第38話
ダイアブロスの様子に何かしらを感じた一同は、意を決して踏み込んでみることにした。
「貴方は月涙と初対面のように感じていたのだが、何か繋がりのようなものがあったのだろうか?」
「儂と月涙に直接的な繋がりはないのォ。
強いて言うなら間接的に……といった感じじゃが、すまんがその辺りは話せなくての。
儂の個人的な感情ではあるが、今回のことで大層気に入ったでな。ぜひ贔屓にさせてもらおうとは思っとるよ」
カカッと好好爺然として笑うダイアブロス。
北見はひっそりと心の中で、これだけ話してるのにフルフェイス取らないし、誰も突っ込まないんだけど中身が気になってんのウチだけ?! と思っていたことは誰にも気づかれなかった。
「そういえば……我が主人が戦闘前に、誰かに見られている気配がすると言っていたな。
それはその間接的な繋がりとやらに関連する人物によるもの、ということか」
「ほう……?
儂ですら知っているからこそ気づける程度のごく僅かなものだと言うのに、すぐさま気づくとは流石やりおるのォ。
むしろその状態で
「お爺ちゃんほどの人でもそれだけ配慮する相手って、いったいどんな人よ……」
嫌そうに顔をしかめる北見をぽかんと見たまま固まったダイアブロスは、次の瞬間とても嬉しそうに笑いだした。
「お爺ちゃん……? クカッ、クカカカカカカカカッッ!!
戦一筋で生きてきた儂が、お爺ちゃんと呼んでもらえる日が来るとはのォ。
うむ、確かに悪くないの。むしろ喜びさえ感じる。
そうかぁ、こういうのも確かに悪くないのじゃ……」
染み染みとした様子で語り、わしゃわしゃと北見の頭を撫でる。
当の北見も嫌な様子一つ見せず、髪型が崩れることなどお構いなしに甘んじて行為を受け止めていた。
「梨沙はほんとに年配の人に好かれやすいね。やっぱり根が良い子だからなんだろうなぁ。
……ギャルだけど」
「ちょ、ギャルは関係なくない?! したいかっこしなきゃもったいないじゃん!!」
「クカカカカッ。
うむうむ、微笑ましい光景じゃなぁ。確かにこれを守るためなら、何に替えてもと思うのもうなずけるような気がしてきたわい。
儂がこんなことを思う日が来るとはのォ、人生というやつはわからんものじゃて」
「……私たちもさっきまではあなたとこうして話せるなんて思ってもみなかった。だから人生は面白い」
「そうじゃなァ。うむ、まったくもってその通りじゃ。
この年で新しい発見ができるとは、やれやれ儂もずいぶんと耄碌しておったみたいじゃな」
自重気味に天井を見上げたダイアブロスは、ふぅーと大きく息を吐き出すと真面目な顔で氷緒たちに顔を向けた。
「良いか、みなのもの。
おそらく今回のことで、お主たちは上から目をつけられるであろう。
縁を断ち切られぬよう、強くなれ。何を言われたとて揺るがぬだけの何かを見つけろ。
でなければきっとミーー」
言葉の途中で突然ダイアブロスの背後に真っ黒な穴が出現、
そこから出てきた腕が一瞬でダイアブロスの首ねっこをつかむと、抵抗する間もなく無理やり穴へと引き摺り込んだ。
そのまま穴は何事もなかったかのように消え去り、あたりは静寂に包まれる。
「なんだ今のはッ?!」
突然の出来事にすぐさま臨戦態勢を取る一同。
されど1分経てど2分経てど変化は起きず、警戒は続けたまま武器をしまった。
「お爺ちゃん大丈夫かな……」
心配そうにぽつりと北見が呟くが、答えられるものはいない。
「きっと大丈夫よ、あれだけ強かったんだもん。今はあたしたちも自分のことを心配しないと」
「そう……だよね。うん、ごめんね。ウチらはとりあえずあの扉をくぐれば帰れるのかな??」
視線の先には何も書かれていない扉が現れており、ほかにそれらしいものはない。
前回のような異変もみられないので、おそらくアレが帰還用なのだろう。
そう皆が判断し、頷き合ってからゆっくりと扉をくぐり抜ける。
「ここは……なんだ?」
扉を抜けた先はまるで学校の体育館のような、そんな印象を受ける空間だった。
『おめでとうございます。ボーナスステージを全てクリアされたことが確認されました。
チュートリアルモード終了後、日本区画内にあるダンジョンのみ完全クリアボーナスが適用されます。
また、今回参加いただいた方全てにクリア特典を配布いたします。
これより係のものが案内いたしますので、お好きなものをおひとり10個までお選びください』
壇上のスクリーンに文字が映され、全員が読み終えた頃を見計らい全身を緑色のメイド服に身を包んだ小さな少女がテテテと舞台袖よりかけて来る。
「えっと、まずは完全クリアおめでとございまです。
みんなさんの案内を任されております、メイドちゃん5号と申しますです。
ではみんなさん、ついてきてくんろ~です」
妙な言葉使いをする少女に疑問を抱きつつも、氷緒たちの言葉は聞く気がないようでさっさと進んでいってしまう少女のあとを追う一同。
両開きの鉄扉を抜け、まるで学校の廊下のような場所を進むこと少し。
『1-A』と書かれた教室に5号と名乗った少女が入り、後に続いて氷緒たちも入室すると中には様々なものが展示されていた。
「ここはー、装飾品がいろいろありまです。
もし気になるものがあれば選ぶと良し、なければ次へゴーです」
展示品に説明書きなどはなく、見た目だけで選べと言われてもと悩む一同。
「えっと、5号ちゃんで良いのかな?
