ヤンデレさんはマッサージがしたい
「次は湯船。しっかりと暖まって」
体を洗われた貴方は、背後からピッタリとくっつく彼女に抱かれながらゆっくりと湯船に入る。
お湯が溢れて流れる音がする。
「そう……ゆっくり、ゆっくり」
「温度はどう?問題ない?」
お湯を手で掬った彼女が貴方の肩口へと優しく掛けている。
チャプチャプと、水面でお湯が跳ねた。
「こうやって密着して、暖かいお湯に包まれていると貴方とひとつになったみたい」
「体の境界がお湯に溶けて曖昧になって……混ざり合う」
「リラックス出来る?暖かくするのは良い事。入浴剤の香りもリラックス効果がある。これが貴方の癒しになればいいけど……」
彼女の手が、お湯を掻く。
「そうだ。マッサージをしましょう」
「血行が良くなる、リンパの流れが良くなる。貴方は癒されて、私は貴方に触れられる……素晴らしい事」
ペトリ、と肌と肌が当たる湿った音が鳴る。
彼女の手が貴方に触れた音だ。
「首からやっていく……ふふふ。ここは好きな場所。手を回して軽く力を入れれば、空気と血が流れているのが分かる」
「貴方の大事なモノを手にしているのが実感出来るの。ここに居るんだ、まだ生きているって安心する……」
「貴方はどう?私に触れた時、そんな事を考える?……そんなに固まっていたら分からない」
「でも大丈夫。今から揉みほぐすから」
彼女の指先が、手のひらが適度な圧力で貴方の首を上り……下る。
「分かる?首を通る血の流れが。お風呂で温まった血液が胸から、首へ……頭まで」
「暖かさが広がるのを感じて、心臓の鼓動に身を任せて、リラックス……」
「上手だね。ちゃんとリラックス出来てる」
「首や肩が凝ると頭が痛くなる。ここの流れが滞らないようにしたら……すっきりすると思う」
「次は肩……ここも凝ってるね。テレビやスマホやパソコンを長時間見ているとどうしても凝ってしまうから。でも楽しいから、やめられない」
「もしまた凝っても、私がこうしてマッサージをしてあげる。毎日、毎日……」
マッサージを行う彼女の手が更に下り、お湯の水面に触れて音が鳴る。
淀みなく、マッサージの手は止まらない。
「肩の力を抜いて、私に全て委ねて……ここがほぐれると、とても暖かいの」
「ん、痛い?ごめんなさい、少し手応えがあったから」
「でも痛がる貴方も良かった」
更に手は下り、掬い上げたお湯を貴方の胸へと流し掛けながらのマッサージへと移る。
「次はデコルテ。リンパ節やリンパ管が集まる場所だから、重要な所」
「……実はマッサージは勉強し始めなの。貴方に快適に過ごして欲しくて」
「料理もそう。これってなんだか……お嫁さんみたいだね」
不意に手が止まり、背後から吐息が伝わる。
「……少し、恥ずかしい事を言った」
「でも、その……貴方はどう思う?」
「ふふふ……どちらでもいいの。せっかくだから私にもマッサージして欲しい」
背後で彼女が動く水音が聞こえる。
「背中、お願い」
貴方は促されるままに手を伸ばした。
「さするようにして圧を掛けて。上手くやれなくてもいいの。貴方に触れてもらえるだけで嬉しいから」
貴方が手に力を込めるたび、気持ち良さげに彼女の吐息が漏れる。
「ん……上手だね。肩甲骨の辺りも、強めに」
「痛っ……ぐ、っう……でも、滞っていたものが流れる感じがする。きっと肩も、痛いかも」
「大丈夫だから肩もお願い、ふぅっ……!」
貴方が手を滑らせて彼女の筋肉に指を沈める程、痛みに悶える声が溢れる。
「中々、凝ってっ!たみたい、だねっ!?……楽しんで、ない?」
「私の反応を見て触り方とか、触る場所を変えている……ふふふ。いいの責めてない、むしろ嬉しい」
「痛みだって貴方に貰えるものだから。だからもっと、痛くして」
「じゃあ……次は首」
そのまま肌を僅かに押し込みながら手を上へ。
するりと滑る音がする。
「もう少し上の方……そこ」
「違うよ。そうじゃない。手は添えるんじゃなくて……手のひらで首を包み込むように、回すの」
「そう、そのまま力を込めて。いいから、やって」
「そうだよ上手。力、もっと入れて?」
「足りない。もっと」
「ぐ……ぅ!」
「もっと!」
「う゛あ……」
「っ……っ!」
「──っと」
「も゛っ……と!」
「あ゛ぅ」
「──!」
「がはっ!……はっ!はぁっ!……ふぅっ、ふう……」
窒息から解放された彼女の荒い呼吸が浴室内で何度も響く。
「……途中でやめたら、意味ないよ」
荒々しい息遣いで浴槽の淵へと寄り掛かり、体を休めながら彼女は水面を弄ぶ。
「ふふふ……温かくて、とても心地良かった」
「貴方はそうでもなかった?なら、後でたくさん癒してあげる」
「きっと緩急があった方が気持ちいいから」
「うん。十分温まったね、熱いくらい。のぼせない内に上がりましょう」
彼女が湯船から立ち上がり、大きな水音が鳴った……
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