小説「夏に溺れる」

テンポ感が素晴らしい。

 かなり予想を裏切られていく。居ないのか。

 理由がないと何かが出来ないキャラクターしか描いたことがなかった。

 それは理屈めいていて理系の私らしい作品だったけれど。

 こういう曖昧な。漠然とした感情で何かをするキャラクターを描いてみたくなった。

 バケモンかよこの作者。162ページから泣いちゃったよ。負けた完敗。敵わない。

 俺にはこんなに心を書けない。並大抵の言葉じゃ言い表せなられない。

 テンポ感も良いし全部が全文良いし。俺の書いてる小説が如何に幼稚なのかって思い知らされた。

 18才ってマジかよ。どんな18年間を歩んできたらこんなイかれた物語を書けるんだ?

 悔しい、ガチ悔しい。すげぇよ。敵わねぇって。

 夜凪凛の過去、私はめちゃくちゃ共感できるよ。

 私も人の気持ちが分からない人間だった。

 みんなと同じにしてるつもりなのに、なぜだか自分だけが先生に怒られた。

 何が間違っているのか分からなければ、直しようがない。それは本当にそうだった。

 僕だってできることなら優等生になりたかったんだ。でもどう頑張っても人の気持ちを察するのが苦手だった。空気が読めない奴だと言われて、幼稚園でも小学校でもいじめられた。

 私がおかしいんだ。私が間違ってるんだって、必死に直そうとしたんだ。

 人の顔色を窺って、人を傷つけないように必死に頭を回転させて、嫌われないように叱られないように、命懸けで自分を端正していった。

 普通の人になれるように、必死で周りの人たちを真似した。

 こんな自分じゃダメだ。もっと良い人にならないとって今の自分を否定して嫌いになって。

 爽やかに笑う練習をした。女子にウケる話も必死に考えた。苦しいのは自分の努力が足りないからだって、死に物狂いで人間関係を頑張った。

 両親に認められたくて、クラスメイトに認められたくて、友達が欲しくて好きな人に振り向いてもらいたくて、

 僕はわざとドジをした。いじられキャラを目指した。それは半分いじめで心は痛かったけれど無視されないよりはマシだった。

 でも、どれだけ頑張ってもちっとも幸せになんてなりやしない。

 努力そのものが、苦しくて、

 僕は鬱病になった。

 10年間、何度も暗闇海に突き落とされては、両親や良い先生に助けられて、また落ち着いて陸を目指した。山の上を目指していた。

 僕と夜凪凛の違いは、どん底で支えてくれる存在がいたかどうかなんだと思う。

 僕は両親に恵まれた。僕がこの10年間鬱病で苦しみながら、性格が歪む事なくまっすぐに育ったのは、お父さんとお母さんと兄弟たち、先生や同級生たちのお陰に他ならなかった。

 私の作品である"初恋ゴースト"と、"夏に溺れる"の違いはそこなんじゃないかなと思う。

 

 10年が経ち。僕は誰よりも人の気持ちが理解できるようになった気がする。

 高校野球部時代の僕は周りから、

 気配りが出来る人間。優しい奴で、誰よりも努力家って言われていたけれど。

 それは僕の苦しみを伴った凄まじい努力によって実現できていた事だった。

 人との会話を何手も先読みしてたし、表情ひとつひとつに気を配り、空間を俯瞰して日常会話をしていた。

 まるで、お笑い芸人の舞台みたいな緊張感を、常時。

 だから僕は学校にいるだけで疲れていた。三日登校して二日休むみたいなことを繰り返していた。


 頑張らなくて良い。マトモじゃなくても良い。ありのままの自分で良い。

 何度も何度もそう言い聞かせてくれる両親が、僕には居たから。

 僕は自分らしさを取り戻すことができた。


 でも、夜凪凛にはそんな存在は居なかったんだね。

 僕は夜凪凛だった。一歩間違えたら、僕は夏に溺れていたんだ。

 何度溺れそうになっても、僕は周りの人たちに助けられた。心の底からありがとうと思うよ。

 