正直ウチらはここにあるものを見てもさーっぱりなんもわかんないんだけど、聞いたら教えてくれたりするの??」
「申し訳ねーです、5号も何がなんだかわかんねーのです。
ただ、主様はこう言ってたです。
『てきせーがあれば触れればわかる、わからないものは向いてない』だそーです」
なるほど、と合点がいった一同はとりあえず目を引いたものに手を触れていく。
「……身に着けると風系統の魔法に使用する魔力を減少させる、だって」
「ほう、こっちは身体強化の魔法に使用する魔力を減少させるそうだぞ」
水鏡がフィーリングで選んだのは翡翠色の宝石が埋め込まれた腕輪で、オウマが選んだのは銀色の宝石が埋め込まれたイヤーカフだった。
「ウチはぜーんぶダメみたい」
「あたしはいくつかわかるのがあるけど、他を見ていない以上すぐに選ぶのはちょっと避けたい、かな」
「確かにな。5号殿、ここにはあとからまた戻ってくることができるのか?」
「それは認められてねーです。
判断力、決断力、そして運を合わせもてです」
「一人意識を失ってるんだけど、自分で選べない場合はどうしたらいいの?」
「えーと、ちょっと待ってくださいねです。
……選べないなら選ばない、もしくは代理で選んでもらうのどっちかにです。
部屋は全部でとおつ、とおつ目の部屋を出た時点で10個に満たない場合は権利を放棄したものとみなすのです」
全部言えたぞ! と自慢げに胸を張りながら、にこやかな笑みを浮かべる五号。
だが対照的に氷緒たちは月涙の分をどうするかで表情を曇らせていた。
「目覚めるまで待つのも手だと思うが、ダイアブロス殿の話を聞く限りおそらく現実的じゃないんだろうな」
「……最大の功労者がランダム選択とか、ちょっと申し訳なさすぎる」
「うーん、でも選べない以上何もないよりはまだ良いんじゃない??」
「そうだよね……。月涙くんには悪いけど、一人2個ずつ選ぶのはどうかな?」
「我もそれで良いと思う。それに我が主人なら、おそらくどれを選んだとて使いこなせてしまうだろう」
オウマの言葉になんとなくそんな気がした一同は頷き合い、各自で月涙のことを思いながらピンとくるものがあったら選ぶことにした。
そうして1つ、また1つと部屋を進んでいく。
やがて10つ目の部屋へとたどり着き、全員が思い思いのものを10個ずつと月涙の分も選び終えた頃。
「全員選び終えたみてーです。
得たものを使いこなし、ぜひ来る未来に向けて腕を磨いてくれです。
ではでは、あでゅーです」
5号が小首を傾げながら笑顔で小さく手を振ると、全員が光に包まれ次に目を開いた時には奥多摩上級ダンジョンの入り口前に立っていた。
「帰って来た……ということか」
「……長かった。でも良い勉強になった」
「これでしばらくしたら、チュートリアルってやつが終わるんですよね。ダンジョンはどうなっちゃうんだろう……」
「なんにせよ、今はダンジョンクリアを喜ぼー! いえーい、ウチらはやり遂げたぞぉーっ!!」
「ククッ、北見は元気だな。あれだけのことがあったというのに、本当に大したやつだ」
「……梨沙ちゃん、あとでちょっとお話があります」
「えっ?! あ、綾なんかこわいよ……?
ちょ、ちょっとにじりよってこないで! ほんとに怖いから、ね?!
ウチなんもしてなくないっ?!?!」
北見を追いかけまわす西野を見て、緊張から解放された一同は笑い声をあげた。
これから先もきっと何かが起こるのだろうが、それはそれ。
さらに己を磨き、少しでも何かを掴めるよう努力を怠らずに進み続けようと、改めて決意を固める一同。
なにはともあれ、今はダンジョンクリアの喜びをかみしめ未だ目覚めない月涙を連れて学園へと戻るのだった―――。
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これにて1章のメインストーリーは完結となります。
次回は1章のエピローグを更新し、その次からは2章って感じですね。
ここまでお読み頂き、本当にありがとうございました!
お陰様で総合の週間で100位圏内に入れたり、現代ファンタジー部門では30位圏内に入れたりと、練習用で書いていた作品が多くの方に楽しんでいただけて何よりでした。
少しでも面白い、続きが気になると思って頂けたら☆☆☆やフォローで応援いただけるととても嬉しいです!
みなさまの応援が力になり、執筆のモチベーションにつながるのでぜひ!
以後も更新はしていく予定なので、今後ともよしなに!
別作品もいくつか連載中なので、箸休めにそちらもよければー!!
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