まだ死んでない
「はあ...はあ...!!」
二人で暗闇を走る。
懐中電灯のあかりは数メートル先を照らし、暗闇のこの世界に僅かに希望を持たせている。
ジジジジ...
そんな音を立てて蛍光灯が点滅する。
暗闇だった駐車場を何百、何千もの蛍光灯が照らす。
「ッ!?点いたッッ!電気が!!」
そう言って前を走っているユキノが懐中電灯のスイッチを切る。
蛍光灯が点いた。それだけでもかなり心に余裕が出来たが、化け物に追われている現状は変わらない。
言葉に表せれないような不気味な叫び声が後方で聴こえる。
「大体ッ...!!アイツなんだよ!?」
「しら...ない......!!」
そろそろ走るのにも限界が訪れる。
化け物にはスタミナってもんがないのかよ...。
ジジジジ...
「は!?」
点いたばかりだ、というのにも関わらずまたもや蛍光灯が点滅を繰り返す。
「早くない!?」
「っと、兎にも角にも!!部屋を見つけないと......っ!!あったッ!!」
ユキノの指さす先には鉄製の扉がある。
窓は愚か鉄格子すらないその部屋の内部に何があるか分かるはずもないが、俺たち二人が助かる方法はあの部屋に入る他なかった。
鉄の扉の前にたどり着く。
幸いにも蛍光灯が消えることはなく、俺たちは光が灯されている内に部屋にたどり着くことが出来―――――――――――!?
「あっ...開かない...?」
そう。鉄製の扉には鍵がかかっていた。
ドアノブを何度も回すが一定以上回りきらない。
後ろを確認すると化け物が数メートル先にいた。
このままじゃあ数秒後には死んでいるだろうな。
「......もう......無理じゃん.........」
ユキノはもう既に心が折れている。
それもそうだろう。暗闇の中、何かわからない化け物に追われ、ようやく助かると思った矢先にその希望が遠ざかったのだから。
「ッ...でも、まだ死んでない」
「......え?」
俺の言葉にユキノがゆっくりと返事をする。
「向こう...ギリギリ見えるだろ。扉が」
「...!!」
そう。俺たちの居る場所から数百メートル先に、扉がもうひとつあるのが見える。
――――最も、その扉に鍵がかかっていない保証などないが。
「......行くしかねえだろ?まだ俺たちは生きてる」
「...うん。ありがとう、ニコ」
「先走れ!俺はこいつをおびき寄せてから行く!!」
「...!そんなの...「いいから!」
俺が言うと涙ぐんだユキノが先に走る。
化け物はしっかりと俺の方を見ている。
立ち止まる。化け物がギリギリに来るその時まで。
...ビビるなニコ。お前なら出来るだろ。ユキノを生かすんだ。
化け物はもう目と鼻の先に居た。
奇妙な雄叫びをさらに大きく、耳を劈くような声が聞こえる。
「ッッ!!!」
化け物が手を、俺の顔を掴もうと伸ばす。
そのタイミングで、俺は化け物の股下をくぐり抜けた。
「っぶねぇ!!!」
安堵したのもつかの間、俺の耳には絶望の音。目には最悪の光景が映っていた。
ジジジジ......。
駐車場の電気が消える。
Back Room 翡翠 珠 @Kopepe
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。Back Roomの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます