星五つ『赤紫色の星』

 妖しい赤紫色の玉。

 

 その玉の表面は、たった一色で塗りつぶされているわけではない。

 赤みが強いところ、紫がかったところ、それらが混ざり合ったところがある。

 色たちは、不均質な、ムラのある縞模様を形成し、時間の経過とともに移ろいゆく。

 それは毒の沼の流れか、あるいは妖しい臭気の彷徨ほうこうにも見える。

 

 事実、

 そうなのだが。


 その赤紫色の星の名は、『ヴァードクスィン』。


 かつては、今のような禍々まがまがしい姿をしておらず、美しく燃える、赤い星だった。

 ヴァードクスィンには、『火』が多い。

 星のそこかしこに、種火があった。

 そしてそれら火は、星の住人ヴァーキーにとって、命の火だった。

 ヴァードクスィンは赤白い星プレインから遠く離れていたため、凍てつくほどの寒い気候だった。

 だがヴァーキーたちは、火を使って暖をとることができたので、十分寒さに耐えられた。

 火が、命の火と呼ばれる所以ゆえんは、他にもあった。

 ヴァーキーたちは、一つ内側の軌道にある、星の住人レイコッキッシュに、火を渡す代わりに、レイコックではごみ同然の『氷』を受け取った。

 氷は火によって水となり、ヴァーキーたちの渇きを癒した。

 火は他にも、糧や、道具にも換えられた。

 しかし、……


 火は牙を剥いた。


 火は一転して、ヴァーキーをおびやかす存在となった。

 いや、というよりは、ヴァーキーたちはその使い方を誤った。

 火が無尽蔵にあるのをいいことに、星じゅうのものに手当たり次第に火をつけて、明るさを保とうとしたのだ。

 地域によっては、白い光を失う前と同じくらい明るいところもあった。

 だが、あまりにも無差別に、無計画に燃やしたので、燃やすべきでないものも、燃やしてしまっていた。

 その結果、淡紅色あわべにいろの毒ガスが大量に発生した。

 ヴァーキーたちは、呼吸をするために、毒ガスを吸うことを余儀なくされた。

 当然、毒ガスはヴァーキーたちの全身をむしばんだ。

 一人、また一人と、ばたりばたりと倒れていった。

 その間も、火の広がりはとどまることを知らず、全てを焼き尽くしていった。

 しまいには、様々な燃えかすが複雑に混ざり合い、暗紫色あんししょくのヘドロとなって、地を覆い尽くし始めた。

 もはやヴァードクスィンは、かつての美しい紅玉のような姿を、取り戻せそうになかった。


 とうとうヴァーキーたちは、星からの脱出を考え始めた。

 しかし脱出のためには、宇宙を旅する乗り物が必要だった。

 そんな彼らに、思わぬ収穫があった。

 何度も何度も化学反応を繰り返したヘドロの中に、軽く、よく燃え、長持ちする、画期的な燃料が見つかったのだ。

 ヴァーキーたちは、燃料を発見すると、すぐさま隣の星に住む、レイコッキッシュたちに交渉を持ちかけた。

 

「われわれは、優れた燃料を提供する。その代わり、宇宙を旅する乗り物に、乗せてくれないだろうか?」

 

 レイコッキッシュは快く承諾してくれた。


 砂色の星、サバーキン。

 氷色の星、レイコック。

 赤紫色の星、ヴァードクスィン。


 三つの星はおのおのが再び

 

 緑

 

 青

 

 赤

 

 光の三原さんげんとなりて、白い光を取り戻さんと、宇宙の彼方へと向かうのだった。


〈星の終わり『白い星』に続く〉

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