ダメアリス
ろく
第1話
バイト帰り、ふらついた足、それが舐めるアスファルトは雨で濡れていて
つるん
と。
そして
バドッ
という音を奏させた。
「ああ゛ー」などという声を出す気力すらも無い僕だが、見上げる太陽が眩しいので仕方なく立ち上がる。しかし、アスファルトの隙間に残った水が反射する光が、さっきまでより主張していて。また雨雲が来て、太陽を隠してくれればいいのに。また雨が降って、僕の背中を流してくれればいいのに。
その時ちょうど、光が薄まっていって、アスファルトは黙り込んだ。
あぁ雲様、あなたは僕にとってヒーローです、どうか家に着くまで、そのままで、光から僕を守ってください。と心で言い切る前に、アスファルト達がまた眼差しを向けてきた。この雲は、うすーい、ただの白色の雲だったのだろう。
睨んだような目つきでまた歩き出す。すると目の前に、赤・青・黄・緑の4色を纏った1匹の犬が現れた。可愛そうに。怯えた顔をしている。
「怖がらないでくれ。この目が怖く見えるは光が嫌いだからだ。」
僕の声を理解したのか、その犬は急に明るい顔になって、踊り出した。
おい、そんなはしゃいだら
ドテッ
あらら。
睨み顔の犬は、のしのしと歩き出した。心配なのでついて行こう。
目の前で揺れる緑色のしっぽ。頭がおかしくなりそうだ。でも何故か、見てしまう、ずっと、気づいたら、見知らぬ公園に着いていた。遊具がブランコしかない。犬は見失ってしまった。
水溜まりを踏まないようにして、ブランコに腰をかける。いつぶりだろうか。
無心で漕ぐ。だんだん、空が見えてくる。下を向いた。けど、水溜まりの中にも空が見える。
空と空の間で、目を瞑って、ジメッとした空気の中を泳ぐ。
今自分がどれぐらいの高さにいるのかも、分からない。ただ、端から端に行くまでの時間は、徐々に伸びてきている。
そして、
つるっ
と椅子から滑り落ち、
両手は、
ベデベデベデ!
と鳴りながら鎖を擦った。
驚いて目を開ける。眩しい。
そして、茶色の空に
ジャポッ
と沈んだ。
地面にぶつかることはなく
生暖かさに包み込まれ
顔を泥が覆い
光が消えた
そして
―ムオン―
変な色の犬に誘われ、謎の水たまりに落ちるなんて、アリスみたいだ。
だんだん光が見えてきた。そして着いたのは、あの犬と同じ赤・青・黄・緑の色をした気持ちの悪い世界。目の前にはさっきの犬がいる。そして僕のことを確認すると、着いてこいと言わんばかりにしっぽを振りながら歩き出す。仕方なく着いていく。
進む先には城が見える。あそこにはトランプの兵がいるのだろうか。
城の前に着いた。表札には宇野とかいてある。白の見た目に反して日本人が住んでいるのか。
門をくぐる。
引き続き犬の後ろについて行く。あいにくトランプの兵には会えなかったが、それに似たような、お腹に大きく数字が書かれた兵たちが僕を出迎えてくれた。
そして大きな扉の前に着いた。犬の
ワン
という声に反応して扉が開く。
長い廊下を歩き、ある部屋の前に着いた。犬が扉をノックして中に入る。僕もそれに続く。部屋の中には豪華なベッド。そしてそこで横になっている女性がいる。
「あら、いらっしゃい」
女性が優しい声で言う。
それに続いて犬が
「この方は女王様です。」
いや、君喋れたのかよ
という僕の気持ちを無視して犬は続ける。
「この方が亡くなってしまえば、この世界は滅びてしまいます。どうか力を貸していただけませんでしょうか。」
「世界が滅びた時、僕はどうなるんだい?」
「元の世界へ戻ります。」
「じゃあ滅び無かったら?」
「ずっとここにいてもらいます」
女王には申し訳ないが、長生きはしないで欲しい。
「わたしはもう、きっと長くありません。あの木の葉っぱが全て散ってしまう時、私の命も枯れてしまうでしょう。」
女王が指さす木には、またしてもあの気持ち悪い色の葉っぱが4枚ほどついている。女王の落ち着いた声はまだ続く。
「もうこの世界の寿命も僅かです。せっかくですから、それまでこのお城でゆっくりしていってちょうだい。」
犬に案内されながら、僕はお城の中を探索していた。そして中庭に着いた。木が何本か立っている。その中には、さっき女王が指さしていたものもある。それらの気がガヤガヤしている。
「この木たち、喋っているようにきこえるんだけど?」
「そうです。この世界の木は喋るんです。ですが、女王が先程指さしたこの木。これは、葉が少なすぎるのでもう喋ることありません。」
犬が寂しそうな顔をする。
その時、風が吹いた。葉が揺れている。
ビュービュー
カサカサ
という音。そして、あの木の葉の4枚のうち一枚が飛んで行った。
また風が吹く。そしてまた1枚飛んでいった。
あと2枚しか残っていない。
予想より早くこの世界は消えてしまいそうだ。
またまた風が吹く。また1枚、どこかへ行ってしまった。ああ。なんてことだ。1枚しか残っていない。また風が吹けばきっと、女王は死に、この世界は消えてしまうのだ。
木の近くの窓の方に目をやると、女王が泣きそうな目で葉を見つめている。僕がいる時は冷静を装っていたが、やはり死ぬのが怖いのだろうか。
僕にできることは、風が吹かないよう祈ることだけだった。
そんな祈りを捧げようとした時、周りの木たちが一斉に叫んだ。
「あ!UN〇って言ってなーーい!」
どうやら僕はこの世界に閉じ込められたようだ。
おわり
ダメアリス ろく @rokusan06
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