 人が死ぬ物語は、何度だって読んできた。

 「君の膵臓を食べたい」だとか、「陽だまりの彼女」とか、

 でも、人を殺す物語は、生まれて初めて読んだ気がするんだ。

 人が自殺する物語だって、よく読んだ事がある。

 結局、自殺と殺人は紙一重だ。

 自分の命が透明だから、他人の命も透明に思えてしまう。

 自分と他人は、簡単にすり替わる。

 この物語は、殺人を通じた

 逃避行、駆け落ち、共依存、自傷行為、生きてるって実感、陶酔、自己満足、溺れる、傷つけ合い、愛しあい、殺し合い……

 結局は、二人で一緒に飛び降りる物語なんじゃないかなって思った。

 いや、違う、飛び降りるんじゃない。

 この作品ではそうじゃなくて、溺れるんだ。

 水のなか、どんどんと酸素が減って、苦しくって、

 でもそれは、今にはじまったことじゃない。

 小学生の頃から、中学生の頃も、高校の今も、ずっとずっと息が出来なくて苦しかったんだ。


 誰も助けてくれない。空気を届けてくれない。助けてくれる人はいない。

 でも、一緒に溺れてくれる人が居たんだ。

 それが光。


 あなたとなら、この苦しさが、美しいとさえ思えるから。

 苦しいのが心地いいとさえ思えるから。


 私たちは、夏に溺れる……


 まだ3章終盤までしか読んでないのですが、物語が素晴らしすぎて勝手に終わりに思いを馳せてしまいました。

 今もってる感想は全部吐き出したかな?

 さて、読み進めます。


 傷は同等なのか。

 不登校。そうだね。

 僕はイジメは半年間我慢して、結局耐えきれず、お母さんに泣きついて助けてもらったけれど。

 凛には助けを求める存在がいないし、先生もああだし。


 優しい子って、まって泣く。

 なんて奴だよ光。

 鈍くて考えすぎで口下手で、されど。


 地の文が重々しい。って、僕じゃないか。

 いいセリフ、すごくいいシーン。

 〈それ〉とか〈あれ〉とか…ん……

 でもじゃあ、さっき出てきた〈あれ〉はなんだったんだ、傘……

 良い表現、凄く好きな日本語。

 〈幸せ〉、カッコの中。

 なんて綺麗。罪も後ろめたさも全てふくめて、抱きしめて。

 

 四章へ。関係性めっちゃ好き。変わったね。鮮やかな色彩。終わりがあるからこそ眩しくて。

 あったよなー、こういう噂。

 教室の角でひとりぼっちでいる時に、聞こえてきたり、男子同士の下世話な会話でガヤガヤ盛り上がったり。

 私はその渦中には居なかった。

 ずっと一人で、周りの会話に聞き耳を立てるタイプだったから、

 あぁ、そういえば小学生の頃。僕が当時好きだった女の子のパンツを見たというウワサがながれた事があったのを思い出した。

 給食の時間にこっそり友達に教えた好きな女の子の名前をクラス中にバラされたこともあった。

 ガールフレンドの意味を"ただの女友達"だって勘違いして恥をかいたり。

 学校の噂は、本当に恐ろしかった。

 勘違いとか、誇張とか、陰口、からかい、うすら笑い。全部ぜんぶ大嫌いだった。

 陽キャが話しかけて来るのだって、自分の立場の誇示だとしか思えない頃もあった。懐かしい。

 この噂は痛いだろうな。

 

 むしろ面前で陰口を言われるより、陰でこそこそ言われるほうが辛いんだよな。

 堂々と悪口を言ってくれるなら、こっちも何か言い返したり反応ができるのに。

 仲間内でひそひそ声で陰口を言い合ってたら、こっちは何にも言えないじゃないか。

 雰囲気、同調圧力。痛い奴にはなりたくない。

 クラスの雰囲気には逆らえない、抗っちゃいけないから、なんでもないフリをして痛々しく笑うのだ。ね。

 

