家族裁判
@yasu13
第1話 冷蔵庫のプリン
――――カンッカンッ!!
リビングに木槌の音が鳴り響く。ドラマの裁判なんかで見るアレそのものだ。
「主文――、被告に罰金500円を申し渡す。また、その罰金は原告に支払うものとする。」
今、目の前で繰り広げられている光景。
ダイニングテーブルを挟んで一花と二葉が神妙そうに向かい合っている。
少し離れた席に座る雄介は二人を見ながらゆっくりと木槌をテーブルに置く。
「えぇーっ! 500円って高すぎだよぉ~~~!!」
「アレは有名なお店のプリンなんだから仕方ないでしょ! ちゃんと証拠にレシートも出したでしょ! 二葉だって見たじゃない!!」
静寂を破るように二葉と一花の声が響く。
口をすぼめてぶーぶー言いながらも一花に見せられたレシートを見てがっくりと肩を落とす二葉。
たしかに中学生の二葉にとって500円はそうとうな金額だが、行列に並んでまでGETしたお楽しみのプリンを食べられてしまった一花は引かない。食べ物の恨みは怖いものだ。
テーブルから少し離れたソファに腰かけていた薫と兄弟たちも会話の輪に交じっていく。
先程までの神妙な雰囲気はすっかりなくなり、普段通りの家庭の姿が戻ってきた。
じゃあさっきのアレは何だったのかって?
あれはそうだなぁ――、3月の終わりくらいに父の雄介があれを持って帰ってきたんだよ。
ドラマとか映画の裁判とかで見るあの木槌。
あんなの見たらとりあえず叩きたくなっちゃうでしょ? 俺なら叩いちゃう。
それはこの家の人たちもそうだったみたいで、最初はカンカン鳴らしながら適当に色々喋っていた。「おほんっ。今のギャグはつまらなすぎる。死刑!」とか言いながらゲラゲラ笑っていた。
そんな中、父の雄介が言ったのだ。
「せっかくコレあるんだし、ちょっと真面目に裁判ごっことかしてみない?」
雄介の言葉に真っ先に飛びついたのは兄弟たち。
兄の健一と弟の康二はふたりでyou〇beをやっているみたいで、大学や高校の友人たちと色々な動画を撮ったり、家族の会話や旅行の記録なんかを投稿しているみたいだった。(もちろん許可はとっているようだ。)
「やろうやろう!!」「それ動画撮ってもいい?!」
そんなきっかけで始まった裁判ごっこ。いや、家族裁判。
最初は深夜までうるさくするなだの、貸したゲームをちゃんと返せだのそんな内容だった。
母の薫が雄介に「最近ふたりでデートに連れていってくれない!」と訴えた時は兄弟姉妹みんなでワーワーキャーキャー盛り上がってたなぁ。
日常の中の、ちゃんと聞いてほしいけれども、そこまで真剣な訳じゃないっていう事柄の解決に家族裁判はとても良かったんじゃないかと思う。
基本的には家族みんなで集まって話し合いをするから、共有することができるし、仕事に家事、中学高校大学とそれぞれが忙しくしている中いわゆる家族団らんの時間にもなっていた。
―――――あんなことが、起きるまでは。
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