第36話 婚約しました
身体が重い……。目を覚ましたら、そこには見知らぬ天井が。
異世界転生テンプレ。
あれ? 魔力使いすぎて僕、死んだよね。
「転生した?」
「多分、二回ほど転生してますけど、今回は転生の前に死んでいませんよ」
「シリルは寝起きから愉快だな」
メルビンとルーファスがそこに居た。びっくりして起きようとしたけど、身体が動かなかった。
「無理しないでください。シリルは死にかけたんですから」
「もう二度とあんな無茶はするな。いくら魔力が強くとも無限ではないんだ」
「すみません、ご心配おかけしました。ところで、ここは?」
「王宮魔法士団辺境支部の、魔法舎です。シリルを診た魔法士がいうには、本能が命の危機を感じ魔法石に込められた自分の魔力を取り込み一命をとりとめたのだと。普通は自分の魔力であっても、魔法石から取り込む事例はない、相当な危機的状況だった、そうです」
「本当に、ご心配おかけしまして……」
魔法石……メルビンの? そっか、メルビンは命の恩人だね。
「そうだ、メルビンには言わなきゃいけないことがあるんだ」
「今じゃなきゃ駄目なんですか?」
「思い立ったら吉日だよ」
「『善は急げ』なら喜んで聞きます」
「……ん?」
善は急げって、ことわざじゃ……?
「私も転生者なので」
「ほわぁっ!?」
驚きすぎてまな板の上の鯉の如くベッドの上を跳ね上がっちゃった。ことわざ知っているってことは、前世、日本人……? サラッと普通に告白されて、びっくり仰天だよ! そういうのって、躊躇うものじゃないの?
「それで、私に言わなきゃいけないこととはなんでしょうか」
「えっと……」
改めてメルビンから訪ねられると緊張する、というか、恥ずかしい。
だけど、ここで逃したらずっと伝えられないままになかもしれない。
「あのね、メルビン。僕……その、メルビンのこと、ずっと好きだよ」
ボソボソ小声になってしまった。
「今さら、何を言っているんだ」
ルーファスが口を挟んだ。
「無粋ですよ。シリルが告白してくれたのに、打ち壊さないでください」
「シリル以上にメルビンを想っている奴なんか存在しないだろう」
「ほぇ!?」
「無自覚か」
「だ、だって、ルーファスはメルビンが好きで……」
「は?」
イケメンのルーファスの眉間に深いシワが寄って……物凄く嫌そうな顔をされた。
「辺境を見て決断するとかなんとか……メルビンに告白するんじゃ」
「馬鹿か」
「ばっ!?」
「決断するといったのは、サンドラ嬢からの婚約の申し出だ」
マジで!? サンドラ嬢、ルーファスに婚約の打診してたの!
「ルーファスの決断は?」
「受けようと思う。俺たちの子供が出来たらメルビンのところへ養子に出してもいいと言いのけたサンドラ嬢くらい肝の据わったやつでないと、辺境では暮らせない。あのはっきりした性格は、さっぱりしていて付き合いやすいし。……その、まぁ、美人で気遣い上手なところもあるし……」
「好きなんだ?」
「悪いか」
「とんでもない、いいことだよ!」
ずっとサンドラ嬢の片思いだと思っていたのに、ちゃんと親交を深めていたんだねぇ。なんだか嬉しい、
「シリルが私に告白した流れをなんでルーファスが取っているんですか。養子云々、私は聞いていません」
影も形もないサンドラ嬢とルーファスの子供の行く末を言ったって仕方ないでしょう。拗ねてるメルビン、可愛いけどね。
「すまない」
「すまないと思うのなら、二人きりにしてくれませんか」
「わかった」
ルーファスが素直に部屋を出ていった。
「先ほどの返事をしてもいいですか?」
「うん」
返事がすぐもらえるなんて、ドキドキする。
「貴方の好きな魔法に夢中になっているところも、何事にも一生懸命なところもいいと、素直なところも、もちろん、その可愛らしい見た目も全てが好ましく思います。シリル、私と結婚してくれますか?」
待って、待って。告白の返事待ちだったつもりが、なんでプロポーズされてるの。
「うん。というか、婚約してるよね……?」
「嬉しいです! 式の日取りはいつにしましょう?」
「メルビン、ちょっと、メルビン。日取りは学園を卒業してから……ってそうじゃなくて。気が早いんじゃ!?」
「シリルは目を離すとすぐ死にかけるんですよ。目の届くところにおいておかないと、いつ、どうなるか」
「それは、ごめんって。でも、僕でいいの? シリル、悪役令息だよ?」
言った途端、ニコニコ満面の笑みだったメルビンの顔がスンッと真顔になった。
「『辺境伯嫡男は恋がしたい』を読んだことありますか」
「知ってるの?!」
「私の髪、桜色だと思いませんか」
「うん? そうだね?」
「ブレードを日本語で?」
「やいば? え、ヤイバ! 桜庭ヤイバ!!」
「お買い上げありがとうございます」
「先生ー!!」
驚いて、ひっくり返った。仰向けに値でたから、うつ伏せ寝。え、え、メルビンが桜庭先生なの!?
混乱している僕に構わず、メルビンは全てを話してくれた。
つまり、僕は小説の中の登場人物に転生したんじゃなくて、シリルの人生を巻き戻ってやり直してた。
「情報過多」
「シリルはシリルで、私は私だっただけです。何も変わりません」
「前回のルーファスとサンドラ嬢が可哀想だよ」
「それは、本当に悪いことをしたと反省しています」
ほんだよ。二人ともいい子なんだから、幸せになってもらいたいね。今回、恋が成就してよかったよ。
「メルビンは真っ直ぐな性格だから、暴走しちゃうきらいがあるね?」
「はい。面目ありません」
「仕方ないから、僕が一生側にいて見ててあげます」
「っ! はい!」
「でも、ちゃんと卒業してからだからね」
「わかりました」
「ふふふ、メルビンいつも僕を思ってくれてありがとう。フルーツ畑、嬉しかった」
「シリルがこちらに来るときは、もっと品質のいいものが採れるようにしたいです。喜んでもらえたのなら、私としてもうれしいですけど」
沢山話したら、疲れてクッタリ。伝えたいことも全部言えたし、満足感が強い。
そっか、メルビンと結婚するんだな僕。婚約者だから当たり前だけど、今さら自覚して嬉しいのに恥ずかしいのです。
――了――
【BL】ちっこい悪役令息はピンク髪主人公に狙われてます 椎葉たき @shiibataki
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