タイムマシンで大型新人

ちびまるフォイ

オーバーテクノロジーの参入

「というわけで、土日出勤してくれないかな。

 もちろん振替休日はあるから」


「いや無理です。土日はゆっくりしたいんで」


「でもうちの会社はサーバー管理。

 土日でもちゃんと監視しなくちゃいけないし」


「それこそロボットでいいじゃないですか。

 どうして人間が土日に出勤して、

 ただじっとサーバーを見てるんですか。拷問ですか」


「もし止まったときは人間がなんとかしないと……」


「だから、その場合もロボットがなんとかできるようにするべきだって話をしてるんです」


「しゅん……」


そんなわけで今回の土日のサーバー監視も自分となった。

おかげで200連勤を達成してしまった。


「はぁ……今の若い子はプライベート優先で

 ちっとも仕事に身を裂いてくれない。

 私の若い頃はもっと頑張ったものだけどなぁ……」


時代の変遷を感じつつも、家に帰れずサーバーを見守るだけの時間。

ふとあるアイデアが浮かんだ。


「……そうだ、現代の新人が使えないなら

 私の時代。そう、高度経済成長から新人を雇おう!」


人材サイト『ミラインディード』から新人募集をかけると、

やってきたのは高度経済成長モーレツ社員。


「というわけで、今日からこのサーバ監視課で

 一緒に仕事をする"猛烈くん"だ。よろしくね」


「よろしくおねがいします!」


今の新人にはない活力に満ちた目をしている。

これは期待できそうだ。


「それじゃ今週の土日なんだけど……」


「仕事をさせてください!」


「お、おお……それは助かるよ。

 でもどうして?」


「新人のうちは進んで苦労するべきです!

 そうして得た下積みがのちのちの成功につながるからです!」


「すごい……! なんて前向きなんだ!

 やっぱり企業戦士というのはすごかったんだ!」


やっぱり採用をするなら過去に遡ったほうが良いんだなと痛感。

猛烈君は、毎日残業をし土日も進んで仕事を受けてくれた。


自分も悪しき200連勤記録を途切れさせることができた。


が、すぐに社長に呼び出しされた。


「〇〇君、新人を雇ったそうじゃないか」


「ええ。猛烈くんですね。彼はすごいですよ」


「その彼について内部からリークが来ている。

 彼をあまりに働かせすぎだろう、とね。

 このままでは過労死するかもしれない、と」


「いえ、彼は自主的に」


「自主的に仕事をさせたからといって、

 彼に死なれては会社の問題になるだろう」


「ぐぬぬ……」


モーレツ社員はあまりに頑張りすぎるので、

スマートかつ最高効率で仕事をする現代の職場環境には不釣り合い。


それどころか毎日残業するもんだから、

他のひとが定時で帰りづらくなるというクレームもあった。


猛烈が別の課へ異動することになると、また新しい人材採用が必要となる。


「昭和の企業戦士は現代には合わないのか。

 従順でがんばりやさんな人材はないものか……」


また採用サイトを巡回していると、これはという人材を見つけた。

出身年代はモーレツ社員よりもさらに前だった。


「では紹介する。新人の"戦時せんときくん"だ」


「戦時であります!! よろしくお願い奉ります!!」


「声デカイなぁ」


「自分は!! 戦後から来ました!!!

 至らぬ部分もあるかもしれませんが!!

 必ずや!! 鬼畜バグ兵どもを駆逐し!!

 日のイズル国に勝利を持ち帰ります!!!」


「思想が物騒!!」


モーレツ社員のような頑張り具合をキープしつつ、

あくまでも上司には従順な戦時くんはよく働いた。


よく働きはするが、問題はすぐに発覚した。


「戦時くん……あの、良いにくいんだけど……」


「なんでありますか!!」


「なんで毎回手作業でコピーしているの?」


「はっ!! それはコピーの過程で

 自分の目でミスを防げる可能性があるからです!!」


「いや、機械だからそんなことはないんじゃ……」


「お言葉ですが!! 自分は戦時において、

 さまざまな機械トラブルで命を落とした盟友を知っております!!

