3.部活動

「今日も屋上昼飯デートだったんだって?」

「はぁーいいよなぁ結城君は……」


 俺と同じようにパソコン一体型デスクの席に着いている男子学生が2人。

 左には、野生児のような風貌とワイルドな眉毛が特徴的な神代かみしろ

 右には、小柄で少し太り気味で眼鏡を掛けている、少し内気な鈴木すずき

 どちらも隣のクラスの、同じ部活動の仲間だ。

 

「いい訳ないだろ」

 

 いつもの退屈なようで若干スリリングな授業も終わり――放課後の格納庫付き空き教室。

 この広い教室を俺達3人だけで使っているのは若干居心地が悪いが、他に使える教室は他の部活動で埋まっているか、使用許可が下りなかったのだ。


「いつもいつも付きまとわれるから、もう最近はクラスメイトも寄り付かなくなったんだぞ」

「でもリリスちゃんか、あとアンドロイドの初音さんともよく話してるじゃん!」

「……訂正する。人間のクラスメイトが離れていくんだ――あと、何故か俺が副委員長なので委員長とは話機会が多いだけだし、初音さんは席が隣なだけだ」

「羨ましい! 僕も女性型ロボットに囲まれたい、触りたい、頬ずりしてみたい!」

「そこまでやったことねーよ!」


 俺はそう言いながら、学校指定の腕輪型端末を目の前の木目調の机に近づける。

 すると机の内部にあるパソコンが起動し、宙に青い色のモニターが投影。

 机の上には2本のレバーが起き上がり、側面下部からはフットパネルが出てくる。

 いつものようにモニターをタッチし、“ゲーム”を起動する。


「こいつ授業中、休憩中でも女子をジロジロ見るもんだから、席替えで回り全部男子に固められてるんだぜ」

「しかもムサ苦しいゴリラ型とボディビルダーアンドロイドだよ! 息苦しいにも程がある! 授業も集中できないし、このままだと学力下がっちゃうよぉ」


「「自業自得だな」」

 

 俺と神代の意見が一致したところで、モニター付きヘッドセットと専用のグローブを装着。慌てて鈴木もゲームを起動し、装着する。

 

『フルメタルイージス、起動成功しました』



「お帰りなさいませ、マイマスター。今日のご用件は如何に致しましょうか?」

「神代と鈴木――”フカヒレ王”と“リンリン”を待ってバトルモードで遊ぶから――3人一緒に遊べる部屋を探しておいてくれ」

「了解しました」


 このフルメタルイージスは、仮想フィールドでロボットを操作するFPS(ファーストパーソンシューター)――つまり自分の視点で自機を操作するタイプのゲームだ。

 よくあると言えばよくあるゲームだが、最大の特徴は”実在するロボット”をゲーム内でレンタルして遊ぶことができることだろう。

 例えばアテナの所属するオリンポス工業、フレイヤの所属するグランド財閥なんかも協力しているので――つまり使おうと思えば、彼女達を自機として使える訳だ。


 ただこのレンタルシステム。地球や宇宙で借りれる機体に制限があるのはいいが、その日によって使える場所が異なっているのだ。例えば今日のフレイヤは地球マップ限定。

 さらに借りられるどの機体も数に制限があるらしく、噂ではリアルの生産台数と同数らしい――そこまでリアルに寄せなくてもいいのに。

 

『今日はなに使おうかなー。やっぱグランド財閥のヴァルキリーかなー』

『オレはいつも通り、寝台しんだいグループのテンタクルスだな』


『条件に合うルームを156部屋見つけました。条件を絞りますか?』


「イエスだ。条件に地上戦、対人、フラッグ、2回先取を追加だ」


 地上戦は地球、または月面のような重力のあるフィールドのいずれかのマップ。

 対人はそのまま人間とのバトル。対AI戦なんてのもある。

 フラッグはバトルルールの1つ。互いの陣地にある旗を取り合うゲームだ。

 2回先取もまぁそのまま。先に2回旗を取った方の勝ちだ。


『了解――37部屋見つけました』

「えっと、じゃあこの“Fuckin' Jap”ってルームで」

『えー明らかに煽られるやつじゃん』

『へっ。おもしれーじゃねーか!』


 部屋を選ぶとステージの詳細が表示される。

 戦場は月面の窪地にあるフィールド。岩場が多く、隠れる場所が多数あるマップだ。


「運よくATENA・EX-01も借りれるようだし、これでいくか」


 入学する前の春休みからこのゲームにのめり込み、そこでたまたま偶然フレンドになったのが目の前に居る2人だ。

 アテナはその頃から使っている愛機――フレイヤもそうだ。

 だからこそ、入学してからで向こうから声を掛けられた時は、心底ビビった。

 ただ今俺が選んでいるアテナはスカートセンサーなんて付いていないし、代わりに真っ赤な鎧のようなパーツが装着されている。名前が同じだけの別機体だ。

 

『でも変形禁止だよ? 大丈夫?』

「大丈夫だ。アテナのことは、俺が1番分かってる」

『よーし。向こうも準備できたみてーだし……やるか!』


『ではスタートまで3、2、1――グッドラック』


「「「グッドラック!」」」


 俺達は揃って「出撃」のボタンを押した。

 

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