第41話 遺品
「…クレア、見せてやりなさい」
「はい、お父様」
後に知ったことだが、普通は部外者には見せてはいけない、という暗黙の了解があるらしい。どうにも後ろめたさが残ってしまった。
見せてもらったペンダントは、確かにアレクシス様のと同じだったーー。
形も八面体、美しく赤色に輝いている。
「…これは、魔石だと聞いたのですが」
「ええ、ですが、実際は神聖力が込められているのです」
神聖力は、マナの発動を助ける。
そして、神聖力の量は、マナの量に比例するーー。
「…光ったり、とかは」
「…そうですね、見たことはありません。古い書物には書いてありましたが、あくまでも伝説上ですので」
「そう、ですか…」
光らない。
だけど、アレクシス様のは紛れもなく光っていた。眩いほどに…。
「魔術は、一発で成功しますか?」
「そんなことはありえません。ーー神聖力が強すぎたら、可能性はあるとは思いますけど」
だけど、私に神聖力はないしーー。
あれは、どう考えても、「不慮の事故」では片付けられないだろう。
その後、クレア皇女は、エレナ様の遺品を見せてくださった。
残って、もう期限が切れたはずの化粧品、アクセサリー、服に小物。愛用していた書物ーーなどなど。
クレア皇女は、お父様が残しているのです、と苦笑しながらおっしゃった。
確かに、もう要らないはずで、でも残している理由は、やはり愛だろうか?
「触っても?」
「…多少は」
どれも美しい細工やデザインだが、どこか質素だーー。
きっと、国民のことを考えられる人だったのだろう。
そして、アクセサリーに触れた。
「っ!」
思わず手を引っ込める。
間違いない。これは、あの時のーー。エレナ妃の墓に触れたときと、同じ感覚。
今回はわかる。体に、何かが流れ込んでくる…。
ピリッとした感覚。
「大丈夫ですか?」
「…ええ」
共通するのは、「エレナ妃のもの」。
◇◇◇
「はぁ…殿下、集中してください」
「…わかっているよ」
私はマルクス。
そして、今、そこそこ機嫌の悪い主を宥めているところだ。
セシリア様はすごい。
女性を極端に嫌い、21歳、と結婚適齢期を軽く通り越した殿下を一瞬で惚れさせたのだから。
初めは、どんな女かと思った。
媚を売るか、あるいは脅しか、あるいはーー?
可憐な女性で、淑女だった。綺麗で、だけど芯の強い、しっかりとしたひと。あのミランダ皇妃をも警戒させ、国を第一に考えるべく育てられてきたような。
それをリュカに言うと、同意を得られた。
誰もが思うのだ、セシリア様がいないといけないと。
だけど、いなくなったのは、あの女狐ーー皇妃ミランダのせいだ。
でも、そろそろ。
「…潮時かな」
殿下が私の考えを汲み取ったように答えた。
そう、潮時だ。
ミランダ皇妃を、これ以上好き勝手させるわけにはいかないーー。
「殿下。セシリア様に会いにいけばよろしいのでは?」
愚かに見せるように。全て、計画すればいいのだ。
浮気したあなたたちのことなんて、もう知りません。私は幸せになりますけどね。 月橋りら @rsummer
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