切な先生を。


(見てるよっ。未確認先生っ‼︎)

(見てるからねっ。しっかり。見てるからねっ。せんせえーーっ‼︎)


いのり…は。ねがい…は。宇宙でも通じます。


……スタンバイ。OK。

……時空ジャンプの飛行儀式。スタート。GO。


私たち。宇宙船の下にいても…大丈夫でした。

先生ね。

(宇宙プロジェクター)を使って。私たち四人に。

コックピットの中が見えるように。夜の庭に。私たちのためにね。

(空中モニター)で。うつして…見せてくれたんです。ありがとう…先生。


だから。

先生の動きや表情。天秤ばかりの動きも。手に取るように…わかりました。

もお。もお。ドキドキして。

スズメたちも…そうでした?

桜の木の枝に数十匹とまって。じっと。屋根の上のコックピットを見ていたの。

ぜんぜん…鳴かないで……。


コックピットにある天秤ばかり。

パパが直した天秤ばかりに。三種の豆石をのせた。

左には(ペア)の三個。

右には(ママの宝石)三個。

サファイアの青。真珠の白。エメラルドの赤は……。

左の(ペア)と(見た目)は同じでした。ただ。形も大きさも。正確には…違いました。

ママのは。ママの宝石は?

真珠以外は…真ん丸じゃないし。小さかったり…大きかったり。

やっぱり。重さが…合いません。

天秤が…つり合わないのです。


ああ。ああ。

未確認先生。苦しそうでした。つらそうでした。

どうしよう。どうしよう。

軽すぎるんです。ぜんぜん。かるいっ。

真珠は。ほぼ。同じでした。問題ありません。

残るは。問題は。そう……。

サファイアとエメラルドです。どうする?


……決めてました。


数を(ふやす)しか…ありません。

一か八か…です。やるしかありません。

だから…先生。右のお皿に。

サファイアとエメラルドを。それぞれ一個づつ…たしました。ふるえる手で。

がんばれ。がんばれっ…未確認先生‼︎


ゆれてます。

ゆれてます。

3個と5個で。なんとか…(つり合い)そうでした。

ゆれてます。

ゆれてます。

しずかに。ゆっくり。ゆれが。小さくなってきて。

だんだん。だんだん。

あ。あ…っ…⁉︎

とまりそうに…なってきて。まだ…とまらなくて。


で…とまった。


すると。

私たち四人にも聞こえました。

キーーーン…♪……と。耳なり音。


そして。光の(てんめつ)が。……が。……がっ?

小さい。小さいんです。あの。おじい様の時とは…ぜんぜん違って。

花火のような。あの…光の(てんめつ)が。

とても。とても。小さくて…よわよわしいんです。だめです。ぜんぜん。

これじゃあ。だめだ。

先生……。

ハア…ハア…苦しそうで。

パイロット席に座っていても。下を向いて。咳をして。ハア…ハア…って。


天秤ばかりの。左右のお皿の…豆石。

サファイア…真珠…エメラルド。

空中モニターだって…わかりました。弱いんです。光が……。

あの。バアーーッ‼︎…っと上がる。強い光線がっ。キラキラの光線がっ。

……ない。出ない。弱かった。

やっぱり。三種の豆石が…合わなかった。

本物の豆石じゃなきゃ…だめなんだ?

どうしよう?……どうしよう?


……時間がありません。時間が…ないんです。


未確認先生の(カラダ)。もお。限界です。ボロボロです。

苦しそうで。つらそうで。見ていられませんでした。

だから。いのるしか…なかった。

ママもパパも。クララも。私もです。

満月の下のコックピットは。(燃えて)ませんでした。

花火のような光線では。(燃えて)ませんでした。


……チラチラ。チラチラ。小さな光。豆石が。


もお。だめでした。

先生。ついに。パイロット席の深いイスに…たおれてしまいました。

自分の背中を。ドスンとあてて。

ぐったり。ぐったり…下むいて。両うでも。ブラ〜ンと。ブラ〜ンと下げて。しまった……。


もお。だめでした。

顔が…よく…みえません。でも…泣いてた。

せんせえ?

せんせえ?

泣かないで?

なみだ……おとさないで?

せんせえ?


……だから。いのるしか。ない。

……あと。なにが。あるんですか?

……おしえてください?

……あと。なにが。あるんですか?


