“まろんちゃん”に魅かれた女の子

花野井あす

こんな子も、いるんだなあ


 ぼくの知り合いに、とある漫画の主人公に夢中になった女の子、Aちゃんがいます。


 よくあることですよね。

 格好いいヒーローみたいになりたくて、布団をマントにして走り回ってみたり、可愛い魔女っ娘に憧れて、玩具のステッキを振りながら呪文を唱えてみたり。なりきっている小さな子を見ると心がほっこりするものです。


 でも、その知り合いの女の子はちょっと、見ていて顔が引き攣ってしまう感じの子でした。


 Aちゃんが熱心に追うのは、神風のごとく現れる怪盗の女の子。その名もまろんちゃん。女怪盗。好きな女の子、いますよね。

 だから「まろんちゃん、素敵よね!」と言われたって、「ふうん。そうかい、そうかい」で初めは済んだのです。微笑ましくもありました。それでついつい、ぼくは「どんなところが好きなんだい?やっぱり必殺技かい?怪盗さん、カッコいいよね!」なんて楽しく会話を広げようとしたわけです。

 これをやめておけば、Aちゃんは心温まる可愛い女の子だったのに。


 Aちゃんはきょとんとして言います。

「え、別に怪盗なんてどうでもいいんだよ?」


 ん。じゃあ何を見ているって言うんだい。あ、可愛いフリフリのお洋服とか?会話を和やかにするため、ぼくは思いつく限りの質問をします。

「お洋服好きだけど……」


 え。それ、ついでなの?女の子ってけっこう重要視すると思ってたんだけど……。あ、これ偏見?ぼくは冷や汗を掻きます。そんなぼくを他所に、Aちゃんはケロリとして続けました。


がね、素敵なの」


「足?靴のことかな……」


「このすらっとした!すっと伸びるのを見ると素敵じゃない?」

 ほう、脚フェチってやつですか。



 …………え?


 我に返ってから、ぼくは呆気にとられたわけです。Aちゃんの好きなまろんちゃんは、新体操部という全国にどれくらいあるのか不明な部活に所属する高校一年生の女の子。その新体操の演技をしている絵を見て、Aちゃんは新しい門を開いてしまったらしい。

 そのあと、バレエ漫画も同じく脚が綺麗だと言って読んでいるわけだから……うん。いいんじゃないかな、脚フェチ!ぼくは、否定しないよ!美脚バンザイ!

 ということで、微笑ましかったはずの会話があっという間に気不味いものにしてしまったわけだ。


 小学生でもいるんだなあ、脚フェチ。

 うん。小さい子って摩訶不思議な生き物だ。

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