第9話 悪魔と言われたので楽しもうと思う
爆発音が村獣に響き渡るのと同時に、レッドウルフの大群が雪崩れ込んでくる。
爆発音は、多分俺の魔石を割ったからかな。流石に俺のでも入れすぎたと思った魔石だから、逃げ場を失ったエネルギーが音に変換されたって感じか。
ともかく、だいぶいい雰囲気で始められた気がする。その場の流れに任せてやってみるということも、大事なのかもしれないな。今後はどんどんやっていこう。
魔力探知で探ってみた感じ、アーレもレッドウルフ達も、みんな俺の張った結界内には入ることができたみたいだ。
それなら、結界を外側からも入れなくしてしまおう。
ここで一気に大群が押し寄せるなんてことはないだろうが、念の為だ。
さて、俺はレッドウルフが取りこぼしていそうな家の中とかを探していこう。
この村の家は基本的には土壁でできているが、俺の住んでいた小屋よりも大きい。中には部屋もあるはずだ。
つまり色々と探しがいがあるかもしれない。ということで魔力探知はしないで探していこう。
「どの家から行こうかな」
舞台から降りて、一度周囲を確認する。それなりの地獄絵図と言える惨状ではある。
近くで見ていた老人達は足腰が弱っていたのか、逃げ出すことすらできずに頭蓋を噛み砕かれている。
ここから見える家も悲惨で、窓から顔を出していた女は髪を引っ張られて窓から落ちて転落死。なかなかである。
そんな死体が転がっているが、これが全てとは思えない。
しっかり部屋の隅まで探していこう。
探すポイントとしては、血が窓や扉についていない家だろうか。
ここから一番近いのは。
「……あそこだな」
視線の先にあるのは、周りの家より少し豪華な造りの家。レッドウルフが入っていくのを見なかったから、魔物よけの何かがあるのだろう。
もし村が魔物に襲われたとしても、自分たちは生き残れる。賢い選択だ。
他の家に魔物よけを渡さなかったのも賢い。全部の家に魔物よけがあった場合、獲物の匂いを嗅いでいる魔物が抑えきれなくなって、結果として全部の家が襲われることになる。
だが、俺は魔物ではない。人間だ。いや、一応今の俺は魔族っていう体か。
とにかく、そんなものは俺には効果はないし、なんならそれのおかげ俺に生きていることがバレているんだ。
焦らしてみるのもいいかもしれないが、この血生臭い場所でずっといるのも嫌だから、さっさと終わらせて次の村か街にいこう。
「お邪魔します、っと」
家の扉は他の家のような簡素なものではなく、しっかりとした重みのある木でできたものだった。
食べ物の匂いがするから、人がいることは間違いなし。あとは家のどこにいるかだが。
家の扉を開けた時に、ガタン、というものの動く音がした。
俺の過ごしていた森の中というのは、魔物の動く音にすぐに反応しなくては生きていけない。そのおかげで、音が少しでもすれば、場所がわかる。
耳をすませば、服の擦れる音や、呼吸の音なんかも聞こえる。
外の音はうるさいが、これだけ近ければ、この程度の音で十分だ。
「どうも」
「ヒイッ!」
顔を出した瞬間、そんな悲鳴を上げられてしまった。
認識阻害の魔術をかけているから、俺の顔は認識できないだろうに。魔術を解いても、そんなに怖い顔はしていないぞ。
まぁいい。初めての蹂躙だ。楽しむことを忘れないようにしよう。
「まずは肩の力を抜いてくれ。俺だって、すぐには殺さないさ」
この部屋にいるのは全部で6人。
広場にいた老人と同じくらいの年齢の女。20代後半くらいに見える男女。そしてその子供と思しき3人だ。
赤ん坊もいるから、泣くかと思ったら、多分あれは気絶している。
というわけで意識があるのは残りの5人。
この状況で子供に会話を求めるのは酷だから、大人達と会話を楽しもう。
「ど……、どうしてこんなことを……するの」
意外にも、最初に口を開いたのは、子供のうちの一人だった。
アーレと同じ歳くらいに見える少女。
泣きながら喋らない方がいいぞ。せっかく親にもらった綺麗な顔が台無しだ。
