2.屋上昼飯デート
3024年、地球。
1000年ほど前から悩ませていた少子化問題はいよいよ加速し――世界人口は衰退しまくっていた。
3024現在40億。1000年前から2分の1になってしまったのだ。
そのせいで体裁が保てない国が続出し、どんどん大国へと吸収され――107か国となった。
もはや人類のみではインフラの維持すら困難――となったのがもう900年以上前だ。
そこで登場したのが高性能なAIシステムを搭載した作業ロボット。管理や作業を一任し、最終チェックのみ人間が行う。
さらに年数が経つと今度は農業や漁業にも影響が出始め、これもAIを搭載したロボットが行うようになった。
時代が進むと月面や火星への進出も、人間は極少数の宇宙飛行士や技師達のみで――後は同じようにAIを搭載したロボットによって土木や建築、環境改善作業などが行われた。
そこから時が進むとAIも自己成長をし続け――いつしか人間と同じような感情を持ち、人間のように考えるようになる。
それもそのはずだ。AIが学習するのは身近に居る人間達からなのだから。
それを危機として訴える学者や団体、国家も少なくなかった。
いずれはAIが人間を不要と判断して、反抗されようものなら人類は全滅しかない。
しかしまぁ、そんな日が来る事はなく何百年も経過して――。
ロボットと人間は、なんか上手く共存していた。
◇
「はい、結城君。あーんして♪」
次の日――。
昼休みにヘリポートのある屋上で飯を食っていたら、案の定アテナがやってきた。
別に教室で食べることもできるし、部活仲間と一緒に学食へ行ってもいい。
しかしまず間違いなくアテナ達が絡んでくるし、教室だと騒がしくて他のクラスメイトに迷惑なので――こうやって広いスペースを確保できる屋上になる訳だ。
まぁ、教室も格納庫を併設してるから広いは広いんだけどな――。
「いいよ、1人で食べれるから」
彼女は器用にもその大きい手で小さなハシを持ち、自作風の冷凍弁当からタコさんウィンナーを持って俺の口元へと運んでくる。
一体、どんな持ち方をしているのか気になるが――。
「ほーっほっほっ。庶民臭い弁当なんか用意しちゃって。これだから民間の地方企業は貧乏臭いったらありゃしないわ」
フレイヤは屋上の入り口、その上にある給水塔横で口(?)に手を当てて高笑いをしていた。
ちなみにグランド財閥は世界2位、対してアテナの所属するオリンポス工業は日本で第3位。東京のやや北東に本社がある。
「げっ、フレイヤ! また出たわね!」
また出たも何も俺らは同じクラスで、俺が屋上へ向かったのを見てアテナとフレイヤが先回りしていたのは知っている。
そして、フレイヤがずっと給水塔の陰からこちらの様子を伺いながら、出番のタイミングを計っていたのも知っている。
「そんな弁当より、わたくしの財閥が所有する一流のシェフマシンが作った、最高級のディストピア飯なんかいかがかしら。1000年前の文献から蘇らせた一品ですわよ」
彼女がパチンと指を鳴らすと、どこからともなくドローンが金属の長方形の箱を運んでくる――かつてオカモチと呼ばれた料理の出前をする時に使う、専用器具だ。
フレイヤは器用にもオカモチから料理を取り出す。
「さぁ、食べてごらんなさい」
トレイの上には緑と赤の四角い豆腐のような塊が2つ。紫とピンク色のペースト状の何か。飲み物が無ければ喉が詰まりそうなブロックのようなお菓子が数本。
ちなみに1000年前は『将来、食料が足りなくってロボットにより人類は管理される』という漫画や映画があって、それに出てくる料理がこのような形をしている。
バイオ生成肉や、人工野菜などの代用品が主流になり、本来の肉や野菜は超高級品になってしまった――とある。
しかしながら1000年後の世界は世界人口の大幅減少と、AIロボットによる管理と生産が噛みあい食料自給率が大幅にアップ。
それは宇宙でも同じで、独自の栽培技術や輸送技術の向上もあり宇宙でも新鮮な野菜が食べられるのである。
先人達の食に対する熱意に大感謝。
「……美味しいの、これ」
「シェフ、美味しいわよね」
ドローンに付属しているスピーカーから機械音声が流れてくる。
『ハイ、フレイヤ様。この料理はタイヘン美味しいと、ラインでたまに盗み食いをしている所長にも好評です』
このシェフマシンって、確か食料加工工場に据え置き型のロボットだったような――生産ラインで盗み食いってなにしてんだよ所長。
「さぁ、結城君。盗み食いしている所長にも大好評のディストピア飯、食べてごらんなさい」
「その所長、大丈夫か?」
「大丈夫よ。盗み食いを見逃す代わりに、一番高級なのタダで譲って貰ってるんだから」
「フレイヤ! アンタこそみみっちいじゃない! 財閥のお嬢様なら、そのくらい買いなさいよ!」
「ほーっほっほっ! 最近パパが『人間用の食料とかチケットとか買い漁って、まさか男でも出来たかのか!?』って言って、お小遣い減らされたのよね……」
少ししょんぼりするフレイヤを見て、俺は手を差し出す。
「……はぁ。俺が食べないと無駄になるんだろ……自分で食べるから、それも弁当も渡してくれ」
「はーいっ」
「分かりましたわ。ここで貴方が食べる様を、じっくり観察してあげるわ」
ロボット2人に見守れながら――俺は昼飯を食べるのであった。
……マジでなんでこの2人にモテてるんだろうか――。
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