第15話

タイヘーン王国にある第5ダンジョン前広場に簡易ハウスを設置することにしたテンたち。


「……ロット」

「どうされました、マスター?」

「急にドキドキしてきた」

「え?」

「いや、ほら、このへんって冒険者や兵士とか多いし、落ち着かない、ドキドキする」


急にそわそわするテン。


「……マスターの無敵モードは持続時間が30分の設定なのですね。了解いたしました」

「設定? え? あ? う、うん、たぶん。平気だった時との反動がすごいよ」


シャルもソワソワし始めた。


「ロ、ロット、早く簡易ハウスを。私もなんだか落ち着かないわ」

「了解しました、マスター、シャル様。それにしても、お二人とも迫真の演技でございます」

「え?」

「はい?」

「いえ、ロットの独り言です」


ロットは黒板から超圧縮されてコンパクトになっている簡易ハウスを取り出して字面に置いた。


見る見るうちに大きくなる簡易ハウス。


ロットは簡易ハウスの玄関を開けた。


「どうぞ、マスター、シャル様」

「うん」

「ありがとう」


3人とも中へ入りロットは玄関をロックした。


「ふう、なんか落ち着いたよ」

「落ち着くわね〜」


ロットが用意した飲み物を皆んなで飲む。


「お母さん、昼食は作れる?」

「うーん、ちょっと精神的に疲れたかも。昼食は黒板から出してくれる?」

「分かったよ」


テンはロットに黒板から昼食を出すように頼んだ。


「かしこまりました」


対価さえ支払えば黒板から調理済みの料理も出せるのだ。


「でも本当に黒板があって助かるよ。どんな仕組みなのか魔法なのか分からないけど」

「黒板と呼ぶもの、それは超天才のマスターが地球の日本で開発されたシステムです」

「はい?」

「時は西暦2037年。超天才科学者のマスターは30歳の時に異世界へ転移したいと考えて支援システムを構築しました。そのメインの支援システムが、マスターが黒板と呼んでいる物です」

「……そうなの?」

「はい。そうなんです」

「僕は、この世界に赤ちゃんで転移したんだけど」

「時空を超える際に、何らかの作用で若返りしたのでは」

「……なるほど」


テンはロットの説明に納得するしかない。ほとんど意味が分からないけど。


「そして、今の日本は西暦2050年となってます」

「へえ~」

「日本でのマスターは将棋も好きでして、よく藤井戸聡明八冠と将棋を指してましたよ」

「へえ~、フジイド・ソウメイ、ハチカンと」

「はい」

「だから、ロットは僕と将棋を指したいのかな?」

「そうかも……ですね」

「で、僕はフジイドさんに勝ててた?」

「駒落ちでは」

「コマオチ?」

「いわゆる、ハンデですね」

「……ハンデ無しでは?」

「藤井戸八冠の勝率はプロ棋士相手に驚異の9割8分。A級トップ棋士でも滅多に勝てないのです。いくらマスターでも相手にもなりませんよ」

「……なるほど」


フジイドさんが、とても凄いのはなんとなく理解できたテン。


しかし、不思議な黒板は赤ちゃんになる前の自分が作った物なのかと、テンは驚いた。


同じ人間のはずなのに、僕は超天才じゃない? とも思うテン。


……まあ、考えても仕方ないかとテン。


今のテンはまだ13歳なのだ。まだまだ伸びしろはある。


「でも、どうして……ニホンだっけ、ニホンの時の大人の僕は異世界に行きたいと思ったのかな?」

「当時のマスターは地球という世界をほぼ解明されてまして、もう興味が無くなったのかもしれません」

「前の世界に興味がなくなった……」

「ロットはそう推測いたします」

「……少なくとも、今の僕はこの世界でドキドキしてるよ」

「それは好奇心のドキドキも混ざっているのかも、しれませんね」

「うん、そうかも……しれないね」


それまで黙ってテンとロットの会話を聞いていたシャル。


「ロット」

「はい、シャル様」

「そのテンの支援システム?」

「はい?」

「テンとロットが黒板と呼んでいる支援システムは、この先もテンを助けてくれるの?」

「と、言いますと?」

「その支援システムは、この世界とは別の世界に存在するのよね?」

「はい」

「誰かに壊されたり、停止したりしない?」

「それは大丈夫かと」

「本当に?」

「はい。黒板の支援システムは物理的な物ではなく、地球という世界の中のネットワーク内にデジタルデータとして構築してますので、今の地球文明が崩壊しない限り大丈夫ですね」

「崩壊しない?」

「壊滅的な宇宙規模の天変地異が起きない限り、この先1000年は大丈夫かと」

「そう……理解できないところもあるけど、ほぼテンが生きてる間は大丈夫ってことね」

「はい、シャル様」

「でも、万が一で黒板の支援システムが無くなる可能性はゼロではないし、万が一でロットが機能停止する可能性もゼロではない。私もテンも自らの力で生きて行けるようにならないとね」

「……シャル様、そのような未来はロットは望みせんが、それは良い思考ですね」

「ありがとう、ロット」

「お母さん、うん。僕もちょっとずつでも成長するように努力するよ」

「そうね、テン」


そんな会話をしながら、簡易ハウスの中の時間は過ぎていくのだった。





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異世界からの転移者テン・イシャは世界で最弱だと思っているが実は最強 ノーネム @yuukimee123

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