大切な人との最後の時間を一緒に

@yumenimita

大切な人との最後の時間を一緒に

 暑い夏の日、私の母にかかってきた電話。


「ひいじいちゃんが亡くなったよ。」


母の電話越しに聞こえる祖母の声。目の前が真っ暗になった。心が震えたような寒くなったような真っ青になったような気がした。


これは私が高校2年生の夏に体験したお話。

 

 ひいじいちゃんがなくなった2日後、湯灌が行われた。ひいじいちゃんは口を開けてポカンと寝ているようなそんな状態だった。広い和室に祖母をはじめとした親戚5人が集まり口にお酒をぬってあげて

最後に手に触れる。祖母がひいじいちゃんの手を握りながら伝える。


「ありがとう。よく頑張ったね。」


涙が止まらなかった。その後、私も手に触れた。冷たかった、その時改めて感じた。ひいじいちゃんはもうこの世にはいないんだって、もう話せないし、もう笑ってくれることもないんだって。身近な人を初めて亡くした私にとってとても辛かった。


次の日


 ひいじいちゃんのお通夜が行われた。通夜後、まるでパーティーのようなそんな豪華なご飯が並べられる中、ひいじいちゃんの祭壇には小さく盛られた白米が一つ置かれていた。私は心の中で


『ねぇ、じいちゃんそれで足りる?もっと食べたいんじゃない?お酒好きだったよね、お酒飲みすぎて

おばさんに止められてたよね、懐かしいよね。じいちゃんは今何が食べたい?どんなお酒が飲みたい?』


なんて返ってくるはずもない問いをひいじいちゃんになげかける。私の目の前にはひいじいちゃんの大好きなビールやおつまみがあるのになぜ渡せないのだろう、、。そんなことを考えているとセレモニースタッフさんと食事を作ってくれた方が


「それでは、私たちはこれで失礼します。ゆっくりおやすみになられてください。」


と言って帰って行った。

その日私はひいじいちゃんと最初で最後の夜を過ごした。


翌朝


 朝、目を覚ますと式場のスタッフの方はもう来てくれていて、ご飯を用意してくれていた。


「おはようございます」

「おはようございます」

「よくお休みになられましたか?」

「はい、よく寝られました。」

「よかったです。」


朝ごはんを用意してくれた上、よく休むことができたかの確認。さすがお金払ってるだけのことがあってホテルマンのような対応だななんて思いながら、

朝食をかき込む。昨日食べてないだけあって朝はよく食べられた。きっとこれからひいじいちゃんが骨になっちゃうなんてこの時考えてもいなかったんだろうな。


 午前10時お坊さんも来て、親戚もそろった。いよいよひいじいちゃんのお葬式が始まる。やっぱり人って不思議なもんで、朝のテンションとは変わって、ひいじいちゃんの葬式が始まると急に悲しくなる。シーンとした空間にお坊さんが唱えるお経が響く。


「それでは、お別れとなります。みなさま棺の中にお花をお入れになってください。」


一人ずつまるで寝ているかのようなひいじいちゃんが入った棺に花を入れていく。


「ありがとう。」

「愛してる」

「大好きだよ」


そんなありきたりな感謝の言葉や愛の言葉と一緒にお花を入れていく。

 

 私は、何も言えなかった、、。


ただ涙を流して、ひいじいちゃんの足元にお花を入れるしかできなかった。ありがとうと言いたかった

大好きと愛してると言いたかった。

 

「それでは、お別れです。何か最後に伝えることはありますか?」


「ありません。」


棺の蓋が閉じられた。


「出棺となります。」


その言葉と同時にセレモニースタッフを始めとした式場の方は頭を深く下げた。その姿を見た私はふと思った。


『なぜなのだろう。全く知りもしない、生きてる状態で会ったこともない人にそんなに深々と長く頭を下げられるのだろう。』


よく考えてみればそうだ。お焼香の時も弔電を読む時も故人に遺族に深々と礼をしていた。私たちの要望に応え、涙を流してくれた。きっとスタッフの方が行った行動は当たり前だけど、悲しみの中にいる私にはスタッフの方の行動に言葉に真っ青だった心がオレンジ色に染まったような暖かくなったような気がした。その後、最後までスタッフの方は私たちに寄り添ってくださり無事式を終えた。


 式を終え、家に帰ってきたひいじいちゃんの祭壇を立てるため、最後にセレモニースタッフの方がいらしてくれた。


「この度はお疲れ様でございました。」

「ありがとうございました」

「わたしも最後にお参りさせていただいてもよろしいでしょうか?」


お参りを終えたスタッフの方はまた深々と長くひいじいちゃんに向かって頭を下げた。

そして最後にスタッフの方はこう言った。


「これからも困ったことがありましたら、なんでも相談してください。」


そして深々と頭を下げた。

 

 きっとこれからも私はひいじいちゃんを思い出すたびあなたのしてくれた行動と言動に救われるのだろうそう思った。


 それから、大人になった私はセレモニースタッフとして悲しいお別れがどうか少しでも暖かいお別れになりますようにと願いながら今日も誰かの大切な人との最後の時間を共に過ごしている。







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