俺の固有スキル『ランダム』が伝説級の魔法しか発動しないんだけど……
安居院晃
プロローグ
雲一つない快晴の昼過ぎ。
植物一つ生えていない荒れ果てた平原にて。
「今日こそ……今日こそ、絶対に引き当てるぞ……」
僅かな水分すら含まれていない枯れた大地の中心に立つ一人の男──しがない冒険者であるレグルは、右手に握り締めた漆黒の短杖に視線を落とした。
「絶対に、金貨千枚出す……『
頼む頼むマジで頼む本当にお願いそろそろいいでしょ何でもしますから──ッ!
心の中で絶叫し、いるかもわからない神様に祈り、俺は握りしめた杖を勢いよく振り下ろした。
ブンッ!
空気を薙ぐ音が鼓膜を揺らした途端──俺を起点として、大地に巨大な魔法陣が展開された。
眩い緑の光を放ち、莫大な魔力を放射するそれは微かな明滅を数回繰り返し──瞬間。
枯れ果てた大地に、緑が広がった。
日照りに当てられ僅かな水分も含んでいなかった大地は潤い、地表には丈の短い草花が広範囲に渡って生い茂る。数え切れないほどの木々が凄まじい速度で天に向かって伸び、また枝には青々とした葉と、丸く太った果実を実らせる。
少し離れた場所には、底が見えるほど透き通った泉があった。そこでは、何処から来たかわからない動物たちが水分補給をしている。
蘇った大地。新たに生まれた森林。
動植物の楽園と化した周囲を見回した俺は、フッと不敵に笑った後、手元の短杖を見つめ──。
「違うよもおおおおぉぉぉぉぉぉぉッ! またハズレかよくそがあああああああぁぁぁ──ッ!!」
その場で膝をつき、絶叫した。
「もう森創るの何回目だよ! 俺が求めてるのは大量の金貨を出す魔法だってば! こんな楽園創る魔法じゃないんだよッ! 森はいらないから今すぐに金貨五億枚寄越せや畜生おおおッ!!!」
「いや欲張り過ぎよ……」
感情を爆発させる俺にかけられた、呆れの声。
その持ち主は、魔法師のローブに身を包んだ白髪の美しい女性だった。
彼女は両手を腰に当て、俺に言う。
「最初は金貨千枚って言ってなかった? 何で五十万倍に膨れ上がってるのよ」
「人の欲望は留まるところを知らないんですよ、リティさん」
「意味わかんないわよ。欲深すぎる人間に神が施しを与えるわけないじゃない」
「えぇ……邪神じゃないですか、その神」
「もっと欲を抑えろって言ってるのよ!」
声を荒げた女性──リティさんは俺の脳天に手刀を落とした。軽く当てる程度なので、痛くはない。それどころか美女のほうから触れて貰えているので、喜ぶべきかもしれない。
ただ、今の俺は望んだ魔法が発動されなかった失意のほうが大きいので、喜ぶ気にはなれなかった。金貨欲しかった。
「それよりも……」
俺の頭から手を離したリティさんは周囲の景色を見回し、ハァ、と溜め息を吐いた。
「相変わらず、出鱈目な力ね」
「そうなんですか? もう森なんて幾つも創ってるんで、あんま実感湧かないです」
「人生で森を幾つも創ることなんて、普通の人にはないことだからね?」
「それもそうですね。で、これ何の魔法かわかります?」
「──『
魔法の名前を告げ、リティさんは詳細を説明した。
「魔法全盛の数千年前に創造されたとされる伝説の魔法で、効果は見ての通り、森を創ること。しかも驚き、この創られた森は消えないのよ。魔法師がこの場を離れたとしても、効果は永続する。一説によると、この魔法を創造したのは魔法学の父として知られる天才魔法師グレムリル=ソリュードと言われていて、今も大陸の西方に広がる樹海もその魔法で彼が創ったと言われているわね。はぁ……凄い。今の魔法師たちがドヤ顔で使っている魔法が全てゴミに思えてくるくらい素晴らしい魔法ね。惚れ惚れしちゃう……うへへへへっ」
「ちょっとリティさん。涎出てますよ」
「おっと、いけないわね」
俺が指摘すると、ニヤけ面で周囲の森を見ていたリティさんは我に返った様子で、乱暴に口元を拭った。
相変わらずの魔法オタク。
特に伝説の魔法のことになると、途端に残念な美人に成り下がるな。
そんなことを考えながら、俺は足元の草花に触れた。
「んー……凄いんだろうけど、興味ないですね。金貨のほうが欲しいです」
「守銭奴め……」
リティさんは俺を心底呆れた目で見たが、特に何とも思わない。
森なんて幾ら創っても金にならない。ここを住処とする動植物たちにとってはありがたいことなのだろうが、俺には何のメリットもないのだ。
あー……いつになったら俺は、金持ちになれるんでしょーか。
「つーかリティさん。今更ながら、金貨を出す魔法って本当にあるんですか?」
「聞いたことはないわね」
「え、ないの? 天才魔法学者の貴女が?」
もしかして俺がやってきたこと、全部無駄?
心配が胸に生まれるが、リティさんは『そういうことじゃない』と首を左右に振った。
「魔法は数が膨大過ぎて、私でも全ては把握していないの。特に伝説級の魔法なんて、私ですら知っているのは十数個よ。だから、もしかしたら貴方の望む魔法は実在していて──」
リティさんは俺の杖を見て、続けた。
「実在する全ての魔法から無作為に発動するその杖は……それを引き当てるかもしれないわ。勿論、可能性は限りなく低いと思っているけどね」
「可能性があるだけ、十分ですよ」
ゼロより全然マシだ。
その場から立ち上がった俺は衣服に付着した土埃を払い落し、短杖を見つめて野望を口にした。
「俺は絶対に大量の金貨を生む魔法を引き当てて、労働から解放されて悠々自適な暮らしを手に入れます」
「……呆れるわね。なんでそこまで?」
「決まってるでしょ。労働が想像以上にクソだったからですよ。労働以上に人を不幸にして不健康にするものはありません」
「わからないでもないけど……そんな親の仇を見たような顔で言うほどのことでもないと思うわよ」
リティさんは苦笑し、俺の額を軽く小突いた。
「さ、早いところ街に戻りましょう? 死んだ大地に森ができたんだもの。近い内に、人が集まってくるわよ」
「あ、そうですね。騒ぎになる前に逃げましょう」
「犯罪者みたいに言わないで」
本気で嫌そうな顔をしたリティさんの後を追い、俺は森を出た。
ここの新たな住民となった、多くの動物たちに見送られながら。
俺の固有スキル『ランダム』が伝説級の魔法しか発動しないんだけど…… 安居院晃 @artkou
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