第39話 エピローグ


 白を基調とした内装に、金や銀の美しい調度品が主張しすぎず上品に並べられたとある一室。

 部屋の中央に置かれたティーテーブルでは女性が二人、ティータイムを楽しんでいた。


「あぁ……やっぱり彼は凄い。いいえ、凄すぎるわ!

 貴女も見たでしょう? ね、ね?? 言った通りだったでしょう?

 たとえあの状態であったとしても、彼なら絶対に突破するって!!」


「あー、わかった。わかったからそんなに興奮すんじゃねーよ。

 いろいろ漏れ出てんぞ」


「あら、これはうっかり。

 うふふ、こんなに気分が高揚するのはいつぶりかしら」


 ドレス姿の女性は頬を紅く染め、うっとりとした様子で思いを馳せる。


「ったく、今日はオレらだけじゃねーんだ。

 しゃんとしろよな、じゃねーと後がめんどくせー」


「そうね、そうだったわね。

 ご機嫌はいかがかしら、


 表情は思わずドキリとするほどの満面の笑顔だが、目がまったく笑っておらず背筋にぞわりと冷たいものが走るダイアブロス。


「はっ……。ミストレアス様は今日も麗しゅうございますな」


「あら、お上手ね。

 今日は無理を言って彼の相手をしてもらって悪かったわね、お陰でとーーーーーっても楽しめたわ」


「もったいなきお言葉」


 ダイアブロスは跪き頭を垂れたまま返事を返す。


「一時はどうなるかと思ったが、まぁ結果オーライだったんじゃねーの?

 とはいえ、仲間と協力してお前を追い詰めるたぁーびっくりを通り越して感動もんだぜ」


「ほんとに凄かったわね。

 惜しむらくは彼の魔法が見れなかったことだけど、魔装って言ったかしら?

 アレには心底痺れたもの」


「あぁ、ほんとになァ。

 正直異常だぜ、あの出力はよー。

 ったく、あんだけ制限てんこもりにしてまだこれってんだから末恐ろしいっつーかなんつーか……。

 やっぱり今のうちに排――」


 鎧姿の女性が話している最中だが、猛烈なプレッシャーが周囲を襲い言葉を途切れさせた。

 さしもの鎧姿の女性もその圧はこらえるようで、取り乱しこそしていないが額に一筋の汗が流れる。


「悪かった、謝るからそれやめろ」


「貴女のことだもの、本気でないことはわかっているわ。

 でも、言っていいことと悪いことがあるの。

 次はない、しっかりと肝に命じておいてちょうだい」


 表情が抜けきった顔で冷たく射貫くドレス姿の女性――ミストレアスに、鎧姿の女性は静かに頷いた。


「わかってもらえて良かったわ。

 それより彼は本当に大丈夫なんでしょうね?」


「はっ、しばらくは時間がかかると思いますが身体のほうは問題ないかと。

 お預かりしておりました天界の霊薬エルエリクサーも飲ませましたので」


「さすがにアレ飲んでどうこうはねーだろ。

 むしろ何普通に飲ませてんだよって突っ込みてーとこだぞ」


 手元に顕現したエルエリクサーの瓶を振りながら、呆れ顔を浮かべる鎧姿の女性。

 彼女の反応からも、この薬がとても貴重なことが窺える。


「バカね、彼と彼の仲間に何かあるより全然良いじゃない。

 あくまであの戦いの目的は彼の雄姿を見ること、ただそれだけだったんだから」


「にしちゃー色々手間かけすぎだけどな。

 あちらさんの用意してたものに干渉した挙句、無許可でこっちのもんを送り込んだんだ。

 ぜってー苦情が来るだろうから、ちゃんと対処しろよ?」


「ふふん、今なら何が来ようと敵なしだから大丈夫よ。

 そ・れ・よ・り・も。

 ダイアブロス、あなたをどう処分したものか決めかねているの。

 どうしたら良いと思う?」


「はっ、いかようにも」


「覚悟は決まってる、ってか。

 ったく、オレが無理やり引き戻したから良かったものの、お前あんときミストレアスの名前を言おうとしてたろ?

