春が来る

1

 若者の死因の多くは自殺だと言う。差別、虐待、虐め、誹謗中傷。この世の中はだいぶ生きにくくなった。

 かくいう私、大塚おおつか紗奈さなも現在進行形で虐めを受けている。陰湿で私には勇気が微塵もないため、先生には伝えられずにいる。伝えたとしても、学校が何か対処してくれるかは分からない。そんな世の中で生きている。

 ため息を吐きながら屋上に上がるための階段を上っていく。屋上は授業をザボっている私にとって、唯一の居場所だ。今も二時間目の授業をサボって来ている。

 屋上から私の綺麗な桜が見えた。憂鬱に生きている私とは裏腹に、桜は5月なのに憎いぐらい美しく咲いている。

 「死にたい。」

 自分よりも美しいものを見ると、私は本当に汚いものだと嫌でも感じさせられる。辛い。何で虐められているんだろう。

 このまま死ねば、みんな喜ぶ。私も楽になれる。

 屋上の柵を跨って外を眺める。良い景色だ。やはり、満開の桜は美しい。

 「ねえ、飛び降りるの?」

 ふわりと飛んで来た男の子は、確かに学校の屋上__五階に、私の目の前にいる。驚いて飛んでしまいそうだったが、屋上の柵を掴んで何とか留まる。こういう臆病なところがあるから死ねないのだろう。

 私が飛び降りないと分かったのか、浮いてる男の子は拗ねたように「何だぁ…。」と言って柵の上に座った。

 ちゃんと足場のあるところに移動して、男の子を睨む。

 「そっちが邪魔して来たから死ななかったの!」

 「嘘だぁ、君が柵を掴んじゃったから飛べなかったんでしょ?」

 ごもっともである。男の子に言われて、更に自分の弱さを実感する。でも、今言い返せなかったら私の負けだ。

 「そもそも、人が何で浮いてるのよ!」

 「だって…僕、幽霊だもん。」

 二時間目の終わりのチャイムと私の間抜けな声が同時に鳴った。

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春が逃げる 琥珀糖。 @co-hakuto-

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