第8話なくしちゃった三種の豆石

<その8>なくしちゃった三種の豆石。


家の庭の…桜の木に止まり。

あいかわらず。スズメたちは。

道に迷って。目が…グルグルしてるように。わめくように…鳴いていたんです。


……パパの大きな声がして。


パパ。「おーいっ‼︎」「来てくれないかあーっ?」

ママ。「パパっ?」「どーしたのっ?」

パパ。「ほら?…女の人っ?」「知らないなあ……知ってるか?」

ママ。「知らないわよぉ。誰かしら?」「ねえ。おきて?…おきてください?」

パパ。「救急車っ。呼ぼうかっ?」「そのほうがいーよなっ?」

ママ。「そうねっ」「……そうしましょ?」


……と。私とクララも。急いで…玄関へ出たんです。


わたし「……あ。待って?」「友達だからっ。ちょっと待って?」

クララ「あっ。あっ……」

ママ。「なによぉ?」「あんたたち。この人っ…知ってるの?」

わたし「うん。ちょっと……」

クララ「未確認先生だよ?」

ママ。「先生え?って。この女の人…先生なの?」

パパ。「学校の先生?」「ほんとか?」「見えないなあ……」

わたし「ちがうちがう。クララっ。言わないのっ。だめ……」

クララ「だってえ……」「だって。言っちゃったぁ」

ママ。「なんかわかんないけど」「とにかく。救急車…呼ばないとっ」

パパ「そーだな?」「それがいい……」


と…その時。

玄関に(うずくまってた)未確認先生がね。

ゆっくり。赤い瞳の目を。ゆっくり…開けてくれたんです。

そして……。

ゆっくり顔をあげると…座ったまま。玄関の壁に。つかれた感じで(もたれる)と。


……赤い瞳の未確認先生。ふるえる声で。静かに言いました。


先生。「……待ってください。……だいじょうぶです」

パパ。「あっ。意識もどった。よかったよかった」

ママ。「大丈夫ですか?」「おケガ。ありませんか?」

先生。「大丈夫です。心配ありません。すこし。めまいが…しただけです」

パパ。「立てますか?」「歩けますか?」

先生。「……はい……」

ママ。「無理しないで。ゆっくりで。いーんですよ?」

先生。「コホン……」「お願いが。あります……コホン」

クララ「せんせ?」「お顔……白いよ?」

先生。「うん。ありがとう。コホン。だいじょうぶ。ありがとう……コホン」


そう言ってから。ヨロヨロ…ヨロヨロと。先生……。

なんとか立ちあがろう?と…したんですが。

やっぱり。めまい?が…するみたいで。

やっぱり……だめでした。

なんとか立てても。歩くのは…つらそうでした。


パパ。「とにかく。中で休んでもらおう」

ママ。「そうね。それがいいわね?」「そうしましょう?」

クララ「せんせ?…はいってはいって?」

わたし「未確認先生。えんりょしないでっ?」

先生。「ありがとうございます。ありがとう……」


……桜の木の枝には。スズメの大群がいて。


そうです。このスズメたち。夜明け前から…ずっと。

玄関に(うずくまって)いた未確認先生を見つけては。

私たち人間とは違う。べつの何かを…感じてさ?


(コイツには気をつけろっ……)

(ワレワレの敵かもしれないぞっ……)

(みはっていろ。動いたら危険だぞっ……)


そう。考えた…感じた…スズメたち。

お互いに大声を出し合いながら。未確認先生を(みはって)いたのでした。

狂ったような(鳴き声)は。これだったんですっ‼︎


……朝のリビング。四人と一人。


ソファーで横になりながら…先生ね?

はじめに。パパとママに(あいさつ)をしてから。

私とクララとは。友達だということを…説明してくれて。

私も。クララも。

パパとママに心配かけたくなくて。だから。隠してたワケじゃないんだけど…って。


(うん。でも。だまってて…ごめんなさい……)って。

二人で…あやまったらね。

うん。パパとママ。ゆるしてくれました。


パパとママもね?

べつに。あなたたち。なんにも悪いこと…したワケじゃないんだから。

そんなに…あやまんなくても。いいんだよ?

…って。言ってくれたから。

私もクララも先生も。ほっと…安心しちゃった。よかったあ……。


……未確認先生。(お薬)…飲んでなかった。


ソファーで…休み休み話してたら。

ちょっとだけ。落ちついてきたみたいな…先生でした。

さっき飛んできた。紙飛行機のメッセージを見せたら…先生ね?

ほっ。……としてた。


でも。先生。聞いたら?…飲んでなかったんです。お薬っ。

(この地球)へ来る時に。お薬…(宇宙抗菌薬)。飲んでこなかったんだってっ。


……なんで飲まなかったの?…って聞いたら?


