断頭台

フィステリアタナカ

断頭台

 千七百九十年。王国内では、悪政に耐えかねた民衆が王族を倒すために立ち上がった。三か月という月日を得て、国王は捕まり、後は断頭台へ送り込むだけとなった。


 時はその前に遡る。


「何だこの部屋。王族の寝室なら、何かあると思ったが何も無いじゃないか」

「そうだな」

「とりあえず金目の物があったら持ってっちまおうぜ」


 俺は革命軍の一員として、城の中を探索していた。とある部屋に入ると、部屋の隅にベッドが一つあり、その部屋の内装はいたってシンプルだった。一緒に入った革命軍のメンバーに同意し、部屋を荒らして金目の物を探す。


(オルゴール?)


「どうした?」

「いや、何でもない」

「そうか。もう良さげな物はなさそうだな。次の部屋を探すか」

「ああ」


 俺は隣の帝国の紋章が入ったオルゴールを見て、不思議に思っているとベッドの下に人の気配を感じた。


「先に行っていてくれ、俺はもう少しこの部屋を探す」

「そうか? まあ、いいや。あとで分けてくれって言ってもやらんぞ」

「ああ」


 メンバーが部屋を出ていくのを見届けたあと、俺はベッドのところへ行き、ベッドの下に隠れているだろう人物に声をかけた。


「誰かいるのか?」


 もちろん、返事など無い。手に持っていたオルゴールを鳴らし、ベッドの下に置いた。しばらくすると、オルゴールの音は消え、代わりにすすり泣く音が聞こえてきた。俺はまた呼びかける。


「俺は革命軍の一員だ。大人しく出てこい。手荒な真似はしたくないんだ」


 どのくらいの時間待ったのであろう。ベッドの下から、とおに満たないと思われる少女が出てきた。きっと王女なのであろう。


「君は王女様かい?」


 彼女はコクリと首を縦に振る。その姿を見て、俺は思った。この子は何か悪いことをしたのだろうか? 王族というだけで捕まり、嬲られ殺される運命が待っているとは。疑問に思う。果たしてこのまま捕まえてもいいのだろうか? 少女は大切そうにオルゴールを持っていた。


「そのオルゴールは誰かからの贈り物なのかい?」

「……はい」


 彼女と会話をしてわかったことは、このオルゴールは隣の帝国の皇子から貰ったものだそうだ。大事そうにしているということは、その皇子から貰ったということがとても嬉しかったのであろう。そして俺は一つの決断をする。


「このまま死にたくないだろ? また、ベッドの下に隠れてろ。夕方迎えにくる。皇子のところまで連れていってやるよ。その代わり、皇子と結婚したらこの国の為に援助をしてほしい。今日から、政権を手に入れるための戦いが起こり、また多くの民が苦しむであろうから――約束できるか?」


 少女はコクリと頷き、それを見た俺はこの部屋をあとにした。



 俺は旅支度を整え、夕方約束通り少女を迎えに来た。部屋の中に限らず、彼女と旅に必要なものを探す。それから少女と長い旅路を経て、俺は無事に彼女を帝国の皇子のところまで送り届けた。そして、予想もしなかった運命が待ち構えていた。

 送り届けたあと、俺は捕虜として捕まった。革命軍への政治的材料として投獄されたのだ。こんなことは想像もしていなかった。


 革命軍の中での政権争いが終わり、帝国の王である皇帝は俺を使って、革命軍へ交渉を仕掛けた。もちろん革命軍はそれに応じることなく、俺は処刑されることへ。



 その日はとても良い天気だった。空高く青空が広がり、それを見て神に祈った。「祖国の民が苦しみませんように」と、そう思いながら断頭台へと足を運んだ。断頭台で頭を押し付けられ、両手も固定される。目を閉じて、オルゴールの音色を探すが、聴こえてくるはずもない。


 鞭で打たれたり、石を投げなられたりする目に遭わなかったのは、まだマシなことだったのであろう。処刑人の声が聞こえると、首に痛みが走った。「ああ、処されたのか」そう思い、閉じていた目を開けてみる。そこで見えたのは、首と手のない自分の体と青空にある白い雲だった。

 血がどんどん無くなっていくのがわかる。再び目を閉じると、温かくも穏やかな気持ちになった。


 魂が宙を浮く。天使の梯子が見え、上空へと向かっているのがわかった。下を見てみると城が見える。そしてその城のバルコニーには泣いている一人の少女がいた。


「約束を果たしてくれよ」


 俺は祖国を思いながら、その少女に思いを託した。

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