第14話

 午前中の授業時間を丸々ダンジョンアタックに費やした僕は、少しの時間的猶予を持って攻略を切り上げ生徒会室に向かう。

 僕以外のクラス全員が休んでいるために自由時間として使っていいと先生からお達しを受けていたこともあり、戦闘訓練として有効利用していた。独学では成長に限界が来るとは思うが、僕の現状ではそのレベルにまで至っていないので場数を踏めるだけ踏んでおきたい。


「呼び出しに応じてくれてありがとう。そこの席に座ってくれないか」

「あ、はい」

 

 生徒会室のドアをノックして部屋に入ると、会議用の長テーブルにパイプ椅子が四脚置いてあったので、僕はすでに席に着いていた会長と副会長の向かいに座った。


「どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

 

 後ろから女生徒がお茶を出してくれた。気がつかなかったために驚きはしたものの、極力顔には出さずにお礼を言う。

 彼女は席に座らずに僕の後ろに直立不動でいる。何故僕の真後ろに立つのか、凄い気になる。観察されているわけではないよね?


 ここには僕を含めて四人いる。


「お昼ごはんどきに申し訳ない。確認しておきたい事があったんでね。すぐに終わらすつもりなので、嘘偽りなく答えてほしい」


 眼鏡のブリッジを少し上げながら副会長が質問する。同級生とはいえ役職に就いているだけあって貫禄がある。実力もある分そう感じるのかもしれないが、となりの生徒会会長らしき女性からは、これといったオーラを感じない。それが少し不気味でもある。

 こちらを見つめてくるだけで、まだ一言も話さない。

 進行役はこの副会長が担ってくれるようだ。


「端的に言うと、君は不正をした疑いがある」

「不正とは?」

「教師陣が最底辺が不正したとか煩くてね。確かめて来いと指示を受けたのさ。勘違いしてほしくないのが、僕は君の事をよく知らないしそれほど興味がない。さっさと終わらせてお昼に行きたいくらいだ」

「奇遇ですね。僕もです」


 僕もあなた達に興味がありません。お腹も空いたのでご飯食べたらまたダンジョンへ向かうつもりなのでさっさと終わらせたい。


腕時計端末ウオッチは、この学校のサーバーに繋がっているため、君がどこで何を倒したのかが一目瞭然なのは、君も知っていると思う。そこで昨日君が潜ったダンジョンは超初級だけで間違いないかな?」

「はい、間違いありません」

「それが変なのだ。超初級には大鬼天竺鼠モルモットしかいない。つまり小鬼ゴブリン兎角とかくは存在しないし、その上仮に、万が一にもいたとしてもだ。君が倒せるとは思えないらしい。あ、これは教師談ね」


 あいちゃんが僕専用にと改造したから。思い当たるのはそれしかなかった。


「では、倒せる強さを証明すればいいのですか?」

「どうやって証明する?」

「え?」

「君が倒せても不正の疑いが晴れない」

「どういうこと?」 


 兎角や小鬼ゴブリンを倒して見せたら問題無いのでは?


「あ、そうか」

「教師陣はモルモット討伐をゴブリンたちを倒したことにしていると思っている。つまりポイントのかさ増し不正を疑っているのだ」

「でも僕はそんな事なんてしていないんですけど……、そもそも腕時計端末ウオッチを使って不正が出来るものなんですか?」

「いや、現状では難しいだろう」

「じゃあ、僕が不正しているなんて――」


「君は話を聞いていたのかい?」


 空気がひりついたように緊張が増す。威圧感がびしびし伝ってくる。飲み物の水面が揺れ、テーブルを少し濡らした。


「すまないね。急いでいるもので、つい興奮してしまったよ」

「……いえ」


 女生徒から台拭きを受け取ってお茶が溢れたテーブルを拭く。副会長の圧力なんてどうってことないように涼しい顔しながらこちらを見つめている生徒会長。まるで何処吹く風の如く至近距離であるはずなのに、威圧すら受けていない様子だ。


「不正をした人間が正直に不正しましたなんて言う訳がないように、教師陣がそれでは納得しないことは君にも理解出来るだろう?」

「では、どうしたらいいですか?」

「決闘システムを使う」

「決闘?」


 佐々木小次郎と宮本武蔵が巌流島で決戦したようなものなのだろうか。決闘と言われれるとどうしても、誇りをかけて命懸けで闘ったあの死合いのような印象がある。

 

「自分自身の名誉や正義を守るために闘いで決着をつける方法だよ。学校側で用意した刃引きした刀を使う。無論、まといを使う分大怪我する可能性はある」

「私とやりましょう、決闘」


 様子を伺うだけで何も言葉を発しなかった会長がここで発言をする。


「生徒と先生との間で決闘は出来ない仕組みになっているから相手は生徒会か執行部の連中が相応しいだろう」

「私では相手にとって不足していますか?」

「そうではありませんが……」


 この流れに誘導されている違和感に考慮したいところではあるが、学年トップの実力者相手に僕の力がどれだけ通用するのか確かめたい気持ちの方が強かった。


「生徒会長にお相手をお願いしたいと思います」

「はい、喜んで」

「では、詳細を決めようか」


 決闘は二日後の放課後。

 会場は学校にある決闘施設。

 武器は学校側で用意した刃引きされた刀剣。

 僕が勝った場合は名誉の回復と願い事を一つ叶えてくれるらしい。負けた時のペナルティは不正を認めることだと思ったのだが少し違うようだ。


「貴方の戦い振りが素晴らしければ、その限りではありません。正々堂々とした振る舞いが不正の疑惑を払拭してくれることでしょう」



**



「笹木さんもありがとう」

「はい、では失礼します」


 女生徒が退室し生徒会長が一人部屋に残った。


「貴女達が言ってるほど彼に魅力は感じないのだけれど?」

「姉様は男を見る目がないから……」

「確かに姉貴はいまいちだよな」

「……」


 だが、この時を待っていたかのように会話が始まる。


「何? 私は慧眼を持っていないと言いたいの?」

「ごく普通のお目々」

「凡眼とも言う」

「首輪をつけてでも逃げられないようにしないといけないのに婚約破棄とか意味不明」

「お前も結構鬼畜よな」

「小姉様も力づくで力関係を思い知らせなきゃとか言ってたけど」

「ストレートに分かりやすくていいだろ?」「……」


 元婚約者の能力評価の件で話し合う。


「決闘の流れに持ち込んだのだけどこれで良かったのでしょ?」

「ええ、姉様が空鵺くうやくんに負けそうになったら私に代わってくれるなら尚良いわ」

「俺の方が先だろ?」

「姉様が負けるなら小姉様も同じ」

「やってみないと分からないだろうがよ。姉貴より俺の方が強いぜ」

「そもそも私が負ける前提で話をしないでもらえるかしら?」

「……」

芙由美ふゆみは終始無言だけど」

「……興味ない」

菜月なつき晶葉あきはにもこの役割を譲るつもりはないわ。貴女達は大人しく見ときなさい」

「順番は姉妹順な」

「弱い順とも言う」

「貴女達いい加減にしないと怒るわよ」

「はは、姉貴が怒った」

「明後日が愉しみ」






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空にもゆる 大神祐一 @ogamidai

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