エピローグ……?

 入学式の日。

 俺は血が直接繋がっていない母から、将来どうしても父のことを知りたくなった時の手掛かりとして受け取ったボールペンを持参して、入学式に参加していた。

 天集院家の分家である霧山家のご子息だからか、それとも数年ぶりの登校に合わせて萌黄や司が何かしたにだろうか、妙に女子からの注目を集めていて、さっき会った司や萌黄ともあまり話せなかった。

 それに、俺の親族は今日誰一人として入学式に参加していないから、正直なところ状況も相俟ってサボりたくもなるが、このボールペンを持っていれば、どこかにいるはずの父親と繋がっていられると思えたから嫌々最後まで参加した。

 そして何故か俺と話したい女子と話しつつ、なんとか俺の席に座った俺は、ボールペンを鞄に入れ同じクラスになれた萌黄に本を返しつつ話そうとした時だった。

 萌黄の近くにいた女子が、なんと俺のボールペンが盗まれたと言いだしたのだ。

 最初は酷い虚言だと呆れかけたが、彼女の強い目を見て決して嘘をついているわけではないと悟った俺はすぐに鞄を改め、鞄からボールペンがないことに気がついた。

 それからの彼女、忍足紫は実に立派だった。今でも感謝してもしきれないし、おそらく彼女に感謝をすることはきっとこれから多々あるのだろう。

 それからは司と萌黄の友人となった忍足さん、百地さんと行動を共にすることが多くなった、……とはいえ移動時間や休み時間は女子に囲まれることが多いので、夕食の前後が主な機会だったが。

 だが入学してから一週間後、私物がいつの間にかなくなるという噂を何人かの女子から聞いた俺は、また自分を狙う誰かの仕業か、それとも学園内で風紀を乱す輩がいるかと思い、わざとらしく盗まれてもあまり問題がない私物や、一応そこまで高価ではない時計を取りやすい状態で放課後に放置し、下校時刻ギリギリに回収しに行ったが、そこで俺の護衛であり忍者でもある紫陽花と、亜人であり入学初日に俺のボールペンを盗もうとした町田さんと衝撃的な出会いをした。

 亜人の存在自体はなんとか納得できたが、誰が紫陽花というボディーガードを付けたのかは今でも全く分からないままだ。まあ、ひとまず害はないし、現状利益しかないから無理に断る必要もない。

 そして翌日紫陽花を俺の部屋に招き入れた後、強力な亜人であり吸血鬼でもあった百地さんと紫陽花は衝突したが、なんとか平和的に解決することができ、誰も悲しい思いをすることはなかった。

 ……だが俺は一つ言いたいことがある。

 それは紫陽花、いや忍足紫が全く正体を隠せていないということだ。

 いや、それこそ仮面で顔を隠しているし、何か仕込んでいるのかいつもより身長も高めで髪型も違うから、普通であれば彼女を疑うことはないが、

 初日のボールペン事件、そしてその犯人と顔見知りであること、さらには紫と紫陽花というどこか既視感のある名前、顔見知りでないはずの百地さんと親しいこと、その際に仮面が壊れて鼻から下が丸見えになってしまっていたこと、極めつけに、俺のことを「霧山くん」と呼んでしまったいたから意図していなかったものとはいえ状況証拠しかない。

 まあ、俺もつい間違えて紫陽花の時の彼女に「忍足!」と声をかけてしまっていたが。

 だが彼女は案外抜けているのか、それともしっかりしているように見えて天然なのか、俺が紫陽花は忍足紫だと疑っているかもしれないと考えてもいなさそうだったから、あえて今日の朝は俺からアプローチをしてみることにした。

 俺の友人であり、護衛である君は俺にとって特別な存在なのだと。

 そうしたら何故か彼女は動揺しながら逃げてしまったが、……まあ、これで少しは察しがついただろう。

 そう思いながら俺は食堂でおにぎりとかぼちゃサラダを購入し、朝食を食べていない忍足さんに届けに行くことにした。

 そしてこう彼女にこう伝え直そう、

「改めてよろしくな、忍足紫」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

クノイチボディーガード、御曹司をお守りします! 音羽水来 @kawa42we

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画