星四つ『氷色の星』

 闇夜に、一滴の水玉が落ちゆく。

 いや、違う。

 水でもなければ、落ちてもいない。

 凍った水。

 冷たい氷色。

 それが、漆黒を背に、浮いている。

 時が止まったかのように、沈黙している。

 だが、その表面で何かが、微かに、動いている。


 その氷色の星の名は、『レイコック』。


 レイコックは、かつては濃い青色をしていた。

 氷ではなく、冷たい水があった。

 大量の冷たい水には、土地がぽつり、ぽつりと浮かんでいた。

 土地は僅かだったが、栄養に富んでいた。

 そこには、非常に知能の高い生物が暮らしていた。


 レイコッキッシュだ。


 レイコッキッシュらは、栄養豊富な大地と、清涼な水とを用いて『植物』を育て食糧とした。

 また、いくつもの大きく高さのある建物を築き、そこにひしめきあった。

 さらに、多くの緻密な道具を作り、非常に快適かつ余裕ある生活を送った。

 レイコックは、この辺りの惑星でも、かなり繁栄した方だろう。

 食糧や道具、それらを作る技術を近隣の惑星に売り込んで、貿易もした。

 レイコッキッシュの創造物は、『きん』という美しい金属や、冷たい水を温めたり道具を作ったりするための熱になる『火』に代えられた。

 しかし、以来……


 レイコックを覆う冷たい水は、固い氷へと姿を変え始めた。


 水を絶たれたレイコッキッシュたちは、ひとり、またひとりと、渇いた叫びをあげる。

 水は、レイコッキッシュ自慢のものづくりにも必要不可欠だったので、それもできなくなった。

 何もつくれずじまいで、当然貿易に出すものもなく、きんはおろか、火も入ってこなくなった。   

 火という熱源を失い、水を温めることもできなくなったので、冷たい水はさらに冷え、凍って氷になり、使い物にならなくなった。

 レイコッキッシュは生きるためにやむを得ず……


 自身の生み出した生物を傷つける道具の一つである、『兵器』で殺し合った。


 結果、水を欲する者は減ったが、やはり水は足りなかった。

 水を奪い合い、殺し合うことに疲弊した、レイコッキッシュは、星の外に出ることを思いついた。

 手先の器用さをいかして宇宙専用の乗り物をつくり、他の星の住人たちに先立ち、水を求めて旅立った。

 旅人たちは、透明の星『アクリア』を見つけた。

 そしてそこから、暖かい水を奪った。

 魚も奪って、食料とした。

 レイコッキッシュの生活はいくらかましなものになったが、大きな問題があった。

 アクリアで採水してからレイコックに戻ってくるまでに、水はかなり冷えてしまうので、結局、そう長くは保管できない。

 結局のところ、根本的に水不足を解決するためには、を、取り戻すしかないのだと、レイコッキッシュたちは気づいた。

 ちょうどそんな時に、ひとつ内側の軌道にある、砂色の星の住人、サバーキニアンから、こんな声がかかった。


「氷色の星の住人よ、われわれと共に、を追いかけないか?」

 

 レイコッキッシュはこの提案をすんなりと受け入れると、一人の代表を選んだ。

 そして、星の英知を結集し、宇宙を旅する乗り物をつくりあげ、これを提供した。


 旅が、始まろうとしていた。


〈星五つ『赤紫色の星』に続く〉

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