第2話 万引き

「大変申し訳ございませんでした……!!」

 顔面蒼白になって頭を下げている雄介と薫。

 横には大粒の涙を流しながら俯いている康二が座っている。


「頭を上げてください。息子さんもしっかり反省してくれているようですし、今回は商品の買取と迷惑金をいただければ結構ですので。」

 事務所の中には重い空気が漂っており、壮年の店主は厳しい表情を浮かべているが、その口調は穏やかだ。


 ――――事の発端は本日の昼下がり。

 GWも最終日を迎え、家族の中にはゆったりな時間とともに楽しい休日が終わってしまうという若干の憂鬱な空気が流れていた。

 夕飯は何にしようかと薫がキッチンで色々と確認をしている時に雄介のスマホが鳴った。

「はい、はい。そうですが――――、ええっ…?!」

 電話は、康二が駅近くの書店で万引きをしてしまい、事務所で預かっているという内容であった。

 話を聞いた雄介と薫は急いで書店に向かい、冒頭の場面へと続いていく。


「もう二度としないように。しっかり反省するんだよ。」

 雄介と薫に支えられながらも、再度しっかりと頭を下げていた康二に店主は諭すように言葉をかけ、送り出す。

 書店から出ると、辺りは夕暮れの淡い光に包まれていた。

 雄介と薫は憔悴した康二を支えながら、三人は家路についた。




「――――家族裁判を、開こう。」

 三人が帰宅し、重苦しい雰囲気の中買ってきた弁当を食べる家族のみんな。

 康二も最初は箸が進まない様子だったが、薫や健一に促され食べていた。

 食事を終えても誰もテーブルから離れることもなく、かといって会話が弾む訳もない。そんな空気を切り開いたのは雄介の言葉であった。


「お父さん、裁判って……! 康二だって反省してるんだから……。」

 雄介の言葉に一花が食って掛かる。

 一花の言葉に穏やかな笑みを浮かべながら手で制する雄介。

「大丈夫。これは康二を罰する為の裁判じゃないよ。――――今回の件の一番の被害者はお店であって、そのお店がすでに許してくれているんだ。僕たちに康二を裁く権利は最初から無いんだ。」

 雄介の言葉にほっと胸をなでおろす一花。その言葉を聞いた薫も安心させるように康二の頭を優しく撫でていく。

「じゃあ……、どういう裁判を開くの?」

 健一が雄介に問いかける。

「それは――、康二にとっては……、とても厳しい内容になってしまうのだけれども……。」

 雄介は慎重に言葉を選びながら話していく。

「康二がやった事。今回はお店側が穏便に許してくれたけれども、二度とやってはいけない事だと思う。だから――、康二がなぜ万引きをしてしまったのか。それを聴きたいんだ。それを家族みんなで聴いて、今後しないようにする為にはどうしたらいいのか、考えよう。そして――――、またいつもの明るい皆になって欲しい。」


 雄介の言葉を聞き、それぞれが目線を交わしうなずく。

 全員がテーブルに座り、とても穏やかな口調で雄介が訊く。

「どうして――、万引きをしてしまったんだい?」


 雄介の言葉をきっかけに、康二は堰を切ったように涙を流していく。

 その間、誰も急かすこともなく、康二の両隣に座っていた薫と二葉は康二の背中を優しくさする。

 しばらく経った後、次第に落ち着いてきた康二は、ゆっくりと口を開いた。


「――――実は、僕……。学校で……、イジメられているんだ――――。」

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家族裁判 @yasu13

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