ヤンデレさんは一緒に眠りたい


「もうこんな時間……貴方と一緒だと時間があっという間に過ぎてしまう」


「こうやって一生が過ぎていくのかもしれない」


「貴方と一生、そんな時間を過ごしたい。過ごすの、ここで」


「眠る時も離れずにそばに居て、目が覚めた時にはお互いの顔を最初に見る」


「そうしたら寝ている間に死んでしまったとしても、最後の記憶はお互いの顔になるから」


「だから、いつでもいいよ?」


「お風呂で練習したから出来るよね」


「貴方にだったら受け入れられるから」


「そして貴方はこの部屋で朽ちていく……最後に言葉を交わしたのも、触れ合ったのも私。貴方の心には私だけが残るの」


「それってとても純粋な想いだと思う」


「……でも、それは今日じゃないかも。今日は癒しの日だから」


「仰向けになって?私も隣で寝る」


布の擦れる音と共に横になる貴方の側へ、彼女も横たわり同衾する。


「今夜は胸元で貴方の頭を抱いて眠るの。心音は癒しになると見たから」


そう言って彼女は貴方の頭に腕を回す。

心臓の鼓動が聞こえてくる。


「あと胸を叩く……強くじゃない、優しく」


トン、トンと貴方の胸へと彼女の手が優しく落とされる。

心臓の鼓動に合わせて、緩やかに。

そして声は顰めて囁くように。


「これで貴方は安らかに眠れるはず」


彼女の鼓動と貴方の胸を叩く音。

それらが貴方を包み込む。


「あとは……寝るまでお話、とか」


「話したい事はたくさんあるの。どれだけ貴方の事が好きなのか、いくらでも話せるけど眠れなくなっちゃうから」


「でも、少しだけ」


「貴方の事が好き……好きなの。好き、好き、好き、好き、好き」


「私、本当は何も出来ないダメな人間なの。でも貴方を好きになってから、いろんな事を頑張れるようになった」


「これは恋の力?貴方のおかげで毎日が輝いている」


「全部、全部全部ぜんふぜんぶ……貴方がくれた幸せなの。貴方は私を幸せにしてくれる人……だから生きているだけで素晴らしいの、価値があるの」


「社会で生きていくのは辛い事……でもここでならそんな心配はない」


「ただ私の側に居てくれるだけでいい。貴方の全てを私が肯定するから」


「ご飯を食べられて偉い、お風呂に入れて偉い、トイレに行けて偉い、私の帰りを待てて偉い、呼吸が出来て偉い、今日も生きていて偉い」


「貴方はとっても頑張っているね。だからこうして抱きしめて褒めなきゃいけないの」


「だってそうでしょ?そんなに素敵な姿を見せてくれているんだから、私も貴方に贈り物をしないといけない」


「だから私は貴方を守る事にしたの。辛い事、悲しい事が無いように」


「外にどんなに辛い事があっても大丈夫……私が守るから。怖くなったら抱き締めて慰める。不安だったら泣いてもいいから」


「私が全部包み込むから、心の全部を私に見せて」


「不安になる事はひとつもないの。私がちゃんと、全部見てるから……」


貴方をあやすように、彼女は胸をポンポンと叩く。


「辛いね、怖かったね。でももう心配ないから。私が側にいるから、全部吐き出して」


「スッキリしたら、あとは溶けるように……深く深く眠るの。眠っている間も大丈夫、怖い夢を見ないように私が寝顔を見ているから」


「心地の良い布団の中で、なんの心配もない明日を迎えるの……」


「よし、よし……息を深く吸って──吐いて……」


「次は全身の筋肉を緩める。足の先から徐々に力を入れて、抜く……」


「布団に体を預けるの。何も緊張する事ない」


「私はここに居るから」


彼女の鼓動のリズムが貴方を優しく安眠へと導く。


「寝ている時も、一緒」


「……おやすみ」






「外で貴方を待っている人なんて、もう誰も居ないんだから」


「ずっと……離さない」

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貴方の事が大好きで監禁までしてしまったヤンデレさんによる癒しタイム @aitake_utsuku

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