ヤンデレさんは耳かきでイチャつきたい


「約束だから、貴方を癒す。ベッドで横になって」


貴方は促されるまま、ベッドの上で横たわる。

すると頭のすぐ側に彼女が座った。


「大きなベッドは夢だったの。貴方と2人並んで眠ったり、こうして触れ合う為の場所」


彼女の手が、貴方の耳に優しく触れてこそばゆい感覚を与える。


「耳かき、好き?」


「私は貴方にしてみたい。私の声がよく聞こえるように、綺麗にしたい」


「これが貴方の癒しになるなら……うん、分かった」


「じゃあまずは右から。上に向けて?」


貴方は体を転がして、右耳を上に向けるよう左を向く。

すると彼女も準備を整えているのだろう、ベッドサイドから何かを取り出した。


「貴方が癒しが欲しいって言った後、色々調べたら耳かきの事を見つけた」


「耳かきセット、用意はしていたの。貴方はどんな事が好きなんだろうって沢山考えていたから」


「いい機会だから使ってみようって。そう思ったの」


「じゃあ、始めるね」


「まずは外側から。この為に洗浄ローションを買ったの。綿棒に浸して、溝をなぞる」


貴方の耳介に綿棒が当たり、湿った音が至近距離から聞こえ始めた。


「ゆっくり……丁寧に。ふふ、細かい作業は好き。掛けた手間が報われるのも、好き」


「こうして過ごす時間も……貴方を手に入れる為に掛けたものの事を考えれば、いっそう素敵に思えるの」


「はい。次は乾いた綿棒で拭き取る」


続いてサラサラとした音と共に綿棒が耳介をなぞる。


「これで外側は綺麗になったね。次は中」


綿棒とは異なる硬質な音が貴方の耳へと入って来た。


「カリカリ、カリカリ……どう?気持ちいい?」


「こうやってオノマトペを言うと小さい子供をあやしてるみたい」


「顔、緩んでる。ふふ、安心できるならいいけど」


右耳から音が止み、耳かきが取り出される。


「はい。きれい、きれい」


「大人しく出来てえらいね」


彼女が貴方の頭を優しく撫でる。


「じゃあ、次は左だね?はいゴローン」


「上手、上手」


「流石に恥ずかしかった?ごめんなさい。耳かき、するね」


右耳と同じように最初は耳の溝をなぞる湿った音だ。


「耳のこの凸凹の形は人によって違うって知ってた?これは貴方だけのオリジナルなの」


「指紋と同じように、貴方を証明する固有の紋様」


「だから例え貴方が耳だけになたとしても、それが貴方だって分かる」


不意に近づく彼女の吐息が耳を撫で、囁き声がこそばゆく響く。


「私はこの形、頭の中にしっかりと焼き付けているからね」


貴方の顔の横から彼女は離れ、凹凸をなぞる綿棒の音が乾いた音に変わり、楽しげな鼻歌が聞こえる。


「ふんふん〜……んふふ、今とても幸せ」


「貴方の全身をくまなく触りたいの。だから今日は耳に触れられたから、満足」


「ここに触れるなんて、よほど親しい仲じゃないとありえない。それこそ……恋人、とか」


「信頼があるから触れる場所だって思うと嬉しくなる」


綿棒から耳かきへと持ち替えて、外耳道の掃除へと移る。


「だって仮に私が今、この瞬間にやろうと思ったなら。魔が差したなら……」


カリカリと外耳道を掻く音の向こうに彼女の声が聞こえる。


「鼓膜を破って、その向こうを掻き回す事だって出来る」


変わらず、作業の手は止まらない。


「それなのに私に無防備な姿を晒す貴方のところが好き」


「これって信頼でしょ?私、知ってる」


「はい、綺麗になった」


「うん……例え汚くても貴方を愛する事は出来るけど、まっさらな貴方を私で染め上げる事をしてみたいの」


「例えば──」


貴方の鼓膜を綿棒とは異なる水音が叩く。

耳元で鳴るそれの元は彼女の口だ。


「こうやって耳を舐めてみたり」


舌と吐息が重なる侵襲的な音が貴方を聴覚を支配する。


「ん……貴方の味がする」


続いてじゅう、と吸い上げる音。


「吸ったりして」


「耳かきについて調べたら、舐めたり吸ったりするのが癒しだって」


「でもそれってなんだか……エッチじゃない?」


「こういうのが好きだったの?でも貴方が好きなら幾らでもやるから、してほしくなったら言って」


「──じゃあ、次は噛むね」


「……あぐ」


「ぐっ──ぎ、ぃ」


「ふふふひひ……貴方の味がした。軟骨みたいな硬い食感と、耳たぶはグミみたい」


「自分の食レポをされる気分はどう?本気なら噛みちぎれるかも」


「ふふふ、冗談。少しだけ、魔が差したの」


「ふぅー……」


噛まれた貴方の耳を吐息が優しく包み込む。


「耳かき、とても楽しかったね。貴方はどうだった?」


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