第40話 皇女エレナ
◇◇◇
エレナ姉上は、膨大な魔力と強力な神聖力を持って生まれた。
スザンヌの皇族は皆そうだが、その中でも格段に、とびきり強く生まれた。
姉はお転婆で、だけど良い子だったから誰一人何も言わなかった。ただ微笑んで見守っているだけだったーー。
変わったのは、13歳の頃。
私たちを特に可愛がってくれていた祖母が亡くなったのだ。寿命だったーー。
祖母は私たちに言っていた。
「皇族として、立派になるのよ」
いつもは「わかってるよ〜」と受け流していたが、いざその死を目の当たりにすると、何も言えなくなって、ただぼーっと立ち、冷たくなった祖母を見つめていた。
それから、「私たちはお祖母様の意思を受け継いでいきたい」と言い出したのだ。
そして、エレナは完璧な淑女となり、祖母の言う通り「皇族として立派」になったのだ。スザンヌのため、遠いアスレリカに嫁ぐことになったときも、皇族としての役目を果たす自分に誇りを持っていたような気がした。
「このペンダントは持っていくわ」
赤く光るそれは、代々皇族一人一人に受け継がれる魔石のペンダントだ。
すでにマナの消失したアスレリカでは危険だと両親や私は止めたが、彼女は、それだけは譲らなかった。
「お祖母様から受け継いだものなのよ」
時が経ち、彼女は息子を産んだと手紙で知らせてくれた。
その皇帝の、エレナの溺愛っぷりはこのスザンヌまで届き、彼女は皇后に召し上げられたとも聞いた。
一度だけ、スザンヌにやってきたことがある。
アレクシス皇太子が9歳の頃だった。クレアの生誕祭に主賓として来て、クレアを大層可愛がってくれた。
アレクシス皇太子は来なかったが、少し誇らしげに息子を語る彼女を見て、自分も幸せな気持ちになった。
だが、それ以来、私は姉を見ていない。
クレアの生誕祭からちょうど一年後。
ーー殺された。
手紙を見て、絶句した。
家族にも国民にも愛された皇女エレナは、あっけなく死を迎えたーー。
棺(遺体)すら向こうにある。
大切な姉の姿を最後に見たのはーーおよそ12年前のことだった。
◇◇◇
皇帝は、隅々まで話してくれた。
途中少し辛そうに話す様子から、エレナ様はすごく愛されていたのだと実感した。
もてなされた紅茶は、姉が生み出した味なのだと、嬉しそうに語ってくれた。
「…エレナ姉上は、様々なものをこの世に残して行ったーーとくに、このスザンヌには」
感傷に浸る弟に臣下たち。エレナ様は、本当に、愛される方だったのだ。
話を聞いて…一つだけ疑問点がある。
「…その赤いペンダント、見せていただくことはできますか?」
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