第81話 修学旅行は楽しく


 修学旅行の朝、俺は奈央子さんと俺の最寄り駅で待ち合わせして品川駅経由で羽田に向かった。勿論というか当然というか、俺達と一緒に石通さんもいる。


 午前十時半の便だが、二時間前集合という事で朝早い。まだ午前七時前だ。遅刻する人を想定しての事だろう。


 石通さんが一瞬だけ奈央子さんを意識する様な視線を送ったが、奈央子さんはその視線を無視して特に何も起きなかった。


 二人共中型スーツケースを持っている。学校指示で機内に持ち込める大きさだ。それと大きなバッグ。

 俺のスポーツバッグに比べて格段に大きい。何が入っているんだろう?



 品川駅の羽田行き京急ホームでは俺達と同じ様にスーツケースと大きなバッグを持った人達が随分居た。

 同じ高校の生徒も居れば別の高校の生徒も居る。皆緊張と期待一杯の顔をしている。


「京之介さん、結構同じような人が一杯いますね」

「そうですね。全員が同じ目的地とは思わないですけど」

「京様、いずれは私と一緒に鹿児島まで」

「石通さん、妄想するのは勝手ですけど、場所をわきまえて下さい」

「ふん!」

「二人共せっかく修学旅行なんだから仲良くね」

「「この人が!」」

「仲良く!」

 まったく、何とかならないかな。



「京。有栖川さん、石通さん。おはよう」

 後ろを振り向くと智と碧海さんが俺達と同じ様に中型スーツケースとバッグを持って立っていた。


「智、碧海さん。おはよう」

「京、有栖川さん、石通りさん。おはようございます」

「京、随分いるな」

「ああ、でも同じ目的地じゃないだろう。羽田からは色々な所へ出ているからな」


 上手く品川駅で会う事が出来たので、何となく良かったと思いながら電車がホームに入って来たので五人で電車に乗った。普段乗らない電車だからちょっと緊張する。



 五人で普段見慣れない景色を見ながらあれやこれや話していると羽田空港に着いた。ガラガラと一斉に乗客が降りて同じ出発ロビーに向かう。


 学校指定の団体さん向けの集合場所に行くともう結構な人が集まっていた。俺達が近くに行くと古城さんが声を掛けて来た。


 碧海さんが

「智也君、Bクラスに集まり場所に行くね」

「うん、弥生ちゃん、後でね」

 碧海さんが、少し名残惜しそうに俺達から別れてBクラスの人が集まっている場所に向かった。班単位行動なので仕方ない。


 よく見ると勅使河原さん、夏目さん、杉原さんも班毎に集まって楽しそうに話をしている。

 このまま静かに楽しい修学旅行になってくれると嬉しいと思うのは取り越し苦労かな。



 やがて各クラス担任がやって来て、班単位で整列するように言った後、引率責任者の先生から搭乗するにあたっての注意事項を聞いて、飛行機の搭乗口に行く事になった。


 AクラスとBクラスの担任の先生、学年主任と引率責任者の先生それに何人かのPTA役員が一緒に同じ飛行機に搭乗する。

 C、D、Eクラスは別便で沖縄に向かう事になっている。航空会社の配慮で俺達の便の十五分後に飛行機を運行してくれる予定だ。


 一般客も当然いる訳で、俺達が先に乗って奥の方に座ると一般の人達が乗って来た。席は、両サイド二シート、中央五シートのレイアウトだ。


 並びは窓際から古城さん、智、石通さん、俺、奈央子さん。本当は智と一緒に並んで座りたかったのだが、石通さんのお願いでこうなってしまった。飛行時間は実質二時間なので皆で交代で窓際に座る事にしている。


 シートベルト着用サインが出る前に担任の桃ちゃん先生が俺達全員居るか確認した後、シート装着サインが出て、CAが全乗員のシートベルト着用の確認をした後、タキシングロードから滑走路に出た。


 やがて物凄い轟音が聞こえた後、背中から押される様にして体が前に動いた。そしてお尻がフワッと浮く様に感じると目の前に映るビジョンから飛行機が地上から離れた事が分かった。

「京之介さん、浮きましたね」

 そう言って俺の手を掴んで来た。


「はい」

「落ちないですよね?」

「ふふっ、有栖川さんは飛行機に乗った事無いの?」

「そういう問題ではありません。何回乗っても落ちない保証は何処にもありません。石通さんは、保証出来るんですか?」

「そんな事出来る訳ないじゃない。有栖川さんは単に怖いだけなんでしょ」

「あの、二人共皆聞いているから」


 二人の声が周りの生徒に聞こえたのか、周りから半分含み笑いをしているというか、ジッと見られている。それに気付くと二人共顔を赤くして下を向いてしまった。



 やがてシートベルト着用サインが消えるとガチャガチャという音と共に声が賑やかになった。


 窓からの外の景色を見る順番は古城さん、智、石通さん、俺、奈央子さんなのだが、石通さんと俺になった時、何故か石通さんが窓の外の景色を見ずに俺の右腕に巻き付いて寄りかかって来た。


「あの、石通さん?」

「何ですか、京様?」

「窓からの景色は?」

「景色何てどうでもいいです。私はこっちの方が」


 これを見た奈央子さんが

「石通さん、何をやっているんですか。場所をわきまえて下さい」

「有栖川さん、五月蠅いわね。私がここに座って何をしようがあなたには関係ないでしょう」

「何を言っているんです。京之介さんは私の彼です。私の京之介さんにその様な事はしないで下さい」

「そんなの今迄の事よ。これからは私が…」



-えっ、有栖川さんと早瀬さんって付き合っているの?

-知らなかったの?

-好きだって事は文化祭で知ってたけど。



 不味い、俺達の事はAクラス内だけだと思っていたのに。

「石通さん、京之介様から離れて下さい」

「いやよ」

「あの、石通さん。そろそろ離れてくれると」

「京様、いやです」


 流石に桃ちゃん先生が、

「あなた達、何しているの?駒門高校の生徒としての自覚を持ちなさい!」

「「「はい」」」

 なんで、俺迄言われるの?



 この後、奈央子さんと一緒に座ったのだが、さっきの事があり、手を繋ぐ程度で終わってしまった。奈央子さんが大分不機嫌になっていたけど。



 そして、賑やかなフライトも終り無事に那覇空港に着いた。


―――― 

次回をお楽しみに。

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

カクヨムコン10向けに新作公開しました。現代ファンタジー部門です。

「僕の花が散る前に」

https://kakuyomu.jp/works/16818093089353060867

交通事故で亡くした妻への思いが具現化する物語です。最初の数話固いですけどその後がぐっと読み易くなります。

応援(☆☆☆)宜しくお願いします。

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2025年1月7日 07:00

女の子救ったからって恋愛出来る訳じゃない @kana_01

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