第3話 Port town
潮の香りと騒がしい声が耳をついた。青空の下、港町の石畳を踏みしめる無数の足音と、どこか異国情緒漂う町並みが広がっている。30代半ばの平凡なサラリーマンの俺は、まるで夢でも見ているかのようだった。
「ここはどこだ…?」
日本語をつぶやいても、周囲の誰も振り向かない。目の前を行き交う人々は、まるで大航海時代の映画セットから抜け出したような服装をしており、言葉は英語だった。幸いにも俺は大学時代と昇進のためにTOLCテストの英語を勉強していたおかげで、会話を理解することができた。
「また別の世界にTripしたのか…?」
戸惑いながらも、自分の置かれた状況を理解しようと歩き出す。まず目に留まったのは、町の中心にそびえる荘厳な教会だった。扉を開けると、祈りを捧げる人々がひざまずいており、壁に穴をあけただけの窓から差し込む光が幻想的な空間を作り出していた。
「Excuse me, where am I?」
(すいません、ここはどこでしょうか?)
俺は近くにいた神父に声をかけた。
「ここはポートヘブン聖堂ですよ。カリブ海の中で3番目に大きな主に使えるための空間です。」
神父の言葉に、俺の混乱はさらに深まる。カリブ海?夢ではなさそうだ。先ほどまで過去の記憶の中にいたのだが、どうやら今は他の世界にいるらしい。
教会を後にした彼は市場に足を運び、町の雰囲気を探った。商人たちが声高に商品を売り込み、子どもたちが笑い声をあげながら駆け回っている。
市場を歩いていると、近くの酒場から笑い声と歌声が聞こえてきた。俺はその音に引き寄せられるように中へ足を踏み入れた。薄暗い店内には、酒を手にした海の男たちがたむろしており、まさに異世界といえる光景が広がっていた。
「よう!見かけない顔だな。とりあえずラムでもやってけよ!」
ひげ面の男が酒を差し出してきた。俺は軽く会釈してその場に腰を下ろす。
「知ってるか?どうやらキャプテンミシェルの狂舞踏の船がどでかい宝を手に入れたらしいぞ!」
その言葉に、酒場の全員が耳をそばだてた。どうやらこの港の海賊船に莫大な財宝が眠っているらしい。
「お宝ねぇ…」
前の世界では楠木の下にある光を手に入れた時にこの世界にきた。ということは今回はその宝の中に光があるのか、?
思わずつぶやいた正人の声に、隣の男が興味を示した。
「お前も狙ってんのか?ここ最近命知らずたちが何人も挑むってやつがいたが結局どうなってんだかなぁ。お宝さえあれば一生酒が飲めるのにな!」
正人の胸に、不思議な冒険心が芽生えてきた。現実味のないこの世界で、何か一つでも手がかりを掴むために動かなければならない。
その夜、俺は酒場で得た情報を頼りに、港に停泊している「狂舞踏の船」を目指した。船の周囲を見張る海賊たちの隙をつき、ひっそりと乗り込む。月明かりに照らされた甲板はひんやりと冷たく、風が帆を鳴らしている。
「さて、宝はどこだ…?」
船倉に向かい慎重に歩を進めると、輝く宝箱が目に入った。周囲には誰もいない。俺はそっと箱を開けた。中には金貨や宝石が詰まっており、目を見張るほどの輝きだった。その中にひときわ輝く光を見つけた!
だが、次の瞬間、大勢の足音が近づいてきた。
「誰かいるぞ!みんなこい!」
海賊たちが一斉に叫び、俺に襲いかかってきた。必死に抵抗するものの、相手は武装しており、多勢に無勢。あっという間に取り押さえられた。
目を覚ますと、俺は薄暗い牢屋の中に閉じ込められていた。手首には鉄の鎖が巻き付いている。揺れる船上での失神は慣れないものには脅威だったらしく、体を起こすとすぐに胃から酒場のラムが飛び出してきた。
「お、起きたか新入り」
隣の牢屋から声が聞こえた。声の主は、堂々とした体格の男だった。鋭い眼光を持つその男は、自己紹介を始めた。
「俺はキャプテンジェームズ・ロックだ。まだ無名だが、すぐにでもカリブ海でその名を轟かせる男になるさ。お前は?」
「俺はジャックだ。この船にある宝を盗もうとしたんだが、どうやら失敗したらしい」
咄嗟にそれっぽい名前を名乗ってしまった。
奇妙な状況に置かれた二人だが、共通の目的ができた。脱獄だ。
ジェームズは笑いながら語った。
「そうか!よろしくなあジャック。変な見た目してるが俺は気にしねぇ。ここから出たらお前を俺の船のクルーにしてやるよ!」
「それはありがたいが、ここから出る目算でも立ってるのか?」
髭面がニヤつき、得意げにジェームズは言った
「この船はもう港を離れてるが、波の音を聞く感じだとそろそろ嵐が来る、このオンボロの牢屋ならその衝撃で壊れるだろうさ、そこを狙う。」
翌晩、ジェームズの読み通り嵐がきて船内は大変なあれ様だった。船底が浸水し波にぶつかる衝撃で牢屋の扉が開いた時、2人は音を立てないよう慎重に行動した。
「静かにしてろよ、今鍵を開けてやる」
どこに隠し持っていたのかジェームズは針金を取り出し慣れた手つきで錠を俺の分まで外してくれた。
通路を抜けると、見張りの兵士たちが立っていた。ジェームズは素早く兵士を背後から首をしめ失神させた。
「な、うまくいったろ?」
二人は笑いを堪えながら、外の空気を目指した。月明かりが差し込む甲板にたどり着くと、ジェームズが舵を取れる小型船が見つけた。
素早く乗り込んだ。
脱獄に成功した二人は、追っ手を振り切りながらカリブ海の広大な海原へと漕ぎ出した。
カリブ海の夜明けは、美しくも残酷だった。水平線から顔を覗かせる朝日が、果てしない海の上に小舟を浮かび上がらせる。 そこにいる2人の男たち。
彼らは前夜、敵の海賊船から命からがら逃げてきたばかりだった。荒れた船上で銃声と叫び声が飛び交う中、運命を共にする形で手を組んだのだ。
「ジェームズさん、これからどうするんですか?」俺は、喉の渇きと不安を隠せない声で問いかける。
「どうするもこうするも、このまま漂うしかねぇだろ」とジェームズが低い声で答えた。彼は乱暴に舵を動かしてみせたが、無風の海上では無意味だった。
「だがよ、お前に一つ見せてやるものがある」
ジェームズはそう言うと、懐から布に包まれた物を取り出した。それは敵の海賊船から盗み出したお宝だった。布を広げると、中には拳ほどの大きさの光があった。
「まあ俺もただじゃ捕まらねえってことだ」とジェームズが自信ありげに笑う。その歯の間には金歯が光っていた。
「すごい……これは、何ですか?」俺は光を恐る恐る見つめた。
「ああ、これはただの宝じゃねぇ。俺にとってはな。」
その言葉を聞いた瞬間、光は大きく輝き目の前が真っ白になった。
俺は気がつけば砂漠の上に立っていた。
SweetTrip 双傘 @miyutsuka
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