第3話 使い魔セラフ
side:???(白猫と呼ばれる者)
正直ホッとした。彼女たちが了承してくれなければ、非常に少ない確率で生まれる彷徨う魂を何十年も探さなければならなくなっていた。イルメリアの事を想えば、少しでも早く彼女を元に戻せるかもしれない方法を試しておきたい。
初台千歳達には実験のような事をさせてしまうが、彼女たちもこのまま記憶も魂も消えてしまうのが怖かったのかも知れない。だったら、僕が出来る最大限の支援はしておくべきだろう。非常に乗り気になっている仙川つつじが気にならないでは無いが、とりあえずは話を続けていこう。
「君達のこの世界、そうだな、ドルアと名付けようか。ドルアでの生活をサポート出来る使い魔を付けるよ。一匹だけなのは申し訳ないが、優秀な子だから頼りにしてくれて構わない。」
「白猫さんが教えてくれたりはしないんですか?」
「さっきも言った通り、僕は他にもたくさんある別世界の繋ぎ役をしなければいけない。こんな大変な事を君達に頼んでおいて申し訳ないが、ドルアに掛かりっきりになる訳にもいかない事情がある。そして、僕はこのアパート以外の場所で君達と話したり、こう言う他の生き物の姿を借りて現れる事が出来ない。」
「そうなんですか?」
これは仕方がない。彼女たちはもちろんだが、僕自身がこの世界で神として信仰されている訳でも無い。僕はいない存在なのだ。今、こうして彼女たちと話せている理由は天照大御神達に力(神力)を分け与えて貰っているからだ。それもそんなに長くは貰い続ける訳にもいかない。
その説明にも彼女達は違和感も不思議にも感じる事無く納得してくれていた。さすがはライトノベルだったか、あぁ言った作品を読み漁ってくれていただけある。発想が豊かだ。
「今後はその使い魔が君達を支える。僕はそろそろ時間が無くなりそうだ。」
「待ってください! 白猫さんの名前は?」
「言っただろう? 僕に名前は無い。好きに呼べばいい。」
「分かりました! 次に会う時までに決めておきます。」
面白い人間達だ。僕に名前を付ける事に何の意味がある? 白猫で良いじゃないか。それで会話に不便は無いのだから。彼女たちに使い魔の呼び方を教えて僕はまた時間と世界の狭間に戻った。
・・・・・・・・・・
side:初台千歳
私達は白猫さんに教わった通り、生活を助けてもらう使い魔さんを呼ぶために4人で話し合いました。
「全員のイメージの平均が使い魔の姿に影響しちゃうのよね?だったらどう言う子が良いか、話し合いましょう?」
「そうっスね。4人が別々の生き物想像しちゃったら、すげぇキメラ生まれてきそうだし。」
「私、可愛い子が良いです。ずっと一緒に生活するんだろうし。」
武蔵君は頼りがいのある生き物でも良いんじゃないかと提案したが、そこは女子3人の意見に流される形に。リスや狸と言った小動物系が良いと言う事になりました。つつじちゃんが絵が得意なので、皆の意見を取り入れてくれる。
基本ベースはリス。でも耳は少し長く、尻尾は巻いていません。ふわふわで長く垂れています。一番イメージが近いのは私達の世界のRPGゲームの二大巨頭の一つに幻獣として登場するカーバンクルです。モデルとなったモノには額に大きな紅い宝石がありますが、私達の使い魔はそれを首輪のデザインに組み込みました。
「つつじちゃん、絵が上手! これならイメージがブレる事は無いわね。」
「後は名前ね。どうしようか?」
「カーバンクル..から取る必要も無いか。」
名前も考えなければいけません。白猫さんから使い魔に性別は無いと聞いていますから、どちらでも違和感無い名前にしてあげたいです。和名も良いでしょうし、カタカナ名ももちろん有りでしょう。
私達は話し合った末に『セラフ』にする事にしました。ファンタジー小説などで天使の階級に使われる名前。セラフィムなんて良い方もありますが、セラフの方が呼びやすそうだし馴染みやすそうだと意見が一致しました。