先生。「笑わないでね?」「にがい…お薬。きらいで。飲めないの……」

わたし「え?うっそ……」「それが理由なんですか?」

クララ「わかるわかる。あたしもだよ?」

先生。「にがいの。にがてなんです……」

クララ「わかる。わかるなあ…あたし」

ママ。「未確認先生……でしたね?」「でも。メッセージには…危険って?」

パパ。「今の状態ぐらいで帰れたら…いいけどなあ?」

わたし「お薬は。あるんですか?」

先生。「ごめんなさい。向こうに……」

ママ。「置いてきたのねえ?」「こまったわねえ。ここは日本だしねえ……」

パパ。「未確認先生?」「今すぐ。帰られたら?…そうしたほうがいいっ」

ママ。「そうねっ。それがいーわっ。そーしたら?…先生?」

先生。「その通りです」「でも…でも…できない」「できないんです……」

わたし「どうしてっ?」「先生?」


先生。「だって。ないの。豆石っ……」「こわれたんです。天秤ばかりっ……」

先生。「だから。今すぐは。無理なんですっ」「今すぐは。帰れないっ……」


パパ。「もうひとつの地球…でしたっけ?」「迎えに来てもらったら。どうです?」

先生。「それは。できません」「大事なワタシの宇宙船です。置いて帰れない……」

ママ。「じゃあ。こわれた天秤は直して。無くした豆石…持ってきてもらったら?」

先生。「豆石は。だいだい伝わる家宝です。儀式です。他人の豆石はルール違反ですっ」

クララ「じゃ。ほかの人の豆石つかったら。どうなるの?せんせっ?」

先生。「戻ったら…つかまります。処罰…されます。しばらくは。飛べません」

ママ。「それでも。いいんじゃない?…帰れたらっ」「体調も良くないし……」

わたし「そーだよっ…先生え。そーしたら?ね?持って来て…もらおっ?ね?」

先生。「……ごめんなさい。やっぱり。さがしてきます。ごめんなさい………」


そう言うと…先生ね。

ソファーから立ちあがって。でも。また。ヨロヨロ…たおれたの。

そして。顔もウデも白くなって。(血の気)が…ぜんぜんなくなってきました。

赤い瞳も…なんとなく。白っぽく…なったように見えました。


コホン…コホン…と。コホン…コホンと。

だんだん。(セキ)も多くなってきました。

きのうの(おじい様)の時…みたいな感じに見えました。

ああ。おじい様の。メッセージに書いてあった通りになったら…いやだなあ?

ああ。なんとかしてね。早く帰してやりたい。

私もクララも。パパもママも。みんなでね。そう…思ってた。


……夜中の夢。私の……。


あの夢。たおれた…先生の夢。

あの夢。スズメに(つつかれる)…いろんな物たち。

あの夢。もしかしたら。(あたって)るかも…しれません。


先生の…はく息。さっきよりも…ずっと荒くなってきた。

ソファーにね。

先生に。もう一度…横になってもらってから。

ゆっくりと……。

先生にね。きのうのこと。おじい様が帰った後のことを…話してもらいました。


パパも。あと…10分ぐらいなら大丈夫だって言ってくれて。

それで…家族4人で。

横になった先生によりそって。ちゃんと。しっかり…お話を聞いたんです。


……こうでした。


きのうの夕方です。

子供たちは下校して…いません。

先生がたは。職員室かなんかで…お仕事をしていましたが。

屋上に来ることはなくて。夕暮れの屋上に。誰にも見つかることもなく。

未確認先生ひとりだけ。

すうぅーーっ…と。一階から屋上まで。すうぅーーっ…と…上がって…立ちました。


ビルの5〜6階までの高さなら。

(無重力移動)が…できるんだそうです。

5千年(さき)を行ってる…(超)人類の科学力は。さすがです‼︎


そこで先生。

屋上の上空に浮いてる。機体の姿を(見えなくして)いる…タイムシップから。

(空中エレベーター)をおろして。乗ろう。と…した時に?

急に(めまい)がして。ぐらっぐらっ…と‼︎

意識を無くして…たおれたらしい?のです。急にです。


で…気がついたら?

自分のまわりにスズメが(たくさん)いて。

うるさく鳴きながら。ちょこちょこ。ちょこちょこ。動いてたんだって。

まわりを(うつらうつら)見ると。

食事用カプセルの小箱と…カプセルが。何個か。床に散らばってて。

それをスズメが。つついてた…って。


なんとか起きあがった…先生。

空中エレベーターから。宇宙船の(コックピット)へ入り。

機内や計器類の異常が…ないか?

調べながらね。つかれたので。ここで。食事カプセルを3個…飲んだんだそうです。

いちおう。床に落ちたのは…すてたらしいのですが。


で…天秤ばかり。

大事な儀式に使う…天秤ばかりです。

いちおう。点検のため。こわれてないか…たしかめようと…手に持った時に?

また。またっ。ぐらぐらっ。ぐらぐら…(めまい)がしたんだそうです。

アッ。……もお。意識なくなって。

バタ〜〜ン‼︎…と。たおれたらしい…のです。


で…気がつくと。

なぜか。コクピットの中にも。

スズメがっ。たくさん。たくさん…入って来ていて。

うるさく鳴きながら。そのへんを動いてた…らしいのです。

ボーッとしながら…見てたら?

なんかね。なんか(くちばし)で。つついてつついて。(くわえ)てた。ん?


なんだ。なんだろ?…ん?……豆石?


まずいっ。と…おいはらっておいはらって。

コックピットの窓から外へ。スズメたちを出したんだ…そうです。

首から下げてた小袋のフタも。開いてたそうで。

床にね。たくさん(こぼれた)豆石を…ひろったんだけど。

その時は。かなりボーーッとしてて。気づかなかったって。

豆石の数が…たりないこと‼︎


で…天秤ばかり。


(めまい)で。ウデ?…が当たって。床に落とした時に。

いくつかの部品。こわれてた……‼︎

それ一台しか。持って来てなかった。まずいなあ……って。

でも。直せば何とかなる?…そう…思ったって。先生……。


(天秤ばかり)のほうは…なんとかなりそうでした。

でも。でも。もっとも大事なことが…大問題でした‼︎

それはっ。


……三種の豆石が。3個っ。見つからなかった‼︎

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