 下手すりゃ戦争の引き金になるとこだったんだぞ」


「そうねぇ、気持ちはわからなくもないけどちょっと羽目を外し過ぎたわね。

 私のわがままに付き合ってくれたりしたし、見過ごしてあげたいところではあるのだけれど。

 困ったわねぇ」


 顎に手をあてて首をかしげ、悩んでますアピールをするドレス姿の女性。


「んま、幸い何もなかったんだ。

 とりあえずなんか起こっちまったらで良いんじゃねーか??」


「ほんとにリュミナイトはダイアブロスに甘いんだから。

 お陰で彼が私を思い出すきっかけはできたし、良しとしましょうか。

 もうそろそろころだし、これからもっと楽しくなるんだもの」


「寛大な処遇、感謝申し上げます」


 再び頭を下げ、礼を取るダイアブロス。

 彼を見下ろす二人の視線は、どこか影がありただならぬものを秘めていた――。



 その頃、ライトブラウンを基調とした明るくやわらかな雰囲気に包まれたとある室内。

 そちらでも話し合いが行われており、こちらはやや緊張感が張り詰めている。


「ほんとにどーなってんのよー?!

 ダンジョンが出来たってだけでもてんやわんやなのに、さらに把握できてない帰還者らしき存在がいたぁ?!

 あーもう、勘弁してよーーーーっ!!!!」


 今にも泣きそうな剣幕で、何度も地団太を踏む小さな少女。

 見た目は齢10歳前後と言ったところで、まだまだあどけなさの残る可愛らしい美少女といった風体。


「今回で捕捉できたのは僥倖だったのです。

 現在確認されている帰還者よりもはるかに能力も劣っていたので、取るに足らない存在だと思うです。

 なんかすごく臭かったです」


 そんな美少女に返事をする、緑色のメイド服に身を包む少女。


「そうかもしれないけどぉ……。

 でもでも、把握できてなかったってことがもう大問題なんだよー!!

 転移も転生も帰還も所定のルートを通らなきゃいけないはずなのに、あの子はそこを通った形跡がない!

 こっちから向こうに迷い込むことはあるけど、向こうからこっちに迷い込むことはない以上ほかに道が存在してるってことでしょ?!

 そんなの絶対見つけなきゃヤバいじゃーーーーんっっ!!」


 あーーーーっと頭をわしゃわしゃかきむしり、暴れまわる美少女。


「ほかにはいねーことが確認できたんですから、もーまんたいってやつです。

 それよりあっちの女神に抗議するほうが先です、確実にこれは侵略行為なのです!」


「うー……でもあの女、怖いから話したくないんだよ……。

 普段ほのぼのしてるくせに、ちょっと気に障るとすぐ氷みたいな雰囲気になるしぃ……」


「何言ってやがるです、主様も立場は同等です。

 言うときゃ言わんと、舐められて終わりです!」


「うぅ、こういうときだけ荒ぶるのやめてよぉ……。

 わかった、わかったから! ちゃんと言うから、そんな怖い顔しないでぇ!!」


 メイド服の少女は腕を組み仁王立ちで主様と呼ばれた美少女をにらみつけ、根負けした美少女は手元に透明なプレートを浮かび上がらせると慣れた手つきで操作していく。


『あら、ラテガイアちゃんから連絡くれるなんて珍しいわね。

 どうしたの?』


「あー、いや、その、ね。

 なんかぁー、こっちで把握できてない帰還者が見つかってねー?

 ミストレアスが何か知らないかなーって」


『うーん、ちょっと私もわからないわね。

 ごめんなさい、少し時間をもらえるかしら?

 こっちでも調べてみるわ』


「ほんとっ?! ありがとー!

 そしたらよろしく――」


「何寝ぼけてやがるです、主様起きやがるです!

 要件がズレてるです、こっちの世界への干渉と侵入者について話すです!!」


『相変わらず5号ちゃんは面白いわねぇ。

 そうね、ちょっと久しぶりに話し合いでもしましょうか』


 ミストレアスはそう告げ、二つの世界の女神同士は密かな会合を続けるのだった―――。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


これにて1章完結となります。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!!


当作品は練習用として書いていたものがある程度たまったこともあり、箸休めの意味合いで投稿し始めました。

それがまさかここまでたくさんの方に読んでいただけるとは思っていなかったので、本当に嬉しい限りです。


10月に入るとすこしまとまった執筆時間がとれそうなので、現在連載中の『食べられる魔法?!』の完結までとともにこちらの作品も2章へ進めたいと思っています。

ストック分はもうないため書きあがり次第の更新にはなりますが、2章では異世界側の話が深くかかわってきたりする予定なのでぜひ続けて読んでいただけると嬉しいです。


少しでも面白い、続きが気になると思って頂けたら☆☆☆やフォローで応援いただけるととても喜びます!

みなさまの応援が力になり、執筆のモチベーションにつながるのでぜひ!

以後も更新はしていく予定なので、今後ともよしなに!

別作品もいくつか連載中なのでそちらもよければー!!

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異世界帰りの無能冒険者 ~別に英雄願望はないので、気ままにダンジョンを楽しみます~ 黒雫 @kurona_

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