星の終わり『白い星』

——遥かなる旅の訪れ。


 氷色の星レイコックの住人レイコッキッシュの代表は、ひとり、宇宙を旅する乗り物に乗って、砂色の星サバーキンと赤紫色の星ヴァードクスィンに立ち寄り、それぞれの星の代表を一人ずつ乗せた。サバーキニアンの代表は、サバーキンで取れた、非常に丈夫な金属で、宇宙を旅する乗り物を、より堅牢な作りにした。ヴァーキーの代表は、ヴァードクスィンで取れた、よく燃え、軽く、長持ちする燃料で、宇宙を旅する乗り物の、飛ぶ能力を高めた。こうして三星さんせいの代表は一丸となり、白い光を取り戻す旅に出たのだ。


 白い光。

 遠い昔、恒星プレエンは、青い星と、緑の星と、赤い星とを明るく照らした。だがプレエンは、小さく白い星の姿を経て、今や黒い星となった上、遠く離れてしまったので、もはやその姿を目視することは叶わない。


 レイコッキッシュの代表は操縦桿そうじゅうかんを握り、その持ち前の高い技術を駆使して、闇に紛れるプレエンがかろうじて放つ波の軌跡をなぞり、ひたすら、飛んだ。


 出発からしばらくして……

 一行は、黒い宇宙の中で、一際ひときわ黒々としている『点』を見つけた。

 

「「「我々は、あの点に飛び込まなければならない」」」

 三星の代表たちは、使命じみたように、口を揃えてそう言った。



——《宇宙を旅する乗り物は『⚫︎』を目指して突き進む》——



 『点』が迫る。

 レイコッキッシュの代表は突如、操縦を放棄した。それはなぜか。宇宙を旅する乗り物は、『点』に吸い込まれているのだ。もはや、あとは流れに身を任せるのみ、なのである。


 『点』に近づくにつれ、つまり母なる三星から遠ざかるにつれ、乗り物の表面の金属が、その色を、虹色の連続諧調れんぞくかいちょうへと移ろわせながら、波打つように放ち続ける。


 短い波は青く、

 短くも長くもない波は緑に、

 長い波は赤く、

 おのが存在を誇示する。

 

 その色たちは、三星の、輝かしく懐かしい姿を思い出させる。

 

 赤色はしだいに霞みゆき……


 消えた。

 だが、文字通り消えた訳ではない。


 三星の思いを乗せた塊は、まだ確かに存在しているのだが、森羅万象のいかなる力をもってしても、捉えることができないのだ。


 すなわち…… 


 心の目で見るほかない。


 ……。


 ……。


 ……。


 道は見えた。



 ⚫︎。

 ———

 ——————

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   見

  えない

 何かに強く

引っ張られるよ

 うな感覚が

  ある…

   …



 その何かの働きは、とてつもない勢いで力を増していく。

 引き裂かれてしまいそうだ。

 きっと『点』に近づいているのだ。



 ︎⚫︎。

 ———

 ——————

 —————————

 ————————————



 あともう少し



 ︎⚫︎。

 ———

 ——————


 

 ほんの少し



 ⚫︎。

 ———



 目前



 ⚫︎。



 今にも『点』に落ちる



  。


 

 いや、落ちない。

 三星の思いは、漆黒の『点』へと繋がる軌跡かられた。


 代わりに、『空間の抜け道』を進んだのだ。


 三星の思いのたけは、道を進むうちに、得体の知れない力の働きによって、わずかばかりに大きく、やや大きく、ほんの少し大きく、少し大きく、大きく、より大きく、かなり大きく、とてつもなく大きく、計り知れないほど大きく、ありえないほどに大きく、みるみるうちに増大していく。


 『思い』は、さまざまに叫び声を上げる。


 青氷の惑星シアンからの、

 凍てつく冷たさのあえぎ。


 黄砂の惑星イエローからの、

 地に埋もれゆく嘆き。


 紫毒の星マゼンタからの、

 けがれにむしばまれるもだえ。


 三星全てからの、

 どす黒い、

 白い光への宿願しゅくがん


 これらは、

 闇であり、

 あんであり、

 かげであり、

 負であり、

 裏であり、

 黒である。


 叫び声は、

 懐かしき三原色となり、

 混ざり合う。


 命の水の青。

 

 豊穣ほうじょうの草木の緑。

 

 文明の火の赤。

 

 白き光のみなもとたちの、

 玉を転がすような歌声。


 これらは、

 光であり、

 明であり、

 陽であり、

 正であり、

 表であり、

 白である。


 混ざり合い、一つになった三原色は激しく明滅する。


   ⚫︎

    ◯

   ⚫︎

    ◯

   ⚫︎

    ◯

   ⚫︎

    ◯

   ⚫︎

    ◯

   ⚫︎

    ◯

   ⚫︎

    ◯

   ⚫︎

    ◯

   ⚫︎

    ◯

   ⚫︎

    ◯



__人人人人人人__

>   ◯    <

 ̄ ̄Y^Y^Y^Y^Y ̄ ̄



 三星の思いは

 無限の白を放つ

 一つの思念体となった。


 三星は

 一つの白い光に

 成り代わることで


 清く

 純一無雑じゅんいつむざつ

 永遠を

 手にした。



〈完〉

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三原と明暗の天体 加賀倉 創作【ほぼ毎日投稿】 @sousakukagakura

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