第39話 スザンヌ
◇◇◇
セシリアが馬車に乗った瞬間の喪失感。
彼女は、私を変えてくれたーー母の死に囚われ、新しい皇妃から、女性への嫌悪感を解消してくれた。女性は苦手だ。だからこそ、市民に声をかけてみても良いかと、媚を売らない女がいるだろうと街を歩いてみれば。
そこのいたのは、綺麗で美しい、隣国の公爵令嬢だった。
だから、理由をつけて婚約したし、私はきっと、セシリア以外を好きになれないーーと思う。
そう、好きだったのだ。
セシリアを見るたびドキッとし、他の男と話しているのを見ると、大人気ないのはわかっているが、嫉妬に駆られてしまう。
だから、私はセシリアがいなくなったその日から、段々と私は暗くなっていった。
仕事は捗らず、食欲も減った。セシリアがいないだけでこんなにも違うのかと、喪失感は消えなかった。
セシリアはきっと、無事に戻ってくる。
スザンヌを、母を知るために、といううってつけの理由。だけど、本当は、手放したくないと思っていたーー。
「…セシリア、どうか無事で」
◇◇◇
私は、スザンヌへ向かう。
「アスレリカ皇太子の婚約者」の座は追われたけど、「コーネリアの公爵令嬢」という地位は追われていない。つまり、早々に追い出されることはない。
馬車からの景色を眺めていると、どれも目に映るものが違い、わくわくする。
自然や、街の人々。動物まで。様々なそれらは、アレクシス様と離れて寂しくなった自分の心を満たしてくれていたのかもしれない。
「よくおいでくださいました、セシリア・ラファエル様。お噂はかねがね」
噂とはおそらく渦を消した、という功績のこと。
この遠いスザンヌまで来る途中、何度も聞いたのだから。
「よく来た」
スザンヌの皇帝は私を手厚く歓迎した。
彼には一人の皇女がいたーー名前はクレア。
そして彼女は、とても知的な賢い方だったーー。
「…エレナ皇女殿下というのは、どんな方だったのでしょうか」
「…エレナ叔母様のことですわね。それについては、お父様がよくご存知だと思いますわ」
アレクシス様がいない。心強い味方で、いつも自分のことを大切に思ってくださっていた彼がいないのは、自分にとって想像以上に大きなダメージを与えた。
これからは、一人で、立ち向かっていかねばならない。
「皇帝陛下。ーー恐れながら、エレナ皇女殿下について教えてくださいませんか」
現在のスザンヌの皇帝の姉。それがエレナ皇女で、アレクシス様の母君だ。
「…昔はお転婆だった。だけど、自然と優雅で美しい淑女となっていったーー」
皇帝はどこか遠いところを見つめながら、まるで自分自身に語るように話してくれた。姉を失った感傷にでも浸っているのだろうかーー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます