五、紙切れの報せ 永遠ノ別レ

翔が出征してからかなりの月日が流れようとしていた。海斗は最初の頃こそ寂しさのある生活をしていたが、時折届く翔からの手紙に元気と安らぎをもらっていた。

翔からの手紙には、同期の兵たちと何時、何をしたかが限られた紙の中にびっしりと記されており、その一通一通が海斗にとって宝物となっていた。


そんなある日、速達で届いた手紙の封を開くと、他の文はつゆも無しにただ一文だけ書かれていた。


「八月十三日の午前十時頃、君ありし町の上空を駆けん。」


力強い筆跡で、されどハッキリとした字体で書かれた一文で海斗は察しがついた。


翔が鳥のように空を駆け、敵もろとも海原の底へ誘おうとせん事を。





そして来たる八月十三日。その日の海斗は朝から落ち着きがなかった。絶対に義兄あにの飛び立つ様を見届ける。その決意だけは解けることがなかった。

翔に教えてもらった加加阿の甘味をひとつ口にしようとした時、遠くの方から真っ直ぐこちらに向かってくる音が聞こえた。


靴を履かずにドタバタと慌てて外へ出ると、今まさに戦闘機の数々がはるか地平線へと飛び去っていく瞬間だった。


海斗は飛び去っていく方向に身体を向けると、敬礼をしてただみつめていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


二日後、政府はポツダム宣言を受諾すると共に無条件降伏を受け入れ、終戦を迎えることとなった。これにより、四年も続いた争いの世が幕を閉じた。


翔に関する報せが届いたのはそれから一週間後の事で、海斗の元に届いたのは翔の死亡を伝える紙切れ一枚と、彼が御守りとして肌身離さず身に付けていた瑠璃のブローチだけだった。


海斗は遺されたそのブローチを、いつまでも繋ぐとその蒼き輝きに誓った。

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