第9話 機巧少女は後悔しない
舞姫視点
突然ですが、少し前の私は暴力というものに有用性を見出していませんでした。
何故なら、他者を傷つけるということは社会的な生産性を著しく低下させるだけでなく、円満なコミニュケーションの妨げになると考えていたからです。
人間の心を学ぶ上という目的を持っている私としては、コミニュケーションに支障が出るのは望ましくありません。
故に、私は暴力を不要な存在だと切り捨て選択肢から除外していました。
知能の低い獣と違って人間は複雑な思考が可能であり、どんな相手であれ言葉を交わすことで問題を解決出来る生き物だと判断していたからです。
ですが、それは誤った認識でした。
そのことに私が気づいたのは私が小学四年生の時です。
『ねぇねぇ、機本さん。これやってくれない?ちょっと今日私忙しくてさ。すぐ帰らないと行けないの』
『分かりました。そういうことでしたら引き受けます』
当時、私は女子生徒から何かと頼られることが多くなりました。
理由は、私が殆ど断ることをしなかったからでしょう。
誰かに頼まれれば私は即座に首を縦に振っていました。
こういった頼み事を引き受けることで、相手から信用を得ることができ、いずれその人間の様々な一面を見ることが出来ると考えたからです。
その少し後、この私の考えは正しかったことを知ります。
しかし、それは良い意味ではなく悪い意味で。
『機本さん。これやっといてよ。どうせ暇でしょ?』
『すいません。今日は用事があるのでお断りします』
『はぁ?そんなの知らないしやっといてよ。みいちゃんも今日は大事な歌のレッスンがあるの。だから、やっといて』
周囲の人間は私のことを頼まれたら何でもこなす都合の良い人間であり、自分よりも立場の低い人間だと認識するようになったのです。
結果、このように私の用事などお構いなしに無理矢理頼み事をさせられることが増えました。
『こら、なんで機本さんだけが掃除しているの!?』
『だって機本さんが掃除したいっていうから。私達はさせてあげるだけだよ。ねぇーみんな?』
『そうですそうです』
『機本さんそれは本当なの?』
『い『本当だよ先生。ほら、これ証拠のボイスレコーダーペン。ちゃんと、したいって言ってるでしょ?』……』
さらに、エスカレートしていき最終的に私は自分の意見を主張することすらも出来なくされてしまいました。
そして、トイレ掃除などの汚いことをさせられたせいで『ドブ女』、『全自動掃除機』などの渾名がつけられて、軽蔑の視線を向けられるようになりました。
ここで、私は彼らと円滑なコミュニケーションが取れない状況にあることを自覚しました。
以前のように対等な関係を気付かなければ。
そう考えましたが打つ手がありませんでした。
何故なら、私は既に自分の意思を主張することも許されない
発言をすることも許されなかったのです。
どうすればいいのか分かりませんでした。
もう、過去に戻ってやり直すしかないと考えてしまうくらいに私は追い込まれていました。
そんなある時、仲人が現れて道を示してくれたのです。
『おーい!ドブ女。ここにうんこが落ちてるぞ。拾えよ』
『おい、たらたらすんな。お前の仕事だろがドブ女』
『……』
『てめぇら、舞姫になにしとんじゃ!こらぁぁぁぁーーーー!!』
いつものようにクラスメイト達から弄ばれていると、仲人が突然乱入してきたのです。
そして、私を弄んでいた人間達を全員にゲンコツを喰らわせていきました。
『いってぇ!なにすんだ、こいつ』
『お前らが馬鹿なこと舞姫にさせてるからだろ!うんこ素手で拾わせるとか人間のすることじゃねぇよ馬鹿野朗!』
『ドブ女なんだからそんくらい普通だろ?身体もうんこで出来てるなかって臭くて汚いんだし。っだぁ、なんでまたぶつんだよ』
『黙りやがれ!これ以上舞姫のことを馬鹿にするならお前ら全員ぶん殴るぞ!』
さらに、反抗するクラスメイトがいれば男女関係なく何度も拳骨を喰らわせ黙らせてしまいました。
『お前ら全員クソ野郎だ。舞姫はお前らの都合の良いおもちゃじゃねぇ。舞姫はお前らのクラスメイトだ。クラスメイトにうんこ触らせたり、宿題押し付けたり、掃除を押し付けたりするのはただの畜生でしかない。てめぇらはドブ女以下のクソカスゴミうんこ野郎だ』
そして、クラスメイトを見渡しそう怒鳴りつけた後、仲人は怒りの形相そのままに私の方へ向き直ります。
その後、彼の言い放った言葉は私の今後に大きな影響をもたらすものでした。
『舞姫も舞姫でこんなになるまで相手を調子に乗せてんじゃねよ!馬鹿が!舐められてるからこうなんになるんだよ!駄目な時は駄目だって言え!無理なら無理だってハッキリと断れ!相手の事情があろうとこっちの事情があるならそっちを優先しろ!相手が言うことを聞かないならぶん殴って黙らせろ!お前は何も言わない機械じゃねぇ!機本舞姫っていう立派な名前がある女の子だ!だから、しっかり自分の主張を持って、そんで示せ!周りに絶対流されるな!そのために暴力でも何でも使えるもんは使え分かったか!?分かったらやってみろ!』
『私は……私は!貴方達の都合の良い機械ではない!だから、これ以上好き勝手私に面倒ごとを押し付けたり、意思を勝手に捻じ曲げることは許しません。でなければ、私はお前達をこの壁のように破壊する』
ドカンッ!
『『ひぃーーー、ごめんなさーーい!』』
仲人の言葉に導かれるように私は行動を起こした結果、私のことを馬鹿にしていたクラスメイト達の見る目が変わりました。
軽蔑から怯えの篭ったものへ。
決して良いものとは言えないでしょう。
ですが、この日を境に私の立場は改善し無理な頼み事を押し付けられることはなくなり、また馬鹿にされることもなくなりました。
この事件をきっかけに、私は暴力の有用性を認めました。
自分のことを格下だと思っている相手と対等な関係を築くため、また自分の意見を押し通すための有効な手段として、大切な存在を守るための手段としてインプットしました。
「黙れと言っている。警告が聞こえていなかったのですか?これ以上仲人のことを悪く言うなら実力を行使します」
そのため、現在私が拳を振るったのは自分の主張を押し通すためです。
仲人の悪口を聞きたくないという私の幼稚な我儘を押し通すために、私は暴力に手を染めたのです。
しょうもないことのためだと思いましたか?
ええ、私もそう思います。
ですが、仲人に言われたのです。
『自分の主張はしっかり持て。そんで示せ』と。
だから、私はこの選択が間違いだと思っていませんよ、仲人。
なのに、貴方は何を『やっちまった』みたいな顔をしているのですか?
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『機巧人形:マシンドール』でも、幼い頃から一緒に居れば幼馴染と言えますか? 3pu (旧名 睡眠が足りない人) @mainstume
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