エピローグ

二十一世紀、夏。日本では世界から多くの外国人が訪れるようになり、全国各地で様々な賑わいを生み出していた。

海斗がいた町も平成の大合併を通じて大きな市街地へと変わり、その生活もかつての日に比べればかなり豊かになっている。

そんなある日、とある老人の家に家族が訪れていた。


「じぃじ! こんにちは!」

「ただいま父さん。元気にしてたか?」


玄関先で小さな女の子とその父親が挨拶をすると、足運びはゆっくりながらも一人の老人が顔を出した。


「おお、暑い中よく来たねぇ。早く部屋に入りなさい」


この老人こそ、長い年月を生きてきた海斗だった。年齢は今年で八十八歳となる。


「父さん、無茶はするなと言っただろう。去年躓いて転んだ衝撃で骨折したばかりじゃないか」

「もう大丈夫だよ。医者からもそう言われたからね」

「ならいいけど...」


心配する息子の声を海斗はのらりくらりとかわしてみせた。


「ねぇじぃじ。あそこのお飾りはなぁに?」


女の子、海斗の孫は棚に大切に飾ってある瑠璃のブローチを指さして尋ねた。

それに海斗は優しくこう答えた。


「あれはな、じぃじが昔一緒に暮らしてた人のものなんだよ。じぃじに託されてから、ずうっと持っているんじゃ。だから触るんじゃないぞ。良いかね?」

「うん! ねぇじぃじ、絵本読んでよ!」

「ああ、もちろんだとも」

「すまねぇな父さん」

「構わないさ。翔太も久々の休みなんだろう?ゆっくりしていくといい」


その面影が翔によく似ていたという話は、海斗すらも知らぬ話だとか。


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君の代わりに翔べるなら 白玉ヤコ @Siratama85

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