第14話

ダンジョンに入って約30分。早速、ダンジョンの地面に埋まっていた宝石の大きなルビーを掘り当てた、テンたちS級冒険者パーティー。


ダンジョン初日なので、無理はしないで帰ることにした。


「マスター、本当に帰るのですか?」

「うん。金貨40枚くらいだよね、ルビー」

「はい、推定ですが」

「なら、無理しなくていいよ。初日だしね」

「かしこまりました」

「あ、そうだ」

「どうしました、マスター?」

「バリア展開、ずっとやって良い?」

「ずっと、ですか?」

「うん。何があるか分からないし、ダンジョンの外でも常にバリア展開」

「なるほど、さすがはマスター。抜かりありませんね。何が起こるか分からないのが世界です」

「う、うん。それね」

「では、そのように黒板に指示をお願いします」

「分かった」


テンは黒板にお願いして、バリア展開を常時ONとした。


対価はそれなりに必要だけど、あらゆる脅威にビクビクしながら生活するより何万倍も良い。


テンは本気で自らを世界最弱の存在と思っているのだ。


ダンジョンから出たテンたちは、ダンジョン前広場にある建物へ行き、ルビーを換金することにした。


建物の中で休憩していたヘイム隊長。


「あれ? もうお戻りですか?」

「そうよ」


答えるロット。


「何か、ありましたか?」

「大きめのルビーを採取したから、今日は初日だし戻ったの」

「……この短時間で大きめのルビー……さすがはS級冒険者パーティーですね」

「さすがなのは、マスターよ」

「そうでした。なすみません、マスターテン様」


テンに頭を下げるヘイム隊長。


「あ、別に良いですよ」


常時バリア展開の効果で、おどおど、あたふたしなくなったテン。


「カッコいい! そんなテン様もステキです!」

「ありがとう、ロット」

「キャー!」


シャルがロットに声をかける。


「ロット、そのへんにしときなさいね」

「あ、はい。すみません、シャル様」

「いえ、私が育てたテンがステキなのは仕方ないですから」

「そうですよね! シャル様」

「そうよ、ロット」


テンは落ち着いた雰囲気で髪を少しかき上げる。


「まあまあ。ロット、お母さん、そのへんで」

「すみません、マスター」

「あら、ごめんね。テン」

「いえ、良いのですが公共の場ですので」


この雰囲気に、どう対応すれば良いのか悩むヘイム隊長。


「あ、あの、ルビーを換金とかされますですか?」

「あ、そうだね。頼むよ、ヘイム隊長」


ふぁさっと前髪をかき上げながら答えるテン。


「で、では、こちらへマスターテン様」

「ありがとう」


ヘイム隊長の後ろを先頭で歩くテン。


そんなテンを尊敬と敬愛の眼差しで見つめながら続いて歩くロット。


人型ゴーレムのシャルは、達観した表情でしずしずと歩く。


「マスターテン様、こちらが換金受付けでございます」

「ご苦労さま」

「いえいえ、では、私はこれにて」

「あ、待って」

「え?」


テンはロットに指示した。


「ロット、ヘイム隊長にお礼の金貨を」

「かしこまりました、マスター。チップですね」

「あ……うん、それ。チップ」

「了解しました」


ロットは黒板から金貨を1枚取り出して、ヘイム隊長に渡した。


「これ、マスターからね」

「あ、いえ、そのような物は……これでも王国公務員なので」

「これから金貨1枚分、F級冒険者に好きに食べさせて。お酒は1人1杯まで。ヘイム隊長の奢りで先着順にね」

「……なるほど、了解いたしました。F級冒険者はギリギリの生活をしている者も多いです」

「奢りで好きに食べれるタイミングに来る運も実力のうちよね」

「確かに、そのとおりです」


ヘイム隊長はロットから金貨1枚を受け取ると、建物内の食堂へと向かった。


「ロット、良い指示だね」

「マスター、ありがとうございます」


ダンジョンで採掘したルビーは金貨41枚で換金された。手数料税金は引かれている。


「マスター、明日からはどれくらいを目標に稼ぎますか?」

「ん? そうだね、僕たちがあまり取りすぎると他の冒険者たちに悪いから……1ヶ月に金貨1,000枚分くらいにしとく?」

「日本円にして1億円ですね」

「あ……うん。それでいこうか」

「かしこまりました」


ニホンエンやイチオクエンとかテンにはさっぱり理解できないが、テンは話を合わせた。


時刻は昼になった。


「ロット、昼食と夕食もだけど、今夜はどうする?」

「ふあっ!?」

「え?」

「マ、マ、マスターが、そ、その、お、お望みなら……このロット、マスターと共にベッドに」

「いや、今夜、どこに泊まる?」

「ま……」

「ま?」

「……失礼いたしました。このダンジョン前広場の土地を借りて簡易ハウスを設置してはどうかと愚考いたします」

「なるほど、この地に簡易ハウスを」

「はい」

「じゃあ、ヘイム隊長にお願いしてみようか」

「はい、マスター」


ダンジョン前広場には、売店や屋台とかいくつかある。


空いている土地もあるようだ。


ヘイム隊長に相談すると、簡易ハウスの大きさなら、月に金貨3枚で土地を貸してくれるらしい。


テンは金貨3枚を払い簡易ハウスを設置する土地を借りたのだった。








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