第6話 子供のように

 紫音しおんの手元には、腰くらいの高さの刀が収まっていた。


闇夜の刀ダークナイト・ブレイド

「かっこいいね。私の杖は守護者の杖ガーディアン・ロットっていうの」

「あぁ、これは、テンションがあがる」

「そうでしょ、そうでしょ」


 紫音は刀を縦にブンブンと振ってみる。


「試しに、そこの木を切ってみたら?」

「あぁ、そうする」


 スカーレットが指さした木の目の前に、紫音は移動する。

 両手で刀を構えて、深呼吸をする。


「はぁぁー!」


 木の幹に斜めに亀裂が入る。数秒おいて木が倒れ始める。

 その切れ目は、加工したものだと言い張っても疑い様のないほど綺麗なものであった。それこそ、何重にもヤスリをかけたかのように。


『おぉーー!』


 木が倒れ、森にゴオォンという音が響き渡る。夜行性の動物から寝ていた鳥や虫なんかも音がした方から逃げるかのように慌てて遠ざかっていく。


「…」

「…」

「住宅街まで響いたかな…?」

「流石に起きた人はいないと思うけど、起きている人は気づいただろうね」

「魔法少女が戦ってたって勘違いしてくれないかな」

「マギア・プレアに良い迷惑よ」

「…」

「…」

「刀を使うのはやめよう。魔力の扱いだけ教えてよ」

「うん、そうする」


 幸い、木を倒した轟音で起きた人はいなかった。


 ◇


 刀は、いつの間にか腰についていた鞘に収めて魔力の訓練に移った。


「体内の魔力を感じて、それを一箇所に集めてみて」

「それならさっき、ツノのクリーチャーを倒すときにやってみたよ」

「さっきのは、魔力を使い過ぎ。無駄な魔力が多いと非効率。だから、全部を使わずに、ある程度の魔力を制御して出力していくの」

「うーん…、」


 前に出した手が少しずつ、紫色のオーラを纏ったようになる。


「順調だよ。あとは、細かい制御をして、技にするのよ」

「技に?」

「そう、イメージを形にする感じ。自分のやりたいように技を出してみて」

「自分がやりたいように」


 紫音はイメージする。自分の影が伸びていき、二次元の空間を飛び出し、具現化するイメージを。


 すると、紫音の足元から、影が八方向に伸びていき、直ぐに実態となって上に伸びてきた。


「うわっ!」

「これは…、影?」

「影を伸ばすようなイメージをしたら…、」


 影は数秒で消え、元通りの紫音の影に戻っていた。


「自分を守ったり、影を伸ばして敵の足止めや攻撃をできるかもね」

「確かに。でもやっぱり扱いが難しいかも…」

「最初のうちは一、二本から慣らしていって、完璧に習得できたら、本数を増やして行けばいいよ」

「そうだね」

「それに、影を使った魔法は色々と応用できそうだしこの技をマスターすれば色々と使い道が増えると思うよ」

「なるほど。参考になったありがとう」

「どういたしまして」


 緋色ひいろは屈託のない笑顔で笑った。


「そして、その技の名前を考えないとね」

「名前!」

「名前を付ければ、イメージをしやすいだろうし、使いやすくなると思うよ」

「名前、名前、名前…。影伸ばし、影鞭…」

影の槍シャドウ・ランス。ランスは槍やレイピアみたいな武器のことで、さっき見たイメージそのままかなって」

「めちゃくちゃ良いよ。影の槍シャドウ・ランス決定!」

「なんか、恥ずかしいな」

影の槍シャドウ・ランス!!!」


 紫音がその名を口にすると、影が伸びていき、実体化する。

 慣れたように、影の槍を使う紫音は、どこか少年のようにはしゃいでいるように見えた。


「かっこいい、俺の、最初の、技…だ」


 紫音がそう言い終えると、バタンと地面に倒れてしまった。


「魔力切れ!?大丈夫?夜空くん!」

「あぁ、ちょっと意識が、と…ぶ……」


 紫音は眠るように意識を失った。


「全く、無防備だなぁ」


 緋色は紫音の顔を見つめる。


「ゆっくり休みなよ」


 そう言って正座した緋色の膝に紫音の頭を乗せた。

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