第7話 光陵高等学校

 紫音しおんが目を覚ました。

 目の前には、緋色ひいろの顔があり、しばらくの間顔を見つめた。


 ようやく、思考が追いついてきたようで顔を赤くする。


「これ、膝枕!?ごめん、直ぐ退ける!」


 そう言い、跳ねるように飛び起きた。


「おはよう、体は大丈夫?」

「うん、…どのくらい寝てた?」

「一時間くらいだよ。魔力切れを起こすと意識を失うから気をつけてね」

「魔力切れ。そうか、忠告ありがとう」

「明日は学校あるし、今日のところは解散しよう」


 緋色も立ち上がり「またね」と手を振った。

 紫音もそれにつられて、ぎこちなく手を振った。


 ◇


 次の日、紫音は学校に登校した。

 冬でもないのにマフラーを付けていくのは流石に気が引けたので、万が一のためにカバンの中に入れてきた。


 紫音は今、とても興奮していた。

 魔法少年になったこと、自分も怪物と戦えるようになったこと…、そして、自分の通う高校に魔法少女がいることに。

 なんとも言えない高揚感に、手を握ったり開いたりを繰り返す。


「おはよう、夜空よぞらくん。昨日はよく眠れた?」

「あ、おはよう、日向ひなたさん。昨日は色々と疲れてたから、家に帰ったら直ぐに寝付けたよ」

「そう、元気そうで何よりだよ」


 そう言いながら、緋色が笑う。

 ふと、紫音は気になった。


「学校で話しても大丈夫なの?魔法少女関連のこと抜きにすれば、赤の他人のだけど」

「私たちにも、プライベートというものはあります。それに、あんまり公で魔法少女の話をしないで。もし、誰かに聞かれたら大変だから」


 緋色の言う「私たち」と言うのは魔法少女のことだ。


「確かにそうだね。以後気をつけるよ」


「緋色ー!」


 呼ぶ声の先には青みがかった髪色に真っ直ぐなポニーテールの女の子だった。

 女の子は、緋色に向けて大きく手を振っている。


「葵ちゃーん、おはよー!またね夜空くん」

「あ、うん」


 緋色は言い終えると、葵の方に走って行った。

 その間、紫音は葵に睨まれているような気がした。


 ◇


 光陵高校は普通科の高校で、偏差値は平均くらいのこれといった特徴のない学校だ。学校が近いからという理由で進学してくる生徒がほとんどで、中学からの顔ぶれも多少ある。


 そんな光陵高校には、魔法少女たちが通っている。しかし、生徒どころか教師のほとんどは知らず、その事実を知るのは校長や理事長といったごく一部だろう。また、校長や理事長も誰が魔法少女かは知らされておらず、魔法少女の正体を知るのは、同じ魔法少女かマスコットだけになる。


 ◇


 昼休み。紫音はいつも通り、自分の机で弁当を食べていた。

 友達はいたが、みんな別の学校へ行ってしまったため、光陵高校ではボッチになってしまった。


 ガラガラガラガラー。


 勢いよく教室のドアが開き、緋色が入ってきた。

 そのまま、一直線に紫音のもとまで向かい、持ってきた弁当を紫音の机に置いた。


「一緒に食べよ」

「うん、いいよ」


 紫音はいきなりのことに驚きながらも、了承した。


「友達と食べないの?」

「ん、あぁ」


 紫音は、疑問に思っていた事を口に出した。

 紫音の言う友達とは、緋色が朝に話していた葵のことだ。


 緋色もそれに気づいたように返す。


「葵はがあって__、」

「用事?」


 紫音は少し気になったが、緋色はそれ以上のことは話さなかった。

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魔法少女《マギア・プレア》が世界を統べる 無口 @tetunomikado

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