私達はこたつ机の上に置かれたつつじちゃんのイメージ画を見ながら、白猫さんに教わった使い魔召喚の方法を実行します。4人がこたつを中心にして円形に手を繋ぎ声を揃えて召喚の言葉を唱えます。
【そなたの名はセラフ。その力で我らを救い給え。】
私達の円の中心に不思議な光の球体が現れます。私達は白猫さんに「使い魔が現体化するまでは手を離すな」と言われていたので、緊張しながら手を繋ぎ続けます。右手側のつつじちゃんも、左手側の桜ちゃんも、手に力が入っているのが分かります。
段々と光の球体はその光量を抑えているように感じます。すると球体が姿を変えて、つつじちゃんの書いていたイメージ画にそっくりな『セラフ』になりました。
両手で包めるくらいの大きさのセラフはなぜかイメージ画が消えてしまった一枚の紙の上にポトリと落ちると、可愛く体を振って目を開きました。私達4人の顔をきょろきょろと見て居住まいを正しました。
「無事に呼んでいただき、ありがとうございます。セラフでございます。ご主人様方のお役に立てるように精一杯尽くします。」
待って!可愛すぎるんだけど!!声は男の子っぽい声だけど、必死に丁寧に大人っぽく喋ろうとしてる感じがヲタ心をくすぐるわ!
「初めまして。初台千歳です。千歳ってよんでね。」
「はい。チトセ様。」
「高尾桜です。桜って呼んでください。」
「畏まりました。サクラ様。」
「仙川つつじよ。つつじで良いわ。」
「はい。ツツジ様。」
「久我山武蔵っス。武蔵で良いっスから。」
「よろしくお願いします。ムサシ様。」
挨拶が済み、満足な私達にセラフが質問してくれました。
「皆様は家名をお持ちなのですね。」
「家名?あぁ、苗字の事?」
「そうでございます。ツツジ様。」
「苗字は珍しいの?」
「いえ、珍しいと言う訳ではありませんが、このドルアでは家名を持つのは貴族のみでございます。ですので、皆様ももしそのお名前で生活されるのであれば、貴族であると周りの人達には認識されると思われます。」
そうか。たしかにラノベの転生モノなんかで中世チックな世界に転生しちゃったら苗字持ってるキャラクターはほとんどが貴族だったもんね。だったら、苗字は使わない方が良いかぁ。セラフに相談してみる。
「それが宜しいかと思います。」
「セラフ、もう少し砕けた話し方で良いよ。これからは私達と家族として暮らして貰うんだから。使い魔だからみたいには考えないで。セラフも私達4人と同じで知識はあったとしても、ドルアで暮らすのは初めてでしょ?」
「はい....そうですが、しかし....」
「私達が良いって言ってんだから、良いのよ♪」
「わかりました。努力します!」
さて、ここからどうすれば良いかをセラフも含めて話し合います。このアパートはこのままこの土地に元々あったようにこの建物を知る者の記憶と国に残る記録は書き換えられているそうです。。ここに住んでいた老夫婦が私達に建物を譲り、別の町に移ったと言う設定になっているそうです。これからはこの設定で口裏を合わせて欲しいとセラフから指示されました。
「でも、慣れ親しんだアパートに住めるのは良かったわね。」
「そうっスね。いきなり異世界に放り出されて自分達で暮らせってラノベじゃ良くある設定ですけど、かなりハードモードですもんね。」
「他に何か助けてくれるモノは無いの?セラフ。」
つつじちゃんの遠慮ないお願いにセラフは笑顔で応えました。
「ツツジ様。ございます。これから皆様に技能、この世界ではスキルと呼ばれるモノをお渡しします。」
来ました! 異世界!! 私達の顔が一気にワクワクし始めたのが分かりました。
(仮)おばあちゃんのアパート相続したら住民の方と一緒に異世界に飛ばされた私の苦労譚【アパ譚】 一仙 @mamajr0909jp
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