第8話 村まで降りて宣言する

 アーレが俺のところまで来てからちょうど10日、今日が新月だ。

 というわけで、今俺は最後の下見として村の近くまで来ていた。

 基本的にアーレに任せるとは決めているが、それ以外にやっておいた方がいいことを探しておこうと思ったからな。それに、ずっと眺めているというのも暇になるだろう。

 あとは、不安要素の除去。ちょうど今日がその日だから、たくさんの騎士団とか兵士とかがいるかと思ったが、そうでもないらしい、

 流石に俺が大魔術を使って、村を丸ごと焼き払えばなんとかなるが、それだとアーレに任せることにした意味がない。

 今後いろんな村や街、果ては都市を滅ぼしていくんだ。それでも、生贄として捧げられてきた少女の復讐劇なんてものはなかなか拝めない。

 だから不安要素の除去はしておくべきだ。

 あとひとつ悩んでいるのは、生き残りを出すかどうか。

 近くの街まで伝えてくれれば、大魔族がこの村を滅ぼしたなんてことは、いろんな国にも伝わってくれるはずだ。

 まぁでも、ひとまず村全体を覆う結界は張っておこう。入る者拒まず、出る者許さずの結界だ。

 ちなみに、アーレはこの村くらいなら、邪魔さえ入らなければ余裕で滅ぼせるようになった。とは言っても、俺の力を貸した状態ではあるが。

 俺がこの10日間、アーレに教えた魔術は使役魔術だった。

 なぜかと言われれば、アーレがそれを覚えたいと言ってきたからだが、慣れてしまえば便利な魔術ではあるし、簡単に教えていった。

 思いの外アーレの魔術に対する適性は高く、教えたことはすんなりできるようになった。

 だが、魔術理論に対する理解は難しかったらしく、なかなか覚えられていなかった。

 まずは俺の魔力を貸しながら、一緒に術式を組み上げる練習をし、3日目には使役は簡単にできるようになり、軽い指示なら自由に出せるようにすらなっていた。

 正直怖い、俺でもそんな才能がなかったのに。これが天才と凡人の差というやつなのか。

 今アーレは、村の近くの森の中で、従魔たちと一緒に隠れている。

 俺が大量に召喚したレッドウルフを全部従魔にして、その数なんと1,500のレッドウルフ軍団を作り上げた。うーん、圧倒的過剰戦力。

 使役している間に消費する魔力も、俺の魔力をたっぷり込めた魔石を渡しておいたから問題ないはずだ。

 とにかく、そんな感じでこの村を潰す準備は整った。

 あとは、俺がなにをするかだが。なにをしようか。

 とりあえず、家の中に隠れているような村の人がいたら殺して回ろう。

 なんの罪もないかもしれないが、この村の人間は皆殺しにすると決めたからな。仕方ない。

 さて、もうすぐ日入りだ。

 村の中に入って、最終確認といこう。

 それにしても、少し奥が騒がしい気がする。前にアーレが磔にされていたあたりだ。

 うーん、行ってみようかな。

 村の中は前とあまり変わっていない。変わったのは聞こえている少し騒がしい声だけだ。

 とはいえ、その中にある声は、老人のような少し掠れた声がほとんどだが。

 色々気になるな。さっさと向かおう。


 「────でしたー!」


 少し声がはっきり聞こえてきた。

 なにやら宴会のような雰囲気を感じる。

 角を曲がって見えたのは、前に来た時と同じような人だかりと、簡易的に作られた舞台だった。舞台といっても、人が5人乗ればいっぱいになるような者だが。

 しかし、なにをしているんだろうか。

 周りの雰囲気から察するに、宴会とかか?だとしたらひとつやってみたいことができた。


 『アーレ、ひとつやってみたいことがあるんだが、いいか?』


 『え、なにこれ、ヴォルドの声?』


 『これに関しては後で説明する。村の人間を一人、先に殺してもいいか?日入りの直前にだ』


 『えっと……別にいいけど』


 『ならよし。油断はするなよ』


 なにが起こったのかを簡単に説明すると、魔力の糸をつなげて思念を送っただけだ。

 アーレには、俺の魔力を込めた魔石を持たせているから、場所が簡単にわかる。

 そこまで魔力で練った糸をつなげて、思念を乗せて送る。

 人と話すことなんて今までなかったが、アーレが来てから練習しておいてよかった。

 あと、使ってわかったがなかなか便利だな。今後も使っていこう。

 それよりも、この広場まで来て、思ったことがいくつかある。

 その一、人が思ったよりも少ない。前に村に来たとき、この村には500人くらいが住んでいることは確認済みだが、今この場にいるのは100人程度だ。

 その二、お年寄りばっかり。さっき聞こえてきた声も掠れた声だったが、やはり老人ばかりだった。

 その三、一つやりたいことができた。アーレに先ほど連絡したのは、それが理由だ。

 目の前にある仮造りの舞台に一人の老人が上がっていく。


 「皆さん。今日は生贄のおかげで訪れる平和を祝って、楽しみましょう」


 なんか始まったな。とりあえず平和は来ないということは、伝えなくても良さそうだ。


 「生贄と言っても、村の穀潰しを処分しただけではありますが。勇者様をも殺した大魔族の怒りを抑えてくれるのなら、不満ではあるものの村のために貢献してもらいました」


 じゃあ使うなよ、楽しかったけど迷惑はしたんだ。二人分の料理を作るって、案外面倒臭いんだぞ。


 「村の穀潰しの処分と、大魔族の鎮静。一石二鳥ができて私は満足です。もちろん、皆さんの総意であるとも思います。ということで、せっかくの宴ですので、酒をふんだんに飲みましょう。では!」


 うーん、クソみたいな演説。まぁでも周りの人たちからのウケはいい。

 ということはつまり、本当に村の総意ではあったんだろう。

 まぁこんな村で暮らしていたアーレには不運だったな。俺なら穀潰しになった時点で村から追い出すけど。

 でも、こんな村なら滅ぼすことに一切の躊躇をしなくていい。元から躊躇なんざする気はないが、何か俺に有意義なことを示してくれたら、一考の余地はあったかもしれない。もちろん、アーレがダメと言ったら問答無用で滅ぼす。

 よし、決めたぞ。最初の犠牲者はあの村長になって貰おう。

 あと日入りまで1分ほどだ。

 今から村長が曲芸を一つ披露するそうだから、それまで待ってやろう。どうせ一分もかからない。

 村長が取り出したのは、五本の短剣だった。

 それを一つずつ宙に放り、手玉回しのように回していく。

 自信があるのも納得のうまさだが、これが最後の演技になるんだ。もう少し練習しておくべきだったな。

 10周ほど回して、観客へ深くお辞儀をする。

 すでに俺は魔術で気配を隠蔽しつつ、村長のすぐ後ろに回っている。

 お辞儀をし終えて、顔を上げた瞬間。魔術を解き、短剣をそのまま村長の喉に突き刺す。

 そして魔族らしく、こう宣言した。


 「それでは観客の皆様、次は演者として、続く劇をご覧あれ」


 その言葉の直後、陽が落ちきり、村の北西で爆発音が鳴り響いた。

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