 言わなきゃ分からない。言わずに分かってもらいたいだなんて傲慢だ。ちゃんと本音で話さないと、会話の意味なんてないじゃないか。

 でも、そんな単純じゃなくて、自分が不安でたまらなくって、傷つきたくないから本音を隠す。

 本音とは逆なことを言って誤魔化しながら、察してほしいって期待を押し付けて、当然分かってもらえないから、強く傷つき。

 あぁどうせ自分は理解してもらえない存在なのだ。と、絶望する。

 僕は芹菜だ。僕は芹菜と同じで心のなかでは孤独だった。

 自分で仮面を被って、他人との間に壁を作ったら、表面上は仲良しだけど、本当の自分は壁のなかでひとりぼっち。


 自分の裸、全てを曝け出せる相手って、必要だと思うんだ。

 凛にとっての、光みたいに。

 どんな私でも受け止めてくれるっていう安心。


 凛はきっと、誰よりも正直なんだと思う。

 誰よりも自分を着飾らなくて、いい子ぶったり誰かに媚びることもなくて、自分を曲げて群れることもなくて、

 そういう女の子を、僕は一人知っている。

 僕の初恋の女の子。

 たぶん凛に似ている、自分を飾るのが大嫌いでずっと正直で素敵な女の子だった。

 幼稚園の頃は両思いだったけど、今は遠くで彼氏持ち、もう半年近くやりとりしてない。

 まぁ人生そんなもん。


 僕は、凛みたいな女の子が好きだ。

 ずっと裸。

 自分を飾ったり守る事を知らないから、悪意を向けられたら誰よりも深く傷つくのだと思う。

 でも、自分のあり方を貫くその生き様は、すごく強くて美しい。

 結婚するなら、凛みたいな女性が良い。


 そりゃ怒るよな。怒ったよな。

 わかるよ芹菜。凛は眩しいよな。

 自分を飾る人間は、飾らない人間にひどく嫌悪感を抱くんだ。

 その生き様が美しすぎて、まるで自分の醜さが映し出されるようで耐えられなくて、自分が否定されたみたいな気分になって。


 すごくよく分かる。嫉妬しちゃう。

 凄い物語だな。みんなの心が、よくわかるよ。


 美に関する努力か……

 それってね。不安の裏返しなんだよ。

 心の中は孤独で、不安で不安でたまらないんだ。、


まっでぇ泣くってぇぇ p204


光も、凛も、痛いほど良く分かるんだ。

 

 終章へ。


だよね……やっぱり、そうよね……

p222


へ? ふ、芹奈……

夏の讃歌……

p224


え? 嘘

p227


 そっか、殺されるんじゃ、ないんだね。



 僕は夜凪凛を勘違いしていた。

 そうか、そうだったのか。

p230


うん、先生の奴もそういう事だよね。

救いたかったって、幸せにしたかったって、

 そんなのっ……泣


まじか、凄。嘘だっt……

先生のはそうかなとは思っ

31日


凄い、好きだった。


やっぱり、凛らしいや。


そうか、引き摺りこんだんだな。

この先の物語を、僕は知りたい。

p256


うん、うん。共感はできない。

共感出来ないはずなのに、共感しそうになってしまう作者さんがすごいんだ。


 やばいp262鳥肌……

 分かる。僕も鬱病がひどい時は毎日死のうかなって考えてた。人は本質的に分かり合えない。この苦しみを誰かと共有したかったけど、誰にもわかって貰えなくって。

 心の真ん中はいっつも孤独。

 うん、未来には絶望しかなかったよな。


 僕には、死んだら悲しんでくれる両親が居たから、ギリギリで思いとどまって生きてきた。今、死ななくて本当に良かったと思ってるよ。


そうだよ。

同じだと思いたくっても、全然違う。

 でもだからこそ。


切ない、美しい。読了。


最後に一言、凄かった。

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