第5話 想いを込めて

「私の名前は、日向ひなた緋色ひいろ。光陵高校の一年生。よろしくね」


 緋色は笑顔で言う。マギア・スカーレットの正体は、光陵高校一年生の日向緋色であることが判明した。

 魔法少女には認識阻害の魔法がかけてあり、変身している状態だと、変身前の姿と別人のように見える。そのため、魔法少女の正体は特定されることはなく、通っている学校にファンたちが押し寄せることもない。

 しかし、正体を知った者には認識阻害の魔法は効かずに変身前と後の姿が同一人物だとわかってしまう。これは、魔法少女たちがコミュニケーションを取りやすくするためであり、認識阻害の魔法の仕様でもある。


「光陵高校って同じ学校じゃん!?」

「そうなの!?ていうか、あなたも変身を解いて」

「あぁ…」


 紫音しおんの服が輝き出し、変身が解かれる。


「光陵高校一年、名前は夜空紫音」

「あっ…。パジャマ」

「えっ」


 緋色に言われて、紫音は自分の姿を確認し、変身したときの事を思い返した。変身した時は、着替えずに、ベットから出てそのまま変身していた。


「いきなり気配を感じたから、驚いて着替えることを忘れてた」


 緋色の服は、控えめだがオシャレをしているようで、身なりに気を遣っていることが想像できる。


「…同じ高校だなんて、すごい偶然だね。というか、そのマフラー消えないないんだね」

「あぁ、うん。それで、なんで変身を解除したの?」

「私の正体を知って貰って、あなたの正体を知る必要があったから」

「どうして?」

「私が本当に約束を守るってことを証明するため。お互いに正体を知っていれば、私が約束を破った場合、私の正体を、夜空くんが敵だった場合、カムイにあなたのことを、それぞれバラすことができる状態になる」

「なるほど、お互いに弱みを握っているわけだ」


 紫音は、緋色の用意周到さに、少し恐怖を覚えた。


「それじゃあ、魔力の扱いについてレクチャーするよ」

「お願いします」


 再び、二人は変身する。


「魔力、魔法には得意不得意がある。私は炎を使う魔法が得意だけど、同じ支部のコバルトは氷、水魔法が得意なの。オレンジは雷の魔法を使うわ。それで、自分の得意な魔法を見つける所から始めましょう」


 スカーレットは手のひらに小さな炎を出してみせた。


「あなたの放った魔力は紫色だったし、闇系の魔法が得意かもね」

「闇系ってどんな魔法があるのかな」

「うーん、基本的には暗殺者みたいな感じで、透明化だったり、毒とか麻痺みたいな状態異常とか、傀儡みたいなのもできると思うよ」

「なんか地味だね」

「あとは、全属性共通だけど、魔法を付与したり、他魔法と合わせたりも可能だよ」

「付与?」

「うちのコバルトなんかは、剣に氷属性を付与して、威力をあげたり、刀身を大きくしたりできるの」

「そういえば、魔法少女たちが扱う武器ってどこから出してるの?やっぱり、マスコットから授かったりするの?」


 魔法少女たちは武器を持っている。スカーレットは杖、コバルトは剣、オレンジは斧を、それぞれ武器と魔法を組み合わせて戦っている。


「えーと、半分正解。授かるといえば授かってるんだけど、厳密に言うと武器を授かるんじゃなくて、授かったクリスタルが武器に変化するの」

「クリスタルって…」


 紫音は変身する時に手に持つ星形のクリスタルを思い出した。クリスタルは自身が念じると手のひらに現れる。それは、変身していても同様だった。

 紫音は念じて、クリスタルを出現させる。


「プエルだと、星形なのね。マギア・プレアのクリスタルはハートの形をしてるの」

「そうなんだ」


 スカーレットも同様に、クリスタルを出現させる。

 少し、瞼を閉じたあと、クリスタルが輝き出し、魔法の杖のような形になった。


「クリスタルを出現させた時よりも強く念じるの。例えるなら、想いを込めるみたいに」

「想いを…」


 紫音はクリスタルに想いを込める。

 誰かの役に立ちたいという気持ち、クリスの想いに応えたいという気持ち…。

 何よりも、強くなりたいという気持ちを。


 そして、想いは形になる。


「これは、刀?」


 刀身は紫身の掛かった黒で、持ち手には紫色のねじれた紐が結んである。


闇夜の刀ダークナイト・ブレイド


 紫音はその刀の名前を口にした。

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