記憶にございません

クライングフリーマン

忘れない記憶

 ======== この物語はあくまでもフィクションです ========

 警視庁。第3取調室。

 ここは、私、新里あやめの特別取調室だ。

 私が「完落ち」させた被疑者は、優に2000人を越す。

 その功績を買われて、テロ対策室に配属され、事件に関係した被疑者を取り調べる。

 最近、『必要な機材』を取りそろえて貰った。更に磨きをかけた取り調べが行える。

 先輩の、渡辺警視も厳しい取り調べで有名だが、先輩にお墨付きを貰った私は、更に厳しい。

 今日は忙しい。今日最初の取り調べは、『クマと人間殺し』の無井敬吾と北崎徹だった。

 そんな、傷害のマエのある奴らでも、私の『餌食』に過ぎなかった。

 新しい『犠牲者』がやって来た。

 記者会見場から、記者を騙った、不届きな奴だ。

 入って来た偽記者を一瞥すると、私はドアに鍵をかけ、鍵は制服のポケットに行き、窓の前に行き、2重ガラス戸を閉め、ブラインドを下ろし、反対側の鏡にあるミラーカーテンを閉め、更に白いカーテンをしめた。最後に部屋の隅のラジカセの録音スイッチを入れた。更に、スイッチを押して天井灯の明かりを変えた。

 そして、男に一発かませる。

「テーブルが1脚と椅子が2脚。どっちに座りたい?それとも、『私の膝』に座りたい?」

 男は、おどおどしている。もう『落ちた』も同然だ。

「えと、そのう、手前の椅子に座ってよろしいでしょうか?」「ピンポーン!いい子ね。常識人と見たわ。違ってる?」と、男の顎を障り、頭を撫でてやった。

「いえ、まあ、普通です。」

「この前ねえ。『私の膝』って言った馬鹿がいたの?それで、お馬さんの鞭、試してみたの。いい音したわよー。」

 男は、ドアから見えない位置の壁に鞭があることを確認した。何故か、黒い鞭の先に、赤い『模様』があった。

「これね、防音シャッターだから、叫び声や喘ぎ声が漏れたりしないわ。隣の部屋からも見えないわよ」

 私は、男の前のテーブルを乱暴に、横に跳ね飛ばした。その壁には、幾つかの傷が出来、その下の方に壁土が落ちていた。

 男の股間を凝視する。既に染みが出来ていた。私は、スカートをたくし上げて、男の前に座った。男の染みは更に広がった。

 私は、お相撲さんの『四股』を踏むような角度で椅子に座り直した。

 男は、思わず目を見張った。

「どこ、見てる?」「え?いえ、別に。」「別に?特別に見たんだろ?言ってご覧。」

「特別に見てしまいました。申し訳ありません。」「申し訳ありません?」

 私は、男の椅子の隣に、今座った椅子を置き、今度は横座りの姿勢で座った。

 女の色気は、ここから始まる。「私の胸を撫で回して、『申し訳ありません』って言ってもねえ。その気満々ね。あら、今度は制服の隙間から手を入れるのね。次は揉み出すのかしら?ああ、感じるわあ。」

 私は、男の反応を横目で見ながら、台詞を言い出した。台本は自分で作って暗記しているが、時にはアドリブも入れる。

「上着を脱がせて、次はブラジャー?パンティはまだ先よね。フロントホックだから外しやすいわよね。気にしなくていいのよ。レイプは親告罪。『和姦』だから、分かんない。あはっはは。」

 男は、何をされているか理解した。顔が真っ青だ。隅にある机の上では明らかにラジカセのテープ回っている。えん罪に違い無いが、誰がこの録音を聞いて、えん罪と信じるだろうか?

 私は、男を陥れている、『悪徳女性警察官』だ。演じているだけだが。

「なあに?『パイ』をすりおろしたいの?それとも、喉が渇いたからミルクが欲しいの?」

 偽記者を演じた男は、椅子から降り、土下座をして言った。

「全て、すべてお話しますから、勘弁して下さい!!」

「お利口ね。そう来なくちゃねえ。」私はラジカセからカセットテープを取り出し、側の水差しにテープを投げ入れた。

「ねえ。『魚心あれば水心』って、諺知ってる?」と言いながら、男を見た。

「はい。勿論です。」男は、今までの経緯の録音が再生出来ないように、水に浸した意味を悟ったのだ。「思い出した?」「思い出しました。」

 私はテーブルを元に戻して、隅の机の引き出しから、ノートパソコンを取りだした。

 蓋を開けて、電源を入れる。男はまた、芽を見張った。

 男が見ているのは、パソコンの蓋ではなく、私のヌード写真だ。しかも『セクシー女優』並みの。

 男はすらすらと、供述を始めた。

「名前は、南雲孝史。現住所は、渋谷区千駄ヶ谷・・・。山原(やんばる)商会に借金がありまして、ある時呼び出されて、『借金の期日』を延長してやる。但し、条件がある、と言われました。それが、記者会見場でイチャモンつける仕事でした。偽警察官も、私と同じだったと思います。そして、台本通り行ったな、と思っていたら・・・。」

「目の前の、とびきり美人に捕まったという訳ね。」

 詳細な供述は、3分もかからなかった。私はノートパソコンを引き出しに戻した。

 カーテンを戻し、シャッターとブラインドを戻し、天井灯のスイッチを切った。

 天井から、機械的な声が聞こえた。「録画終了します。」

 私は胸ポケットから、鍵を出し、施錠を解いて、廊下に待機している警察官に南雲を引き渡した。録音はとっくに終了していたが、録画は、たった今終了した。

 私の、ちょっとした『知恵』だった。さあ、次は偽警察官2人の番だ。

 ―完―



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