さて、どう答えたものか。
「どうして、か。別に強い理由があるわけではないが、起こっているからかな」
「なぜです……、生贄は捧げたはずじゃ」
今度は父親の方が口を開いた。
「だから、その生贄を送ってきたことに対して怒ってるんだ。俺は生贄を寄越せなんて言ってないからな」
「で、でもお義母さんが」
「あーー、本に書いてあったとか言っても意味ないからな。1,000年前の奴がどんな奴だったかは知らないが、そいつと俺とは全くの別人だ」
そう言うと、母親の方の顔が引き攣り始める。
「だから俺は反対したんだ!なのに」
「……もういいだろう。俺がお前らに怒っている理由は説明した。言い訳は時間の無駄だ」
なんか仲間割れみたいなことになりそうだったから、一応やめさせる。
命乞いの一つもできずに他者に責任転嫁とか、アーレの方が何十倍も魅力的に感じるね。
さっさと終わらせてしまおうか。この問答も面倒くさくなってきた。
「ど……どうかお助けを!私は反対だってしましたし、どんなことでもしますのでっ」
命乞いはできるんだな。とはいえ、一家の大黒柱たる父親が腑抜けた姿を家族の前で晒すのはどうかと思うぞ。
まぁ命乞いなんてしても、俺はすでにこいつらへの興味を失っている。
つまるところ、俺はこいつらの生死に関してはどうでもいい。
だが、アーレがこの村の人間は皆殺しにすると言ったんだ。俺は当然、魅力的な方の意見を尊重する。
「俺にメリットがない。さっさと終わら──」
「お、お待ちを!」
俺がさっさと終わらせようとしているのに。いい加減にしろよ、こいつ。
一番最後に殺してやろうか。
しかし目は本気だな。次の言葉で俺の気を引けたら考えてやるか。
「の……のぞみとあらば、金でも女でも。あぁそうだ、私の娘なんてどうです……将来は絶対美人になりますので」
うーん、何も刺さらない。そもそも1,000年近く独り身だった俺に、今更女を押し付けられてもな。
とにかく、最後のチャンスを無駄にしたな。お疲れ様。
「……悪いな。皆殺しにすると決めているんだ」
これ以上無駄話をされないように、少し威圧的に話してみただけだが、さっきまで俺の命乞いを続けていた父親は完全に固まった。
さっきお義母さんと呼ばれていた老人の方は、俺が手を出すまでもなく死んでいる。
最初に話し始めた少女の方は、へたり込んでいる場所が濡れている。キツめの匂いが部屋に広がるからやめて欲しいんだが、そこまで怖くないだろう。
「あ……悪魔。なんで……笑って」
床を濡らしながら、少女が震え声でそう言って、気を失った。
なるほど確かに、今の俺は悪魔に見えるかもしれない。それに、笑ってもいる。
俺に人殺しの趣味なんかはない。だが世界を滅ぼすということは決めているんだ。
今後、人を何人も殺すだろう。無知な人も、無垢な人もいるかもしれない。そのたびに後悔をしていては損だし、無感情で殺しても、それは無駄になる。
であれば、せっかく人を殺すのなら、楽しんで行こう。最初に世界を滅ぼすとあの騎士に言った時に、そう決めたからな。
「そうだな……悪く思え」
次の瞬間、部屋の壁が血で塗られた。風魔術で全員の首を飛ばすだけで、一瞬で終わる。
悪く思うな、とは言わない。俺もこの家族だけでなく、この世界の人にとって悪いことをしているという自覚はある。それでも俺は、俺のわがままと暇つぶしで世界を滅ぼす。
最後の方は、結構楽しい問答もできたし、感謝として火葬で弔ってやろう。
それと、最初に決めた指針を俺の中に確実に刻ませてくれたのも感謝だな。殺しは楽しむ。それを大事にして今後もやっていこう。
「さて、次を探すか」
家の扉から出ると同時に、火魔術を発動させて家ごと火で包む。
夜はまだ始まったばかりだ。
暇が祟って世界を滅ぼす 虹閣 @Bifrest_Port
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