第38話 国外追放
◇◇◇
「ここ……は」
見慣れた天井、そして、暖かいものが、手を握ってくれているーー。
「セシリア、良かった」
アレクシス様は、私の手を握りしめて安堵の表情を見せた。
前にも似たようなことがあったな、と苦い思い出を再度確かめた。
「アレクシス様、ありがとうございます……渦は、どうなったのですか」
「セシリアのおかげで消失した。ーーありがとう、セシリア」
ーーなんて、美しい笑み。
私にありがとうと言ってくれたアレクシス様に、思わずドキッとする。
どうやら私は力を使いすぎて倒れてしまったらしい。本当に申し訳ない。
だけど、とアレクシス様は続けた。
「初めてで、あんなにできるものなのかな」
それには私も同感だ。
なぜならば、あの時読んだ書物の中にーー人は、生まれて備わったマナをもとに、日々鍛錬していくと供述があったからだ。他の学習を終える頃ーーつまり、十何歳かになってから、やっと「一人前」と呼べるという。
それなのに、マナを得て最初に成功させたのはーー。
「セシリア、知りたい?」
「もちろんです」
ただの興味本位だけじゃない。マナを得てしまった、これからのアスレリカ国に生かしていけるかもしれない。
「…スザンヌ。きっとその国に行けば、答えが見つかる」
妙に確信めいたその言葉に違和感を覚えたが、私はそれ以上聞くことはできなかった。
…なぜならば。
「セシリア・ラファエル。この国から出て行ってもらいます」
部屋にやってきた男と、その後ろに佇む皇妃ミランダーー。
そして、何人かの兵を連れて。
「…反抗しても無駄ですよ。あなたは、アスレリカの規律を破ったでしょう」
…規律?
しかし、アレクシス様は理解したようで、悔しそうな顔を見せた。
「明日までに出て行きなさい」
ばたん、と扉を勢いよく閉めて出て行った。
それから、アレクシス様は口を開いた。
アスレリカには、魔術を皇帝の許可なしに使用することは許されない。そして、もしそれを破ってしまうと、極刑。
いうところ、私は「国外追放」ーー。
「殿下、どうにかできないのですか!?」
ミカとリカが不満そうにアレクシス様に助けを求めるが、彼は首を横に振り続けるばかりだ。ミカは、その場に泣き崩れてしまった。
私とアレクシス様の婚約は、表面上、破棄された。
そして私は今日、アスレリカを出るーー。
「アレクシス様…いえ、殿下」
「セシリア…」
「今までお世話になりました。上手くやってきますね」
「…ああ、また会おう」
婚約を破棄した者同士が交わす会話だろうか、これは。
「また会おう」など、普通は言わないーーだけど。私たちには、計画があるのだ。
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