コックピットが。淡い照明で浮かぶ…コックピットが。

泣いてるみたいだった。

だから。

私も…泣きそうだった。クララは。もお。泣いていた。

ママとパパは。だまって。上を…見ていた。


……空中モニターには。うつむいて動かない先生がいました。


でも。その時のことは。

このあと続く光景は。

もう。一生…忘れないでしょう。強く…強く…忘れないでしょう。

家族四人。(くぎづけ)に…なりました。


……空中モニターには。パッ‼︎…っと火花が。うつりました。


いっしゅん。画面が…真っ白になって。まぶしかった。

と…天秤ばかりの。左の豆石3個が。生きてるように。本当に生きてるように。

どくんどくんと。どくんどくんと。

さっきより。間違いなく。強く…あらあらしく…生き生きと。

ふたたび。豆石の光が。強烈に…復活しました‼︎

復活です。復活したんです‼︎


すると…今度は。

それに(つられる)ように。反対の。右の(宝石)がっ。

ママの持っていた。

ふぞろいの。バラバラの大きさの…重さの…5個の(宝石)がっ。

左の3個の豆石に。(つられる)ように。光りだしたんです‼︎


ママの宝石です。

イヤリングやネックレスをバラバラにした…(宝石たち)です。

かわいい宝石。きれいな宝石。いとしい宝石たちです。

真珠(いっこ)。サファイア(にこ)。エメラルド(にこ)。ぜんぶで…(ごこ)です。

がんばれ。がんばれ。がんばれえっ。

ママの宝石たち。生きていた。昔を…思い出した。野生を…とりもどしたんです。

宝石だって。

宝石だって。

野生の石です。勇気のある…野生の石なんです。

強いんだっ。負けるもんかっ。死んでたまるかっ。

そう。思った。ママの(宝石たち)でした。


……もう。宇宙プロジェクターも。空中モニターも…いりません。


私たち家族四人は。

屋根の上を。満月の下の空中を。その…コックピットを見ていました。

光っています。

ものすごく…光っています。

こんな激しい光は。見たことありません。

私たち(一生ぶん)の…まぶしい光でした。

でも。あぶない。攻撃的な。害をあたえる火花では…ありません。


……その逆です。


真夏の。夜空に上がる。あの…美しい花火のように。

人の心を…あったかくする。人の心を…感動させる。そんな。そんな…光でした。

5個の宝石が(うなりをあげて)光ってます。

どんどん。どんどん。光ってます。

その…まぶしさは。コックピットの中から(あふれて)いました。

本当に。花火のように。コックピットの窓から。光線が(あふれて)いました。

でも。……先生?

下からは。未確認先生の姿は…見えませんでした。


……光の(てんめつ)が。はじまりました。


たぶん。たぶんです。

天秤ばかりの左と右と…交互に。豆石と宝石が…交互にです。

キラキラっ。キラキラっ…っと。

前に見たことがあった。電車の…(踏み切り)の信号機みたいに。

左と右が交互に(てんめつ)してるんです。

そう。見えるんです。たぶん…そうです。

夜空にうつる。花火の信号機でした……。


……8秒間。


光の(てんめつ)は続き…終わりました。

すると。

ほんの1〜2秒です。ほんとに一瞬でした。

コックピットの明かりが。コックピットだけの…照明になったんです。


その時でした。

間違いありません。私は…たしかに見ました。見えたんです。

先生の。動いた影を。やわらかそうな人影を…見たんです。

間違いありません。

クララも。ママもパパも。あ?…って声をだして…気づきました。

間違いなく。未確認先生の人影…動いた影でした。


……すると。(千枚の絵)を(1秒)で見るように。


まばたく一瞬の間に。

光速で飛び出す(光の線)となって。コックピットの室内照明は…飛びました。

そして。

光の(てんめつ)が合図となって。宇宙の扉の(カギ)となって。

満月の真ん中に。三角の虹…(三角虹)が出ました。

そして。その。光の線は。

三角虹の下まで一直線に飛んで行って…消えました。あっけなく。

そして。あっというまに。

その。三角虹も…消えました。

残されたのは……。

私たち家族四人と。満月の夜と。桜の木のスズメたちでした。

シーーンとして。とっても静かでした。

シーーンとして………。


……(お姉ちゃん?)って。クララが呼んだので…見ると?


宇宙からの映像が。

宇宙プロジェクターで…送信されていたんです。

ママとパパも見ました。

空中モニターにはね。うれしかった。よかった。

少し笑顔の。ほほえんだ。未確認先生から…でした。


まだ。ヨロヨロして。ゴホンゴホンしてたけど。

大丈夫だって。

ひとりで…なんとか立って。そして笑って。手をねっ…ふってくれました。

これから。

せんせえ。病院へ行くそうです。安心してください…って。

そして。

赤いけど。ちょっとピンクの瞳で。くすっと…笑ってくれました。

私も。クララも。ママもパパも。ほんとにほんとに。安心しました。


……そして。ポツンと。四人になりました。


満月の(月あかり)の下に。ママが…発見したんです。

小さな桜の木の下に。ポッ…と。蛍のように光る…なにかを。

なんだろう?…と。手にとって見たら……。

なんだと…思いますか?

(豆石)でした。豆石っ‼︎

スズメがね?…持って来たんです。

コックピットで…つついて。そして。くわえて…持って来てたんですっ。


ちゃんと。3個…ありました。

もしも。未確認先生?…戻ってくる時があったら。あったら?

この豆石。返そうと思います。ふふ。

笑っちゃう…だろうなあ?

……ほら?

あれだけ鳴いていた…さわいでいたスズメたちも。

……ほら?

なんか。急に。普通になって…かわいくなって。おねんね…してますよっ。ふふ。


……日曜日。


いつもと変わらない…日曜日の午後でした。

クララとね?

いつものコンビニ行って。いつものグミ買って。いつものところで…食べてたら。

……あっ?

……紙飛行機っ?

すぐ。先生からのメッセージだと…思いました。


だって……。

きのう。やっと雨がふって。待ちにまった虹が出て……。

よし。あの虹に向かって。

前にね。先生からいただいた。黄色の(宇宙便)紙飛行機を…飛ばそう。

メッセージを書いて。飛ばそう…って。

先生に。届けえーーっ‼︎…って。


だから…書いたんです。クララと二人で…先生に。

(病院。どうでしたか?)

(体調は。どうですか?)…って。

そして……。

(未確認先生。私たち…楽しかった。うれしかった)

(短いあいだ…だったけど。いい思い出になりました。ありがとうございます)

(バイバイ。元気でねっ)…って。書いたんです。


だから。すぐ。未確認先生からの返事だと…思ったの。

グミ…食べるのやめて。クララと二人で…読んで。


……超。ビックリしましたっ‼︎


短く(まとめる)とね。こんなことが…書いてあったの。


……ララさん。クララさん。お元気ですか?

私はすっかり。元気です。

……結論です。

……ワタシは。小学校の教師になります。なりたいなあ?

……また。そちらの。ララさんと…クララさんの地球で。会いましょうね。

……じゃーね。


<おわり>

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