 なので、こうしてミスがないよう自力でコピーしております!」


「うん……が、頑張ってね……」


「ありがとうございます!!!!」


戦時くんはめちゃめちゃ仕事が遅かった。

丁寧ではあるがあまりに遅すぎて戦力にならなかった。


あまりに現代と時代が離れすぎても、

現代テクノロジーや文化とのギャップで

本来のポテンシャルが生かせないのかもしれない。


戦時くんはまた別のチームに異動となり、新しい人の採用が始まる。


「まいったなぁ。いくら過去の人材を探しても

 コレって人がいないなぁ……」


ぶつくさ文句言っていたからか、

採用サイトには新しいジャンルが生まれていた。


「こ、これは!? 未来採用!?」


一も二もなく飛びついて、新しい大型新人がサーバー監視課へ配属となった。


「みなさん紹介です。

 彼が今日からここへ配属となる"栄愛さかえあいくん"だ」


「ッす」


「え? 声ちっちゃ!」


「あんま、人と話さないんで。うっす」


「ま、まあよろしく頼むよ」


「ッす」


「大丈夫かなぁ……」


未来から人を採用すれば、現代よりも優れたテクノロジーを持つ。

最初からアナログでやみくもに頑張る過去よりも、

未来から新人を雇ったほうがよかったと思った。


それは栄愛くんの働きぶりを見て明らかだった。


「ここはAIにまかせて、ここもAIに任せる。

 こっちはAIにまかせて、ここは課長に任せる」


「す、すごい……今日の仕事がものの数分で……!」


「いつまでパソコンなんていう箱にたよってるんですか。

 いまどきVRPCで、AIコンシェルジュ使ったほうが早いでしょ」


「ごめん、ちょっと何言ってるかわからない……。

 それともうひとつ、今日の土日なんだけど」


「サーバー監視っすか」


「うん、そうなんだよね。人が見なくちゃいけなくて」


「じゃあ、こっちに任せてください」


「え? 意外な返答。断られるかと思った。

 土日に会社に来てくれるんだね!」


「いえ来ません」


「ん???」



「僕のデジタルアバターとAIに働いてもらいます。

 緊急対応マニュアルは自動入力装置に連動させて、

 このツールとあのツールと、未来のコレコレを接続すれば

 人間が対応しなくたってどうにかなりますよ」


「しゅごいっ……///」


「フッ。今どき人間が働くなんて古いですよ。

 これからは機械が働き、機械がそれを監視する。

 人間はさらに上位で監督機械が動くのを見ていればいいんです」


「君のような人材を待っていた!!」


未来から人を採用したのは大成功だと思った。

休み前に新人は見たこともない機械をセッティングした。


きっとあれが監視ロボットや問題が起きたときのサーバー対応ロボ。


それ以外はもうなにやっているのかわからないくらい

大量のロボットとAIとソフトウェアが大量に仕込まれた。


「これで土日も完璧っす」


「最高だ!! ありがとう!!」


万全の体制にして週末を迎えた。


今週くらいはゆっくり休もうと目覚ましの時計を抜き、

布団をかぶって睡眠を抱き寄せた瞬間だった。


仕事の電話が飛び込んできた。


「ええ!? うちのサーバーが止まってる!?」


『そうだ! さっきから応答してないぞ! どうなってる!』


「そんなことあり得ません!

 あれだけ事前に準備して設定したのに!

 サーバーが止まってもリカバリーも仕込み済みでした!」


『なのに現実としてサーバーが停止してるんだ!!』


「そんな馬鹿な……」


いったい何が原因なのか。

あれだけ未来ツールを仕込んでも何か見落としがあったのか。


すると社長は最後に付け加えた。


『ただ、一つ気になることがあってな』


「気になること?」




『君のオフィスの電気代がすさまじいんだが、

 なにか心当たりはあるかね?』



「あっ」



原因にあたりがついた。


今ごろ会社ではブレーカーが落ちたオフィスで

悲しそうに監視ロボット達が軒並み停止していることだろう。

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